08.雑賀衆ゲットだぜ?
偏諱がなかったり月代をしなかったりしたけれど、とにもかくにも市助君の元服は滞りなく終わったのだった。というわけでこれからは『孫一君』と呼びましょうかね。
『……一生に一度の元服なのに色々ノリと勢いで変えすぎですね。この鬼畜は……』
解せぬ。
まぁプリちゃんの物言いはともかくとして。一生に一度というのは事実なので記録しておきましょうか。この水晶に画像を保存してーっと。
『……水晶を記憶媒体にするのはまだ分かりますが、水晶で写真を撮って記憶するのってどういう理屈でやっているんですか?』
こんなのはノリと勢いでなんとかするのだ。
『ノリと勢いで生きているからあんなにも酷いことになるんですよ?』
酷いって何やねん酷いって。
くっ、しかしそう考えると三ちゃんの元服を記録できなかったことが悔やまれるわね。
『物理的にこの世界にいなかったですからね、仕方ないですね』
いや、簡単に諦めちゃダメよプリちゃん。私の三ちゃんへの愛なら世界すら変えられるはず。具体的に言えばちょーっとだけ世界の時間を巻き戻して――
『止めんかポンコツ』
いやでも三ちゃんの元服も一年か二年前なんだから、ちょちょいと巻き戻しちゃえば――
『止めんかポンコツ』
ちょっとツッコミがおざなりじゃありません?
私が突っ込んでいると孫一君のお爺さんが何人かの男性を紹介してくれた。そのうちの一人は確か『十ヶ郷の源三』と名乗っていた人だ。
「帰蝶様。この者たちは我が郷の中でも腕利きの男たちでして。ぜひ帰蝶様の元でこき使ってくだされ」
『……嫡男を人質に差し出すときには何人か家臣もついて行ったみたいですし。そんな感じですかね?』
孫一君を人質扱いするの止めてもらえません? 私は人質も人柱も必要としない善き魔女なのだから!
『……薬屋の嫡男や身重の女性を人質に取り、夫(信長)が買った女性を解放するでもなく美濃まで連れ帰る鬼畜が、善き魔女……?』
真顔で批判してくるの止めてくれません? 私の心だって折れますよ? ポッキリ。
鬼畜扱いされるのは心外なので源三さんたちはちゃんと傭兵として雇うことにした私である。
まずはお爺さんの横まで移動し、アイテムボックスから紙とペンを取り出す。
「源三さんたちですが、傭兵として雇いましょう。基本給はこのくらいで――、戦に出陣するたびに追加報酬を――、戦死した場合の弔慰金は――、ただし戦傷の場合は完全回復させるので特に支払いは無しで――」
さらさらと金額を書いていくと、お爺さんの目が『孫の将来を心配する祖父』から『傭兵集団の長』のものに変わった。
「これはなんとも豪勢な……。帰蝶様、天下布武を目指すなら相応の戦力が必要ではないでしょうか?」
「えぇ、そうですね。できれば戦慣れしている人間を専属で雇いたいところです。これからの戦場の主役は鉄砲ですから、鉄砲の扱いに長けていれば最高ですね」
「なるほど実はとても都合のいい傭兵集団がおりまして――。大量雇用していただければ僅かばかりではありますが割引も――」
「あらこんなに――? こちらも宿舎などの準備があるのでいきなりは無理ですが、最終的には雇えるだけ雇う感じで――」
「ではとりあえず源三たちを美濃に派遣し、体制を整えるということで――」
「――ふっふっふっ」
「――はっはっはっ」
お互いに上客を得て朗らかな笑いを浮かべる私とお爺さんだった。
『……まぁ、雑賀衆は信長側に立って戦っていたこともありますし、別にいいですか……』
なにやら言いたいことをグッと飲み込んだようなプリちゃんだった。