忍者軍団(予定)
この時代の忍者というのは固定給ではなく、成果報酬らしい。つまりは有用な情報を持ってきたり破壊工作に成功したりしたらお金を払うと。
もちろんそれだけでは生活できないので、普段は商人をしたり、山伏をしたり、盗賊をしたりして生計を立てているらしい。
ちなみに山伏というのはそれ自体がお金になるわけではなく、手紙などを運んでお金をもらうそうだ。宗教関係者は比較的簡単に関所を抜けられるらしいし、いざとなったら『修行』で関所のない山道を突き進むと。
副業で商人や山伏をするのはいいけど、問題は盗賊だ。
妻である私の評判は、夫である三ちゃんの評判に繋がってしまう。
つまり! 私が盗賊(を副業にしている忍者)を雇っているとなったら、三ちゃんにも悪評が立ってしまうのだ!
『……主様が今さら悪評を気にするのですか?』
≪おぬしは悪評が服を着て歩いているようなものだろうに≫
どういうことやねん。
友人二人からの評価は後々問い糾すとして。私が雇うからには盗賊なんてさせられないし、普通に生活できるだけのお給料を渡さなければ。
ふっふっふっ、大丈夫大丈夫。
堺の大桟橋の関税で不労所得は確保しているし、撰銭屋で荒稼ぎできる予定。というか今井宗久さんと小西弥左衛門さんのビタ銭を交換しただけでかなりウハウハなのだ。忍者の十人や二十人くらい雇っても何ともないですよ?
『……フラグ立てましたね』
ボソッとつぶやくプリちゃんだった。フラグって、何が?
疑問に思うけど、あまり長時間黙っていると(念話中は第三者からは黙っているように見えるのだ)三太夫さんに怪しまれるので、とりあえず雇用条件を提示してみることにする。
「そうですね。まずは基本給ですが、このくらいでどうでしょう?」
月給を紙に書いてみると三太夫さんは首をかしげてしまった。
「きほんきゅう、ですか?」
あー月給っていう概念がないか。
「一ヶ月にこれだけ払いますよ」
「……成功報酬ではなく、ですか?」
「もちろん、成功報酬は別にお支払いします」
「なんと……!?」
「さらには諸経費も支払いましょう」
「処刑費?」
なんだかとっても戦国時代っぽい漢字変換があったけど、気づかなかったことにして。
「たとえば、仕事に使う武器を購入したときの代金。目的地までの旅費。相手の買収費や、仕事中のケガの治療費、さらには死亡時の弔慰金も支払いましょう」
「……神はここにおられたか」
感動したようにわなわなと震える三太夫さんだった。なんか知らんけど薬師如来から神様に格上げされたらしい。いや如来と神のどっちが上なのかは知らんけど。
『……本地垂迹説を信じるなら、神も仏も同一なのでは?』
≪あんな後付け設定を語ったところで意味はなかろう? そもそも薬師如来は素盞鳴やら春日権現やらの本地が多くてややこしいしな≫
『なら仏と神が別物だと仮定しまして……。どちらが格上か、と考えるならやはり『唯一神』の方が上なのでは?』
≪この国は多神教だろう? そもそもあっちのお偉いさんは『神』というより『主』と表現した方が適切だろうに。多神教の国で『神』という字を当てるからややこしくなるのだ。というか『神』であれば十二神将は薬師如来に仕えておるしな≫
『ならばまず『神』とは何かを決めるのが先ですか……』
真面目な顔で議論するプリちゃんと玉龍だった。
もちろん三太夫さんには二人の議論は聞こえていないので、こっちはこっちで話を進めてしまう。
「そのような好条件であれば、伊賀の里からも希望者が殺到しましょう。百人……いえ、二百人は確保できるかと」
「…………」
にひゃくにん?
忍者ってそんなにいるの? 伊賀だけで?
いや十人や二十人なら問題ないとは思ったけど、さすがに百人二百人となると予算的に厳しいかなーって。
『早速のフラグ回収、お見事です』
そういうことだったんかーい。
くっ、さすがにお金がピンチ。しかし今さら『いやそんなには雇えませんわ』とは口に出せない! こっちにもプライドってものがあるのだ! ええい! 全員雇ってやろうじゃないですか!
『また自分から地獄に突き進む……』
私がいつ地獄に突き進んだというのか。……はい、今ですよね。すみません。




