11.斎藤道三という男
「父様、娘バカすぎない? 美濃のマムシってもっと狡猾で、陰険で、卑怯卑劣な人間のクズだと思っていたのだけど?」
『道三が聞いたらショックで死にそうですから気をつけてくださいね』
プリちゃんがやれやれと肩をすくめた、ような気がした。
『信長公記における道三は、もちろんマムシらしい逸話もありますが……意外と面白いというか、愉快というか、ちょっとアレな描写もありますね』
「ほうほう?」
『たとえば道三と信長が初めて対面したことで有名な正徳寺の会見ですが、道三は信長を驚かせて笑ってやろうとします』
「……うん?」
暗殺とかじゃなくて?
『道三は古老の人7~800人に折り目正しい服装をさせ、御堂の縁に並んで座らせました。そしてそこを信長が通るように仕向けて驚かせてやろうとしたらしいですね』
「そりゃ正装した人間が何百人も並んでたら驚くだろうけど……やってることが子供だ……権力と金を持った子供だ……」
『そして普段の『かぶき者』な格好から正装に着替えた信長に逆に驚かされると。こちらは有名な逸話ですね』
「実は似たもの同士?」
『その時の道三は『苦虫をかみつぶしたような』様子で、『面白くなさそうな顔』をしていたと記されています』
「子供だなぁ……」
『信長も信長で、村木城を攻める際、居城である那古野城を攻撃されるかもしれないからと道三に援軍を求めたのですが、兵1,000を率いて援軍にやって来た安藤守就に那古野城の城番(留守番)をさせて、信長は出陣してしまっています』
「……居城の留守を任せたの? それ、城を乗っ取られるんじゃないの?」
『乗っ取られないんですよね、これが。信長が自ら陣中見舞いとして安藤守就の元に出向いた際も無事に帰していますし』
「美濃のマムシがねぇ」
『そして道三は信長の様子を毎日報告しろと家臣に命じて、報告を聞き終えたあとに『恐ろしい人物だな。隣国にいてほしくはない人物だ』と語ったそうです』
「なら暗殺すればいいのに……むしろ義理の息子を誇ってない? 親バカ? 義父バカなのか道三……」
『しかも自分は信長に援軍を寄越すくせに、自分が負けそうな戦には援軍を要請しない親バカっぷりです』
「義父バカだなぁ」
『と、まぁ、そんな人物なのですから、多少の娘バカであろうとも不思議ではないのでは?』
「……“帰蝶”って結婚できるのかなぁ?」
なんか『娘が欲しければ儂を倒してからにしろ!』と叫ぶ父様の姿を幻視してしまう。いや戦国時代的にありえないけどね。
『史実では結婚していますね。ただ、この世界が我々の知っている歴史と同じ道を歩むかどうかは不透明ですが。実際に“帰蝶”が行方不明になっていますし、正妻ではなく側室の子供らしいですし……。具体的に言うと道三が娘バカさを発揮して縁談をぶち壊しても不思議じゃありません』
「いやまぁ結婚するつもりなんてないし、それが政略結婚なら尚更だけど……そんな理由で結婚をぶち壊されるのもちょっと面白くないかもしれないなぁ」
思わずため息をついてしまう私だった。