コインロッカー
上司に出張を命じられてしまったので、仕方なく関西の支社へと行くことになった。
新幹線に乗るために始発となるターミナル駅へと向かう。
はぁ、と思わず溜息が漏れてしまう。
出張が面倒というのもあるが、ターミナル駅にはいい思い出がない。
嫌なことがある時は大抵関わってくる。
小学生の時、電車の遅延で新幹線に乗り遅れた。
中学生の時は変な人に絡まれた。
高校の時は…いや、これ以上思い出すのは止めよう。
駅に到着することを車内放送が伝える。
深く息を吐き、気分を落ち着かせる。
早朝のターミナル駅は思ったよりも人が多かった。地元の駅と比べたら、であって、ここではこれが当たり前なんだろうけど。
出張仲間なんだろうか、ガラガラとスーツケースを引いている人が割と多い。
私服でバックパックの私はなんとなく申し訳なくなる。
新幹線の乗り場に向かう途中でトイレに向かう。
案内表示に従って歩みを進めるとコインロッカーが見えてくる。
コインロッカーの使用者が数人いるようだ。
思わず顔をしかめ、足早になってしまう。
忘れたいあの出来事の場所はまさにこのコインロッカーだ…
高校の時の人生最大の過ちを思い出す
なんでもっとはやく思い出さなかったのかと少し後悔する。
子どもの泣き顔を幻視してしまう。
はやく通り過ぎようとすると正面に小さな男の子がしゃがみ込んでいる。
思わず足を止める。
どうやら男の子は泣いているようだ。
かつての自分の過ちが自責の念となっていたのか、気がつくと「大丈夫?どうしたの?」と声を掛けてしまっていた。
男の子はしゃがみ込んで泣いたまま。
「迷子?」再び話しかけながら、とある都市伝説が頭に思い浮かぶ。
男の子は泣き続けている。
「お母さんは?」あの都市伝説をなぞるように尋ねてしまう。
すると男の子はピタッと泣き止んで、私を見ながら答えた。
『お前だ!』
まさにあの都市伝説同様に男の子がこちらを睨みながら声を上げる。
「…はい?」つい、聞き返してしまった。
慌てて付け加える。
「あの、私君みたいな男の子を産んだ覚えは無いのですけど」思わず敬語になってしまった。
『あれ?』男の子もぽかんとした表情でこちらを見ている。
「私が産んだのは女の子だし、あそこでこっちを睨んでるのが私の子どもだよ」
気は進まないが振り返り、通り過ぎてきたコインロッカーを指差す。
そこには悔しそうに、人を呪い殺せそうな表情をした少女が此方を見ていた。
生きていれば中学生になっているだろうか。
生きてはいないのに育っていく娘を見るのは辛い。
顔をしかめたまま顔を戻すと男の子は居なくなっていた。
溜息を付き再度振り返ると少女の姿も消えていた。