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【2巻 4/15 発売!】信長の嫁、はじめました ~ポンコツ魔女の戦国内政伝~【1,200万PV】【受賞&書籍化】  作者: 九條葉月
第5章 嫁取り物語

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プリちゃん憤る


「――拙者、主君である長野業正様から密命を受けておりまして。諸国を回っているうちに『薬師瑠璃光如来様』の噂を聞きつけ、こうして美濃までやって来たのです」


 加藤段蔵さんが説明してくれた。

 薬師如来扱いはもう今さらなので諦めるとして。その密命とは?


「……我が主は甲斐の武田信玄(晴信)を危険視しておりまして。共に武田信玄と戦ってくれる者を探している最中なのです」


 まぁ、武田信玄って『お前遠征しすぎだろ』って突っ込みたくなるレベルで隣国に攻め入るものね。最終的には結構な版図を築き上げるし、優秀な戦国武将なら今の時点で危険視しても不思議じゃないか。


 しかし、共に戦ってくれる者ねぇ。

 つまりは信長包囲網の武田信玄版と。


 ……正直、難しいのでは?


 長野業正のいる上州以外だと、もうすぐ甲相駿三国同盟が結ばれて北条と今川は信玄の味方になるし、信濃は(時間はかかるとはいえ)信玄に切り取られる。


 上杉謙信は信濃が危なくなれば敵対するだろうけれど、他に信玄と戦ってくれそうな大名は……。


 斎藤家?

 今はまだ信濃が緩衝地帯として残っているし、美濃の中でも東美濃には独立勢力の遠山氏がいるからね。直接対決は厳しいのでは?


 ……ふ~む。信玄は大きくなる(・・・・・)と厄介だし、早いうちに潰しておきたいわよね。となるとまずは信濃情勢に介入して、上杉謙信を味方に付けて、上州にも介入して、ついでに三国同盟も破綻させるとなると中々難しい……。


 …………。


 ………………。


 ……………………。


 ……あら、何とかなるかもね?



『また悪巧みしてる……』



 また(・・)とはなんじゃいまた(・・)とは。私が年がら年中 四六時中オールタイムで陰謀を張り巡らせているみたいな物言いをするの、やめていただきたい。


≪プリもそこまでは言っていないのではないか?≫


 言っていないらしい。


 ちなみに玉龍はプリちゃんのことを『プリ』と呼ぶことにしたらしい。そこはせめてプリニウスと呼んであげたらどうだろうか?


『まぁ主様はマムシの血を引いていて、数百年生きている上に、色々なことに巻き込まれてきましたからね。謀略はお手の物ですよ』


≪言うなれば美濃のマムシが数百年の経験値を得たようなものか……。うむ、やはり生臭坊主共よりこっちを先に何とかするべきでは?≫


 解せぬ。


 それはともかく。加藤段蔵さんはしばらく美濃に滞在し、できれば父様(道三)にお目通り願いたいらしい。


 しかし、国主との面会なんてそう簡単にできるものじゃないし、疑り深いマムシならなおのこと。さらに言えば(長野業正の家臣とはいえ)忍者をそう簡単に会わせるわけにもいかないので、それは様子を見ながらということになった。


 すぐに父様に会わせられないことにちょっとした罪悪感があったので、とりあえずよさげな情報を買い取ってみる。


 テキトーに永楽銭を渡すと段蔵さんは驚きに目を丸くしていた。


「しょ、初対面の拙者にこれだけの銭を……これはこちらとしても誠意を持って応えねばなりますまい」


 忍者にも忍者なりのプライドがあるっぽい。


 段蔵さんに頼まれたので、アイテムボックスの中から紙を束にして渡す。その紙の品質に驚きつつ、段蔵さんが書き記してくれたのは各地の人物評価。名前や領地、戦歴、領民からの評判などが簡潔に纏められている。


 さっそく尾張を見てみると……おぉ、お義父様がかなりの高評価。場所が遠く助力が期待できないのが唯一の欠点と。


 そして気になる三ちゃんの評価はというと――



 ――うつけを演じているが、武技の鍛錬を欠かすことなく、遊び回っているように見せかけて領内の視察を欠かさない。要注意人物。



 ……ふっふっふっ、よく分かっているじゃない段蔵さん。追加報酬をあげましょう。もっと三ちゃんを褒め称えて長野業正さんに伝えるように。


『単純ですねぇ』


≪なるほど此奴をどうにかしたければ信長を褒めておけばいい、と≫


 なぜか呆れられてしまった。愛する夫が褒められて喜んでいるだけなのに。解せぬ。


 首をかしげながら人物評価を読み進める。

 ほぅほぅ、他にも『武田包囲網』にスカウトしたい人材も纏めてある。まずは今年になって武田信玄に勝利した村上義清や、小笠原長時といった信濃の面々。そして――越後。


 注目株なのか太字でその名前が書かれている。



 ――長尾景虎。



 いわく、齢19にして鬼神がごとき軍略。男も及ばぬ大力無双。まこと得がたき女傑(・・)なり。


 …………。


 ………………。


 ……………………。


 ……うん?


 女傑?


 女?


 ウーマン?


 上杉謙信が?


 まさか戦国時代には勇猛な男性を『女傑』と呼ぶ慣習が? と、一縷の望みを抱いてプリちゃんを見ると……プリちゃん(歴史オタ)は、憤っておられた。



『謙信女説とか、あり得ねーでしょうが。そんなものは1960年代に歴史研究家でもない小説家が提唱したもので、その根拠が『スペインの文献に、景勝は叔母が開発した佐渡の金を持っていたという記述が! この叔母とは謙信に違いない!』というぶっ飛んだものですし。もう相手にするのも嫌ですが、佐渡島を攻略したのは景勝であり、謙信の時代に上杉家は佐渡島を領有していません。というか戦国時代に佐渡島で採掘されていたのは銀であり、金山が見つかったのは1601年のこと。その頃にはもう上杉家は佐渡島を領有していません。そもそもの問題として、根拠となったというスペインの資料はどこに存在するのですか? その他にも、結婚しなかったのは女だったからだとか、死因の『大虫』は生理に違いないだとか、毎月腹痛に襲われていた(資料不明)のは生理だったからだとか、『男も及ばぬ大力無双』と謳われていた(資料未発見)とか、源氏物語や伊勢物語といった恋愛小説が好きだったから女だとか、筆跡が女っぽいだとか、着物が女っぽいとか、肖像画から髭を消したら女っぽいとか……。ふざけるのもいい加減にしてください。結婚しなかったから女性に違いないってどんな暴論ですか。『大虫』に生理という意味はありません。毎月の腹痛? 男も及ばぬ? そんな妄想を語る前にちゃんとした資料を持ってきなさい。あの当時の源氏物語や伊勢物語は立派な教養。筆跡は個人差だし、どこをどう見て『女っぽい』と判断したというのか。着物の色は他の戦国武将のど派手な着物を見てからものを言え。髭で有名な肖像画はそもそも謙信死後に描かれたものです。生前に描かれたものも顔が丸いだけ。そんな取って付けたような理由で女判定をしていたらどれだけの偉人が女になってしまうのですか? というか、そもそも、謙信は、女人禁制の高野山に登っています!』



 お、おぅ、よく分からんが、落ち着け?


≪何という荒ぶり方……やはり帰蝶の友人か≫


 そんな『類友』みたいな物言いをするの、止めてもらえません? 私もここまでは酷くは……酷くは……うん、黙秘権を行使させていただきます。


≪しかし、実際に調べた加藤段蔵なる男が『女傑』と報告しておるのだから、長尾景虎とやらは女なのではないか?≫


 火に油を注ぐのは止めてください。いやマジで。巻き込まれるのはこっちなのだから。


≪四六時中巻き込んでおるのだから、たまには巻き込まれてやるのも友情だと思うぞ?≫


 私がいつ巻き込んだというのか。解せぬ。




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