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中学生のはなし  作者: 長坂
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行事のはなし

今回は文化祭編です。

行事だが、うちの学校は行事にとても積極的だったと思う。文化祭での発表のレベルが高かったり、合唱コンクールの練習に使う時間が多かったからだ。ここでは1年生の時の行事のはなしをしよう。ちなみに、うちの学校では文化祭と体育祭がまとまって「N中フェスタ」と呼ばれていた。1日目が文化の部、2日目が体育の部というように別れていたので、ここからは文化の部、体育の部と表記する。今回は文化の部編だ。


僕が吹奏楽部に所属していたことは前にも書いた通りだが、文化の部は地区大会の前の大事な演奏発表の場だった。全校生徒の前で演奏し、観客の視線や場の雰囲気になれておく。人前での発表はその時が初めてだったので、練習の度に緊張が重なっていく。夏休みで引退した3年生の先輩も見ている中での発表だったので、練習の成果を見てもらいたいと意気込んでいたのだ。

しかし、本番を2週間後に控えたタイミングで思わぬアクシデントが起きる。主旋律を担当していた2年生の行橋先輩が、宿泊研修で右手首を怪我してしまったのだ。手を包帯でぐるぐる巻きにした先輩を見た時は、ひどくびっくりした。1年生は3人おり、「部活のはなし」で書いた通り僕はサードを担当していた。新川さんが主旋律を先輩と共に担当していたので、とりあえず編成を変える必要は無かったのだが、主旋律が1人ともなれば大変だ。実際に合奏練習した時は低音にかき消されてしまったのだ。この時、どれだけ行橋先輩が凄かったのかを思い知らされた。

そこで、トランペットの音を目立たせたい時はセカンド・サードが主旋律の音に回り、3人で吹くことになった。2人加わってようやく曲が成り立つようでは、この先の演奏が危ぶまれる。そこで、1年生3人で協力して大きな音、綺麗な音の出し方を研究し、先輩に追いつこうと頑張った。演奏が出来なくなった先輩はたくさんのアドバイスをくれた。そのうち、新川さんとは仲が良くなっていった。末路は前に記した通りなのだが。

練習に練習を重ね、ついに本番。ガチガチに緊張していたが、先輩に教えてもらったアドバイスを頭の中で繰り返し、楽しい演奏を心がけた。ただただ指揮を見、無我夢中で吹き続け、曲が終盤に近づく。その時演奏した曲は、主旋律のラストにとても高い音が含まれており、みんなで吹くといつもバラけ、5回に1回出るか出ないかの確率でしか出すことが出来なかった。ここで外したら、全校の前で恥をかいてしまう。腹筋に力を入れ、思いっきり吹いた。鋭い高音と後に続くパーカッション。鳥肌が立つ。今までの練習の成果をだしきった瞬間であった。割れるような拍手を聞き、ようやく現実味が湧いた。演奏後、先輩も顧問もトランペットの演奏を褒めてくれた。文化祭の発表は、大きな達成感の中終わった。


文化祭はもちろん発表だけではない。全力をだしきったので、あとは思いっきり楽しむだけである。次に個人で好きな体験学習を選べるという活動の時間になったのだが、僕は、仲のいい男子とともにドミノ倒しに参加をした。吹き抜けになっている大きなホールでドミノを並べていくという。ドミノ倒しも3時間あれば壮大なものとなる。集まった生徒は50人程度。これはいいものになる、そう確信した。

一通り立てたあとは、分岐の作成に入る。そこで、どうせなら大きなタワーでも作ってしまおう、ということで、2人の友人を誘い、いざ建築。ドミノを横倒しにした状態で三角形に並べ、その上に角度を変えてもうひとつ三角形を乗せる。それをひたすら繰り返していった時。まさに塵も積もれば山となるのごとく、高さは150cmを超えようとしていた。ひとつの高さは3cm程度だったから、50段以上積み上げたことになる。これ以上は身長の都合で積めないので、そこで終わらせることにした。3人で達成感を分かち合う。周りを見渡すと、同じようにタワーを作っているグループが3つあった。円状のものもあり、綺麗だなあ思った。上を見れば、どうやら早く体験が終わったらしい大勢の生徒が、2階から僕らのタワーを見下ろしていた。櫻田先生に写真を撮ってもらい、お礼を言った次の瞬間、唐突に事故は起こった。ラストの仕上げのための新しいドミノを取りに行こうとした男子生徒Aが、機材のコードに引っかかり、ビターン!と派手な音を立ててつまずいてこけてしまった。場所はタワーから20m以上離れた遠い場所。あ!声が聞こえた瞬間。僕らのタワーが崩落。自分の身長ほど積み上げられたドミノは、既に限界を迎えていたのだ。過冷却水のごとく一瞬の刺激で瞬く間に僕らの1時間半が崩れていく。3秒もしないうちに、残り3つのタワーも相次いで倒壊。作っていた人の呆然とした顔が視界に入る。横を向けば、口を開いたまま同じように突っ立っている2人の友人。声援を送っていたはずのホール、2階のギャラリーは静まり返る。沈黙の中、Aは起き上がり、先生の元へ向かおうとする。2歩歩いて、ドミノのスタートを蹴った。続く沈黙の中、無慈悲にもパタパタ音を立ててドミノは倒れていく。念には念を入れて設置しておいたストッパーのおかげで全ては倒れなかったものの、2割ほどが倒れてしまった。そこからは地獄絵図だった。倒してもらおうと思い呼んでおいた校長は、落胆の声を上げた。ギャラリーからもブーイングやため息が上がる。当然作っていた当事者である僕らもAも、へなへなとへたりこんでしまった。

結局、戦犯となったAは、彼の多くの友人から黒歴史として、よく笑い話の引き合いに出されることとなってしまった。


事故はありつつも、まだまだ文化祭は終わらない。弁当を食べ終わったら次は有志によるステージ発表である。生徒会のオーディションに合格した人たちの発表なので、毎年クオリティの高さは保証されている。「アオハル」を存分に楽しむバンドや、話題曲の高速ピアノ演奏、果てはアニメーション作品を自ら作る人まで現れた。ここからは印象に残った上記3グループを紹介していこう。

まずはバンドである。2年生の先輩たち4人のバンドは、その年はやった手拍子が有名な曲を演奏した。その年の3年生の先輩は、とにかくノリが良かった。そのため、リズムを取るためにみんなで手拍子する中で、原曲のアーティストが違うリズムで手拍子するところでは、そのリズムに変えて手を叩く。元々凄かった演奏に重なったものだったので、ここでも鳥肌が立った。

次に紹介するのは、同級生大北君によるピアノ演奏である。大北君とは小学校が一緒だったのだが、当時も発表会でよくピアノを弾いており、上手いことは誰もか知っていた。そのため期待値も高い。今年の演奏は速度を凄まじく変えることにしたようで、バンドの時のような手拍子はしないことになっていた。弾く曲は、一世を風靡したピアノの特徴的な歌。まさにピッタリである。最初は低速で入ったが、間奏になった途端一転、高速へと切り替える。その後も速度変化を繰り返しながら弾いていき、ラスサビの転調には感動した。

最後は3年生の先輩によるアニメーション作品である。体育館のスクリーンに大きく映し出されたのは、言わずと知れた超有名なゲームキャラたち。全員が3Dで描かれており、それぞれのゲームのボスを倒していく。圧巻のクオリティに、全校生徒が見とれる。割れるような拍手で終わった。あとから聞いた話では、先輩は会社に問い合わせ、ライセンスを自ら取得しに行ったようだ。アニメーションとして動かすのに3年もかかってしまったようだ。元々ゲーム中では2Dでしか登場しないキャラは、他作品とのコラボで3D化した時のものを探して動かしていたようだ。先輩の作品と努力は全校生徒から凄まじい高評価を得て、今年の文化の部MVPに輝いた。


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