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ゼンキンセンLOVE  作者: スピカ
love me
9/155

9.愛しき儚さに花は揺れて

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


 撫子母が帰って後日、やっぱりさとるが元気が無いような気がするので逡巡(しゅんじゅん)の結果、撫子はハンバーグを作ってあげることにしました。


「さとる、今日はあたし頑張るから待っててね!」


 先にボールに玉ねぎ以外を準備してから冷やしておいた玉ねぎを包丁を濡らしながら用心深く刻んでいると、Pがきた。


「今日の夕飯は撫子が作るんか?」

「おう、袖まくって待ってな!」

(さとる、喜んでくれるかなぁ♥)

 撫子の頭にはそれしか無い。



「出来たよ!二人共見て!」


 嬉しそうに皿に盛られたキャベツとハンバーグを示してくる撫子。

 キャベツはなんとか切れているが、ハンバーグは焦げていてボロッと形が崩れて割れている。

 神木は小さく息をついた。

「撫子、」

「おぉーっこれが撫子お手製バーグかー!どれっ」

 砕けてるハンバーグのかけらをPはパク!


「うんまっ♪」

「えっホント!?」

 目キラキラの瞳。

「うん。ちゃーんと努力の味がするで」

「なんだよ努力かよ!」

「だって焦げとるしこなれとるやんー、でもまっ100点や♥」

「ホント?」

 前髪を斜めに眉間を寄せて疑わしげにPを見てやる撫子。

「ホントやってー♥よく出来ました♥」

「ウソくせえんだよっ」

 ポスッ!と軽くグーでぶつ撫子。

 そんな横で神木はく、と唇を小さく噛んだ。


「ねっさとるはどうかな」

 ドキドキで嬉しそうに聞いてくる撫子に。


「…うん、頑張りは認める」


 そして皿をちゃぶ台に運んでいった神木を見て。

(さとる…?)


 違和感はその後も。

(さとるちょっと変…何かあったかな?)



 Pが帰ってから

「ねえ今日のハンバーグ本当においしかった?」

「うん」

「何で崩れちゃったか分かる?」

「Pなら何でも喜んで食ってくれんじゃない?」

「えっ…」

 ハッとする神木。

「…こね足りないのと、空気抜きが下手だから。」

 と言ってうつむいて。

 グイッと撫子の頭を押して立って。

「先寝る。お休み…」

 押入れに上がってしまった。


「お休み…」

(さとる、どうしたの?)


 撫子の心に不安が黒いシミみたく落ちて、じわり、と広がっていく――――――



 後日の夕飯後の団欒時間、

(最近さとるがなんか落ち込んでるから、なんか笑える話したいな…そうだ!)

 笑顔で言う撫子

「さとる、あたしの歌い方とか見せ方をさ、変えた方がいいと思う?」

「は?どう変えるの」

「Pが“今のままでも充分カッコいいけどもっと色気出してみいひん?”て言っててさー」

 僅かにムッとする神木、撫子は気づかず続ける。

「あのやろ、やるのは俺だからってこっちの恥ずかしさとか考えない事言いやがって」


「…らねーよ。」


「え?何て言ったの?」

「知らねえよ。お前が出来んならやればいいじゃん、ヤなら別に変わんなくてもいいし」

「けどさ、Pの意見も飲んでもいいかなって思わなくもないっての?色気…とか、足せればやっぱ、もっと客達を沸かせられるかなーって。

めっちゃ恥ずかしいんだけど!」

 微かに頬を染めて唇を尖らせた撫子。神木はぶつけるように言った。

「…そんな言うならいっそPと付き合っちまえばいいだろ!」


 言ってしまってからハッとする神木。


「えっ…」


 瞠目して言葉をなくす撫子。

 沈黙。

 神木が唇を噛んで背を向けた。


「…っ」

 涙が出そうになった撫子は外に飛び出した。

 そして、走って…公園のブランコに行き着いた。

 我慢したまま、涙は出ずに詰まってしまった…


(さとるはあたしがPを好きになったと思ってるの?そんな風にさとるに誤解されちゃうなんて、あたしのバカ!)

 ブランコに座り、うなだれる…



 神木は少しの間、唇を噛んでいたが、

「…っ」

 撫子を追って部屋を飛び出した。


 神木は撫子を探して駆け回る。

 撫子が行きそうな場所、ベンチのある所、自販機、川辺…を走って回っていく。


(撫子どこに行ったの…)


 やがて。やっと。

 神木はブランコでしょんぼりしている撫子を見つけた。

 ホッとして神木は近づく。


 目の前に立った神木に撫子は揺れる目で見上げて言った。

「…あたしが、嬉しいも悲しいも、全部、さとるがいるからだよ…?」

 神木の目が一瞬大きくなった。

 く、と小さく唇を噛んで神木は言った。

「…撫子は…いつもしっかりキメてくれるから、安心して背中を預けられる。撫子を…信じてる………ボーカルとして」


 コトリ。そう小さく胸が音を立てるみたいに。撫子の胸を塞いだふたが外れた。

 ポロポロ…涙がこぼれる。

 鎖を握りしめて泣く撫子の頬を神木は手の平でぬぐってやった。


「っく、さとる…っ」

(あたしが好きなのはさとる、あなたなの…!)

 言い出せずにさとるを見上げた撫子…の頭を神木が、そ、と自身の胸に抱き寄せた。

(!!!えっ何コレどういう事!?)

 カアアア。撫子の鼓動が早くなる。

 神木が言いにくそうに言う。

「…ボーカルになってくれてありがと…せっかく東京まで来たんだから、頑張ろうな。…このまま…」

 神木の鼻先がそ、と頭に触れたのがわかった。

 神木はそこで言葉を切ってしまったが、撫子はもうそれどころじゃない。

(このまま…このまま何!?)

 ドキンドキンドキン。


 プルプルッと撫子は頭を小さく振って顔を上げた。

 ドキッ!至近距離の神木。

 でも撫子は笑顔で言ってみせる。

「うん、ずっとさとるのそばにいるために頑張るね!」

 神木の目が一瞬大きくなって。泣き笑いみたいな目を一瞬して。神木は言った。

「…うん。これからも頼む。」

 そしてニコ、として撫子の頭をなでた。

「エヘヘ。さとるになでられるの大好き♥」

 神木がフ、とほほえむ。

(本当は、さとるが、好き…見つめるだけで分かればいいのに)

「帰ろ」

「うん」

 撫子は立った。


「!」

 半歩先を行く神木が撫子の手を小さく握った。

「…っ」

 カアア、頬が染まる撫子。

 さとるは振り向かないまま先を行く。


 もう夜遅いから、誰も見てる人はいない。


「…俺のそばにいろ」

「えっ…」

 トクン…

「友達として。」

「…っ、なんだ、友達かぁ」

 だがパアア、と笑顔になる。

 一度チラ、と振り向いた神木に撫子はエヘヘと笑った。




 その日は撫子だけバイトが休みで、部屋の掃除をしているとPから電話。


「…撫子…俺さっき熱上がってん…助けて死にそうや、死ぬ前にいっぺん撫子に会っときたい」

「はぁ?死ぬ訳ねえよ」

「うぅぅ会いたいんやあー…」

「ったく死んでろ!」


 とは言いつつも心配なので撫子は一人で四ッ谷のPのアパートへ…



(大丈夫だよね…)

 ピンポーン。

 ややあって、ガチャン。フラつくPがドアを開けた。


「ほんまに来てくれた、ありがとな」


 緊張しつつPの部屋に。


「お前もう寝てていいよ」

 ラグに座ろうとしたPを布団に追い戻し、土産に買ってきたバナナ牛乳を飲ます。

「うんま、ありがと」

 熱で赤い顔で笑顔のP…

「えと、汗ふいて氷枕とか…ある?」

「冷凍庫に保冷剤何個かある」

「分かった」


 タオルを絞って渡して、PはTシャツを脱いで顔と体を拭いて。

(こいつらライブ後いつも脱ぐから見慣れてるけど、部屋で二人きりだとなんか)

 若干ドキついてるのを否めない撫子。


「おらっアイスノンだぞっ」

 フキンにくるんだやつを布団をめくりPの脇の下に差し込んでやろうとすると。グッと引かれて。

 体を起こしたPに抱き寄せられて。

「…んっ…」

 微かにバナナ牛乳の味がした。

 赤面してうつむく撫子。

「なあ撫子」

 ゆっくりもう一度キスされそうになったので

「熱で頭おかしいんじゃねーの…っ」

 ぐいっと押し戻すとあっさり引くP。

「俺今熱で浮かされとるらしいわ。けどもし風邪うつったら堪忍な?」

 熱っぽい瞳で言って、そのままPはスーッと倒れた。

「P!しっかりしろってば!」

(ああもう!見捨てて帰れないじゃん…!)

 手の甲で唇をぬぐい、アイスノンと布団を直してやり。

「薬はあんの?」

 怒ってる風に聞いて。

 引き出しの風邪薬は使用期限切れだったからコンビニで買ってきてやり、お粥に梅干しを乗せて出してやり…



 後日風邪がうつった撫子。

 Pみたく重症じゃなかったが神木に風邪薬を貰い1日だけバイトを休んだ。



 翌日スタジオ練習で集まり…


P「なああの後風邪うつったりした?」

 悪意0の笑顔。神木がPと撫子を見た。

「ばっバカ!んな事いちいち聞くなよ!」

 嬉しそうなP

「え、やっぱうつった?」

 撫子が神木を見ると神木はス、と視線を外した。

(あ…)

 チクリ、と撫子の胸にトゲが刺さる。

「なあなあうつったん?」

「~っうっせハゲ!んな事もう聞いてくんなっ!」

 Pを蹴る撫子。

「いたた、冷たいなー、2回もキスした仲なのにっ」

「げ!バカ言うなっ」

 バッと神木を振り返る撫子。神木は一瞬目を大きくして半目になる。

「?別に神木に隠さんくてもいいじゃん」

「バカ!」

 プイッとする撫子。

「え、何で?」

 それまで黙って見てた冥海(クラ)が言った。

「神木にホモだと思われたくねーからじゃん?」

「んー…ま、そゆコトでもえーけど~」


(クラの前だし、何よりさとるに迷惑かけたくない!)

 本当はさとるに知られたと思うショックでそれどころじゃなかったが、いつも通りきっちり練習に集中した。

 神木はいつもより口数が少なかった…



 帰宅一番、撫子は


「さ、さとる…あのね、今日のPが言った…その、キスのこと…なんだけど」

「いつの間に2回もしたの」

「…っ、Pがふざけて…したくてしたんじゃないんだ、あんなのノーカンなんだよ…っ…」

 きゅう、と赤面する撫子。

「…そう」

「あの、さとる…?」

 恐る恐る呼ぶ撫子。神木は小さく息をつく。

「…あんまり思い詰めないで。…どっちの時も守れなくてごめん」

 神木が撫子を軽くなでた。

「!…っ」

「撫子は笑ってて?」

「さとる…っ」

 緊張が切れて、じわ、と涙目になる。

「よかった…っさとるに嫌われたらどうしようって思った」

 涙目のままパアアと笑顔になる。

 神木はまた小さく息をついた。顔は微笑みながら。



 神木は風呂の鏡に映る自分を見つめる…


(俺は、撫子の何?―――――)





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