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ゼンキンセンLOVE  作者: スピカ
be my love
71/195

71.見失わぬようにその花は道標になる

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


(ご飯…食べなきゃないけど食欲わかない…)


 撫子はため息をついて、だが冷凍のピザまんをチンしてみる。


 パク…

(…何の味もしない、おいしくない…)


 ちゃぶ台のマガジンの写真を見る。

 涙が溢れて喉が詰まる。


「――――っ…く…っ」

 こらえて肩が震えて。

 頑張ってもうひと口パク…

(さとる、さとる…っ)

 涙を拭いながら機械的に味のしないピザまんの残りを飲み込むが、1個食べて、もうそれ以上は無理だった。


(くすん、もう寝る…)



 でも撮影ではそんな気配は微塵も出さずにキメる。

 その迫力が増した演技に監督は

「凄い気迫だね!いい絵が撮れて嬉しいけど無理はするなよ?」

「大丈夫です、アザッス」

 イケメン八重歯チラ見せ美笑。

(あたしはdarkフロントマンなんだから!)



 撮影の後はすぐお見舞いに…


(愛さんと2人のとこに一緒にいたくない、)

 心は叫ぶ。

(でもさとるを支えなきゃ)

 その一心である。


 神木は入ってきた撫子を見て…

「神宮寺…痩せた?」

 ドキン。

 咄嗟に笑顔で誤魔化す

「やべーダイエットしてるのバレた?(笑)」

「…元から細いんだから必要ねェだろ」

 じっ、と真っ直ぐ見てくる瞳。


(っあたしの事忘れたくせにそんな優しい事言わないで!!)

 撫子は唇が震えそうになるのをこらえる。

「そうか?(笑)もっとカッコ良くなるかなーなんて思ったけど」

 静かに真顔で首を振る神木

「必要ない。ちゃんと食え。」


「さとる…ありがとな」

(さとる…あたしちゃんと1人でも生きてけるようになんなきゃ)

 エヘヘ、と頬をかくとそこに愛がきて。

「カミキさんSNSのコメント見ませんか?」

 それまでの真顔から一転愛に笑顔を向け頷く神木。

 撫子は席を立った。

(いつかはさとるが他の女性といるのに慣れなきゃないけどまだ無理)

「じゃあ俺は帰るよ」

「ナデシコさんも一緒に――」

 止めようとした愛に苦笑で

「これからスタジオ連あんだよ」

「あ、そうですよね頑張って下さいね!」

 神木はただ真顔で撫子を見ただけ。


 ホントは愛さんと楽しそうなさとるの側に居れないだけ。


(でも早くこれに慣れなきゃ。だってさとるは生きてるの、生きててくれただけでいいの―――)



〈ボーカルギターであるカミキが記憶喪失の為、カミキが治るまで活動を休止します。〉


 LUCYオフィシャルチャンネルでの最新のアップに投稿された大量の応援メッセージ。


――生きててくれるだけでいいです

――回復を信じて待ちます

――また会いたいです

Etc.


 愛のスマホで読みながら

(神宮寺はなんで何も教えてこないんだ?恋人だったんなら俺に早く思い出して貰いたいんじゃないのか?)

「愛、もっと色々教えて欲しい」

 小首を曲げたあざとい頼みに嬉しそうに愛は笑顔で頷いた――――



 スタ連はリュージに神木の代わりに入って貰った。


「宜しくな」

「おぅ任しとき」

「じゃあクラ、カウント」

♪~

「――!っ」


 イントロは終わったのに歌が始まらない。

 中断される曲。

「撫子どした!?」

「大丈夫か!?」

 撫子は片手で顔を隠すとよろめいて。


「さとるがいなきゃ歌えないっ…」


 愕然としながら苦しんで言う撫子。

 さとるのあの熱の無い他人な瞳を思い出すと声が出なくなるのだ。


「あたしはずっとさとるに向けて歌ってきたの、さとるの為に歌うの、なのにさとるを失ってしまったらあたしはどこに気持ちを向ければいいの?歌い方が分からない…っ」


 Pが

「撫子は迷子になってしもたんやな」

 憤るリュージ

「演技まではでけても歌は歌えんのや!」

 クラが静かに言った

「歌は心に相手が必要だからな。

今日はボーカル抜き、撫子は休んで見てな」

 だがPが

「けど次のライブはどーすんねん」


 来週梅田で遠征。神木が事故る前に組んだ予定でチケ発済みのやつはリュージを代打にしてキャンセル無しでいくって決めたのに。


「このまま撫子まで駄目やったらライブにならんで?」


(…っキャンセルなんて嫌!)

「頑張る!絶対歌う…っ!」

「撫子、」

「無理すな」

 震えてかぶりを振る撫子

「お願い待って、歌いたいの」

 クラが息をつき撫子の頭をポンした。

「わかった。最悪本番までに歌えなかった時は口パク出来るように用意はしとく」

「!」




(どうしよう、これじゃ皆に迷惑かけちゃう…)


 しょんぼりアパートに帰ると真夜がドアの前で待ってて。


「撫子痩せたって?」


 立ってふに、と撫子の頬をつまみ。

(真夜の手冷たい)

「1人で食えねーなら一緒に飯食ってやるよ」

 銀だこの袋を見せてくしゃ…頭をなぜられ胸に温かいものが湧いて干からびてた心が少し膨らむ。

「うん、何味?」

 平気なフリでパアァ。

「明太マヨ、好き?」

「うん♥ありがと」



 チンしたたこ焼を箸で刺して、グイッ、抱き寄せられ。

「ほら、あーんしな」

(!、でもタコ)

 パク。一口で頬ばる。


「プ、いい食いっぷり(笑)」

「ん、あひゅい」

 ※熱い。

 でも熱さと一緒に真夜の優しさが入ってくるみたいでちょっぴり泣きそうになる。

(誰かに頼りたい)

 そう思ってしまって。

「…泣いてる?」

 プルプルッ

「あひゅいはらはお」

 ※熱いからだよ。


 全部食べるまで捕まえられたままあーんで甘やかされ。

 前より薄くなった撫子の肩を優しく抱きしめ、

「神木のこと忘れさせてやろうか?」

「真夜…」


 だが撫子はしっかりと首を振った。

「ごめん、さとるを待ちたいの」


 真夜は微笑んで頭をなでてくれ、

「明日は生姜焼きでもする?(笑)」

 トクン

「明日もくるの?」

「来て欲しいだろ?」

「!…うん、ありがと真夜」

 パァ。涙が出そうだよぉ…――――




 見舞いにはサザンもピンキーもエキリリも真夜狂も来たけど、さとるは全部他人行儀で少し警戒してるみたく素っ気ないままだったみたい。


 どうやら皆の事も分からなくて、愛さんに教わった情報の中の登場人物でしかないみたい…


 でも希望を捨てずにいつものノリで(相部屋なので周りに迷惑にならない程度に)騒いで見せてくれていく皆…


 キキ

「神木クンもきっとこうすれば記憶が蘇るわ、腕を出して?」

「?」

 ガブゥ!

「!?」――


 一平

「神木、いきなり恋人だなんて言われて撫子が受け入れれないなら俺はどうかい?…っ」

 手をとり迫られ

「!?…っ」――


 そんな見舞いの度に神木は妙な感じに襲われた。

(まただ…神宮寺に他の奴が絡むとムシャクシャする…恋人だったから?…思い出せない…)




 撫子に素っ気ない神木に怒るリュージ

「こら神木!ホンマに恋人を忘れたっちゅーんか!」

「リュージ!いいんだやめろって」

「よかないわっ百歩譲って俺らん事は忘れてもええけどな、何で思い出せんのや!

撫子はお前の恋人やったんやぞ!?あんなに愛し合っとったやないか!」

「リュージ!そんなの言わなくていいよ!」

「止めんな!撫子はなぁっ、こないだ歌えなかったんや!それがどうゆー事か分かってんのか!?」

「、…」

 唇をかんで俯いた神木に

「いいか神木!お前は撫子を誰にも取られたくなかったんや!その為に真夜と殴り合いまでしたんやぞ!?…っ」


 神木の目が大きくなって撫子を見つめた。

 その目に撫子はフルッとなるが踏みとどまって笑って

「やめろってリュージ。

さとる気にしなくていいからな?俺がまだ甘い証拠なんだから。

さとるがこんな事なってるからって歌えないなんて言い訳にも出来ねぇよ。

だからちゃんと、俺の歌ってのが何なのか、どうゆー風に歌うのかとかもっぺん見直そうと思うんだ。

だからさとるは何も気に病む事ねぇから」


 神木はく、と唇をかんだ。


(俺がいなくてもいいのかよ)


 俯いて言う

「…なんでそこまでして歌うの」


 撫子は一瞬目を揺らしたが笑って

「ファンが待っててくれんだよ。ならここで頑張ってくしかねェじゃん?」


 人差し指で頬っぺをかいてニシシと笑って見せた。


(ホントはさとる、あなたの夢だから。darkはあなたの夢で、一緒に叶えてたの、例えあなたが離れてもあたしは前のあなたの夢を守り抜きたい)


 そんな撫子の瞳を見て神木の目が一瞬大きくなった。

 また俯いてポツリと言う

「…思い出したから」

「えっ!?」

「ホンマか!?」

 チリ。

 顔を見合わせた撫子リュージを見てまた神木の胸がじれる。

 2人は喜んですぐバンドの内輪しか知らない今の状況やこれからの話になったが、5分もたたずに。


「でそん時神木が」

「…」

 気付く撫子

「さとる、ほんとはまだ思い出して…」

 く、と唇をかんで俯く神木。

「なんで嘘つくんや!?」

 愛に教えられたネットの情報だけでは話を合わせられずにバレた。


「さとる、無理しなくていいんだよ?」

「…早く仲間に入りたくて」

(神宮寺は俺が居ない人生を歩き出してる)

 チリッ、胸がじれる神木。

(神宮寺――記憶が無いから恋人だったってあんたにすがりたいだけ?)

 撫子はとりなすように微笑む

「さとる、安心しな?いつまでも俺らは仲間だよ」

「!…っ」

 神木はまた唇をかんだ。

 がスッと真顔に戻すとコク、と小さく頷いた。

 撫子は時計を見て立った。そろそろ面会時間の終わり時刻。


「勿論明日もくっからな、明日はバレンタインだからチョコ持ってくるよ。一緒に食おうな」


 イケメンで言う撫子の仕草は優雅でかっこいい。

 カーキの襟ファージャンパーに長い腕を通して羽織り、美笑を残して去っていく。


 入れ替わりで神木の所に来た愛に廊下で挨拶してすれ違う。


「撫子ホンマに平気か?」

「さびしくなんかない」

「せやけど」

「だって!」

 ハッとして口をつぐむリュージ、撫子は無理矢理笑った顔で

「さとるは生きてる……っ一緒にいられるだけで幸せなの、傍にいるのが当たり前になってそんな事も忘れてた、でも俺は」

(あたしはっ…)

「一番最初は、とにかくたださとると離れたくなかっただけだった…

そんな事ようやく思い出したの…

だから、さとるが元気に回復してくれたらそれ以外何もいらない。元気にさえなってくれたらいいんだ」


「…お前のもんじゃなくなってもいいんか?

ホンマにそれでいいんか!?」

 リュージに肩を掴んで振り向かされ、

「っさとるの好きにさせてあげて」

 キラッ。

 透明な雫がこぼれ、撫子の肩が震えた。

(お前ホンマは)

「!」

 ぎゅうっ――

「もう…俺のもんになれや…!」

「リュージ…っごめん!」

 ぐっ、リュージの胸を押し離れ走り去る撫子。


(ごめんリュージ、でも抱いてくれる腕はさとるがいい、さとる以外駄目なの!)



 でもアパートでチャリを止めると。

(さとるはもうあたしの事好きじゃない、もうあたしの事覚えてないんだから)


 また襲いくる空虚のループ。

(あたしを見る眼差しも、呼ぶ声も、同じ人なのにさとるはもう違う人)


 でも頭をプルッ!

(でもあたしはさとるを支えるの!例え恋人じゃなくても)



(神宮寺…)

 神宮寺を思い出すと頭が混乱するみたくなる。

 自分の唇をそっとなぞる。

(目を覚ます前触れてた…)

 温かくて柔らかな感触。

(つらそうだった。けど中途半端な状態で慰める訳にはいかない、俺はまだ以前のあいつとの関係の事思い出せてないんだから)




 バレンタインデー。

 今日の撮影は出番が早く終わったからちょっと早く病院へ。

 途中デパ地下で千円の控え目な詰め合わせだけど可愛いのを選んだ。

(あたしは何があってもさとるの側にいてあげる、さとるにとってあたしが1番じゃなくても元気づけてあげる)


「さとる、チョコだぜ?あーんする?」


 じっと見てきて首を振る神木。自分で一粒とり食べた。


「さとる?このチョコも…俺チョコ大好きだけど、きっと1人じゃチョコも甘くない。さとるがいるから甘くてうめェんだ」

 言って自分も1個食べて笑いかける撫子を見て神木は小さく俯いて

「、…ありがと神宮寺」

 笑わずにもぐ…。


 あの公式発表を受けてLUCYのメジャー行きの話は一旦流れた。

 ポツリと言う神木

「…でも俺が音楽やっててしかももうミュージシャンだったなんて夢みたいだ」

「!」


(そう、あなたの夢だったんだよ?思い出して!)

 じわ、涙が出ちゃってゴシゴシ手の甲で拭う撫子。

 神木はそれを見て指を唇にかけて考え込んだ。


「さとる、考える時とかのその仕草、前と同じだぜ?」

 パッと笑顔で言う撫子。

 神木の目が一瞬大きくなり…その時撫子のスマホが鳴った。


「――ああそう、分かった」

 ピ。

「誰?何?」

「あぁ…バンドのこと。darkはリュージをサポートに入れて休止しないでやってく事にするって」

「!」

 じりっ!神木の胸がじれた。


「さとる、退院したら柏に帰る?それでもいいんだよ?」

 明後日は退院。神木の声が掠れた。

「ぃゃ…LUCYとdarkっていう大事なものがあるんならこっちにいる。

…神宮寺、ここじゃない所で話したい」



 ついていくと神木は屋上前の階段の踊場で立ち止まり…

「…ンで何も教えてこねーの?」

「えっ?」

 ぐいっ!神木がいきなり撫子を壁ドンした。


「!」

「…っ何で話してくんねーんだよ!俺に思い出してほしくねーのかよ!?神宮寺!!」


 顔を歪めて言い訳するみたく続ける神木

「自分の正体が分かんねーなんてサイテーだ。なのにあんたは知ってんのに教えるのを避けてる。

…何で?俺が要らなくなった?…」

「さとるっ…」

「神宮寺っ…!」

「違う、そんなんじゃない、話さなかったのはさとるが女の子でいるのが嫌になったんじゃないかと思ったから無理強いは出来ないって思った、でもずっと辛かったなんて…俺バカ…!」

「…神宮寺………嫌じゃないよ…」

「えっ」

 顔を上げた神木。

 ドキン、至近距離で目が合う。


「俺には…待ってる人が大勢いんだろ…?」

「!さとる…っうん…!」

 パァッ!

 本当の笑顔が浮かんだ撫子を神木はじっと見つめた。

「っ」

 撫子は神木を抱きしめた。


「さとる、忘れててもいい、俺はさとるが…さとるがいるならまた歌えそう」

「神宮寺…俺に歌えよ、………仲間なら」

 コク、ぎゅうぅっ!


 されるまま抱きしめられる神木は不思議な感覚に包まれる。

 そ、と撫子の背に手をかけかけ、やめた。


(俺自身の気持ちが分かってない内は駄目だ)


 …ただ1つ分かるのは、神宮寺に抱かれるとドキドキするって事―――





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