表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゼンキンセンLOVE  作者: スピカ
love me
4/155

4.花いよ艶やかに禁断の香りを放つ

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)



 神木さとるはジレンマを抱えていた。



 3月下旬、神木が東京にアパート探しの下調べに来た時…


 ライブハウスに幾つか立ち寄りメンバー募集の貼り紙をチェックして、何となく選んで連絡をとったのが冥海(クラ)の紙。

 「こーゆーイメージで」と鉛筆画が付いていてその絵が気に入ったからだ。

 実際会ってみてここに決めて、Pが加わり、引っ越してからすぐ撫子がボーカルに決まった。

 だからdark orangeのリーダーはドラマーのクラ。クラは暇な時よく鉛筆でサラサラと絵をかく。曲は神木かクラがかく。




「あたしもっ…バンド入っていい?さとるのそばにいたい!」

 東京に来た日に撫子は言った。

 撫子は昔から女子達の王子様として男の真似でカラオケで沸かせてて、上手いことも分かってたから…

 声が中性的で歌い方が男だからヘタに女とバラすよりそのまま男としてクラ・Pと引き合わせた。その方が安全だと思ったから…


 柏の家に連絡すると撫子母は「あらーそっちでもイケメン街道走ってくのね。やっぱり撫子はイケメンよね応援するわ!」と喜んでくれ撫子も喜んでいた。

 そしてそのまま今に至る。


 dark orangeは順調に動員数が増えてる。

 そう、軌道に乗ってきてる。


 だけど昨日のPとリュージの事…これからも或いは他の奴にも似た目に遭い続けるかもしれない。




「撫子、お前さ…この先もこの生活続けたい?」

「え?どういう意味?」

 撫子が朝食のはしを止めた。

「…男として男ばっかの中にいてくのはやっぱり危ないんじゃないかと思って」

 撫子は真面目な顔になり答えた。

「…ファンの女の子達にキャーキャー言われて…好き!って言われて…

もう裏切れないって思うんだ。

彼女達にこのまま夢を見せていたい」

 そしてニコッとして続けた。

「何より、さとるの作った曲をさとると一緒に歌えるのが幸せなの♥

だから今のままをずっと続けたい」

「けど…」

 神木はく、と唇を噛み、

「また守れない事だらけかもしれない。…お前を守りたいんだ」

「えっ?――――」

 パアア、と乙女の顔になる撫子。

「さとる、それって…」

「友達として。」

 プイ、と横を向いて撫子の頭をグイッと押した。

「な、なんだ、友達かぁ」

(でも心配してくれてる♥嬉しい!)

 心底嬉しそうな撫子を見て、神木は。

「分かったよ。これからもこのままいく。

けどお前ホンット気をつけろよ?」

「うん♥」

(だってずっとさとるの一番そばにいたいもん)

 撫子の頭にはそれしか無く、その為なら何でも乗り越えられるのだ。

 恋の力で。




 今日はさとるは法事で柏に帰ってて一泊してくる。

 だから今夜はアパートに撫子一人。

 夕飯はさっき冷凍のピザまんをチンして食べた。


 新曲の歌詞を覚える為に何度も読んでいると、ピンポーン。


(新聞の勧誘?)


 ガチャ

「新聞ならいりません」

 ところがいたのはP。

「よっ撫子。遊びきたー」


 パタン


「あーっ閉めないで!焼き鳥持ってきたからー!」

 Pは焼き鳥を焼くバイトをしている。


 仕方なく入れてやると、

「あれ神木は?」

「法事で柏行ってる」

「何っじゃあ撫子と二人きり?」

 途端にソワソワするP。

「じゃあまあ焼き鳥食えや」

「おう、サンキュ」


 六本入り。

 焼き鳥は素直に嬉しいのでご機嫌でパクパク平らげた。


P「けど夜アパートに二人きりなんて、なんかあったらってドキドキしちゃわない?」

「バカ、あるわきゃねーだろ」

「えー撫子俺にはドキドキしないの?」

 ずい、と迫られる。

「!?」

 じり、と後ずさる撫子。

「減らないならキスしていい?」

「!バカあれはっ!あの時は男でっ…」

 じりじり。追いつめられて…

「…っ!――――!」




 ポロッ。撫子の目から大粒の涙がこぼれる。

 Pはハッとして顔を離した。


(どうしようPにキスされちゃった…さとる…)

「…っく…」


 唇を噛んで肩を震わす撫子。ポロポロ涙がこぼれていく。


「…っごめん、そんな、泣くなんて。…他に好きな奴がおるんか?」


「…っ、」


 こく、と頷く。Pはバツが悪い顔をした。


「ごめん、もうしないから」


 スス…と離れ、しばらく沈黙。

 撫子は膝に顔を埋めたまま泣いている。

 やがてPはそっと立ち、


「ほんじゃ俺帰る。さっきは本当にごめん。

…また焼き鳥持ってくるから。…」


 数秒間返事を待ったが…パタン。Pは帰った。


 一人きりになって。ヨロヨロ立って撫子は顔を洗った。けどまたじわぁ、と涙が出て。


「…っく」

(Pのバカー!!!軽い男!くすん、でも焼き鳥おいしかった)


 撫子は布団を引いて、電気を消して転がって、もう一度ちゃんと泣き直しました…



 その頃神木のスマホにはPから着信が入っていた。

「あ、神木?お前だから言うわー、俺さっきお前んとこ行ってそしたら撫子一人じゃん?だからつい迫って、…キスしたら撫子泣いちゃってー、…他に好きな奴いんだって。

神木ー慰めてーっ」

『…は?』

「なあ神木、撫子の好きな奴って誰か知ってる?俺もハートが傷ついちゃってー」

『…しらねぇよ』

 僅かに怒気をはらんだように聞こえた返事でプツ、と電話は切られた。

「神木まで俺をふるなよ!うわーん」

 帰り道で電話してたPは電柱に頭をガシガシ打ちつけて拗ねました。行動は軽くても実は純情なのです。



 神木は荷物を持って階段を駆け降りた。


「あらさとる、泊まらないで帰るの?」

「ごめん用事思い出した」


 今PM10:20。神木はバイクを飛ばす。


(撫子…大丈夫…?また守れなかった…)



 夜半、神木が初台のアパートに着く。部屋に明かりはついてない。


(まだ泣いてる…?)

 ガチャン…静かにそっとドアを開け入ると静まり返ってる部屋。

 …スピー、スピー…かすかな鼻息が聞こえて神木はガクッとした。


「…。」

 半目になる。

 撫子はうつぶせのまま寝ていた。横を向いているその頬をよく見ると、涙が乾いた跡…


 神木は唇を噛んだ。

 撫子の頭をなでると、撫子が目を覚ました。


「あれ、さとる、なんでいるの?」

「…用事思い出して。…もう済んだけど」


 なでられるままポヨ…としてうっとりしてる撫子に、

「…誰かきてた?」

「!」

 パチッと目があく撫子。目が泳ぐ。


「えと、Pがきて…焼き鳥おいしかった」

(さとるには言えない、ごめん内緒にするね、くすん、秘密が出来ちゃった)


 座ってうつむいた撫子。


(言わないよな…)

「そっか。良かったな」


 神木は立ってバサリと上着を脱いだ。


「ひああ、何!?」


 縮こまった撫子に半目で神木が言う。

「寝んだよ、バカ」


「は…そっか」


 明らかにドキついてる撫子をほっといて神木は押入れに上がった。




 後日、スタジオ練習に集まった時。


(めげるなあたし!あれはノーカン!)

 壁に手をついて邪念を払っている撫子をチラと見るといきなり神木はPに中段をパンパーン!と入れた。


「いたっ!?何!?」


 無言でまたパパン!パンパン!と打ち込む。


「いてっ!いてて!何で!?神木何で!?」


 逃げるPを神木は尻を蹴りながら追いかける!


(どっどうしたの!?)


 Pと神木の電話の事は知らない撫子は「??」と見つめた。


「別に、何となくお前を蹴りたくなってな」


 ふん、と神木は腕組みした。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ