27.花は夜空を覆ってあなたを包むから
11月第一土曜日夕方、今日は楽しみにしてたPV撮影!曲はレッドローズ。
撮影場所は…紅葉した落葉樹の葉ズレの音に癒される…
そこは住宅街の中に突然ある大きめの邸で、レンガの門の横に程よく透けたツタの絡んだ鉄柵があり、壁も赤レンガ調タイル。
「どう?中々ロマンチックな造りでしょ?ここ見つけた時“これだ!”って思って、PV作るって決めたんだ」
得意気に言う冥海。
ワクワクの撫子は
「ひゃー、ここだけ外国みたいじゃん」
はしゃぎ。
「この家のスポットだけね(笑)」
「どうしても使いたくて家の人に頼み込んだんだよねー」
チームの熱を感じてジンとなる。
(さとると一緒の動画♥)
チームメンバー達がライトやカメラのテストをする横でPと一緒に訳も無く準備運動しちゃったりして。
「今日の撫子メッチャメチャかっこええやんっ」
「あんがと」
イケメン色気出しウインク!キャピキャピ。
すると神木にメールが入った。
読んだ神木の目が一瞬大きくなった。
「ねぇちょっとこれ見て」
神木のスマホを見せられ。
「!」
様子に気付いたクラも来て見た。
P「LUCYに先に声がかかってまうとは!」
LUCYに業界から声がかかった。
LUCYは神木が入ってから動員数がうなぎ登りで毎回ソールドアウト、各ライブハウスからも各種イベントで引っ張りだこになって荒らしていたのだ。
ドクン…
(さとるが離れちゃう?LUCYのカミキになっちゃう?)
「でも“LUCYのカミキ”になっちまうな、ホントはdark orangeやのにィ!」
ムキーッとするP。ドキン
「…俺はあくまでサポートだって言っとく。本籍はdark orangeだって」
神木の深い眼差し…
「ごめんなdark orangeは俺が歌ってて」
イケメン風困り笑いしてみせる撫子に
「…そんな事言うな。darkは撫子の歌じゃなきゃdarkじゃねーよ」
ぎゅ、と神木は撫子に抱きついた。
「…うん、だよな。情けねぇな、動揺しちまってる(笑)。きっとすぐ追い付いてやるから、頑張れよ?おめでとう」
神木の頭を片手で抱きしめて神木の頭に鼻先を押し付けた。
(さとるはああ言ってたけど、先の事は分かんない。PVがあたし達を繋ぐ証拠になればいいな…)
きゅう。
(さとるだけ大きくなっちゃって、立つステージが違くなっちゃったら、すれ違いとかで距離が生まれちゃうかもしれない。もう、別々の道を歩む事になるかもしれない。
それでもさとるが成功して、有名になれるなら、あたし…ちゃんと身を引ける…?)
「――――――」
真顔で少しぼんやりしてた撫子の肩をクラがポンと叩く。ハッとすると
「撫子、神木は本物だから…チャンスがあれば掴んで大きくなるべきなんだよ」
そう言って微笑んでくれる。
「うん」
頷くとそこに
「撫子」
ドレスに着替えた神木が側に来てはにかんで見上げてくる。
「どう…かな、ちょっと寒いけど」
真っ白なドレス…
ホ、と息をついちゃう撫子。微笑んで
「綺麗だよ、さとる」
神木の頭をなでる。
(あたしも着たかったな…)
こちらも衣装のゴスロリな黒いスーツに着替えてた撫子の瞳をじっと見上げた神木は腕を伸ばしてそっと撫子の首に抱きついた。
「…大丈夫、いつか必ず…」
そう言って綺麗な瞳で撫子を覗き込んでくる。
「えっ―――?」
「待ってて」
ぎゅ、と抱きしめられる。
ドキドキ
(いつかって何?)
期待は急上昇してしまう。
「ほら、男でしょ?」
ちゅ、と頬に小さなキスをして撫子から離れる。
「さとる…」
そこに声がかかる。
「はーいじゃあ“柵越しに見つめ合う二人”いくよー?」
「あっハイ」
日が落ちて薄暗くなった中、ライティングの中で柵越しに手を合わせて見つめ合う撫子と神木。撮る時は曲がかけられる。
♪引き裂いた薔薇の香りの夢を…
透明な偽りの色に染めてく…
涙など見せなくてもいい…乾いて
悲しみの中眠りましょう…穏やかに
魅入られた瞳…閉じ込める…Ah…吐息
薔薇の夢…触れた指に棘が刺さり
赤い血…今宵も溺れる…魅惑の…red rose…
特に指示は無いが撫子は柵の鉄棒の間に伏し目で額を押し付け、それを見て神木は自分も撫子に額を付けて…額同士を付け合って見つめ合う二人…
「ハイッカット!OK」
「ありがとうございます」
(なんだろうこの気持ち。二人の間に柵があるならばそれは今さとるのデビューで…隔たりが現れた中でもああして額を合わせて手を握ってれば離れない?大丈夫、かな…?)
きゅう、と切なくなるも、イケメン顔を崩さずにスッとかっこつける。
(あたしだってボーカルでフロントマンなんだから。さとると離されたりしないもん)
焦り。焦燥感。二人の道が別れるかもしれない事への怖さ。
(それらを全部受け止める。ありのまま頑張る。だってさとるの恋人だから!誰よりもあたしが一番さとるを支えてあげたいの!)
「じゃあ河川敷に移動する前にちょこっとダンスのステップ教えるからー」
「ハイ!」
「(笑)撫子君超やる気だねー」
「さとるとのダンスを不特定多数に見せつけられるから燃えてます」
「あははっ言うよねー今日ずっと見せつけられてるよー?」
P「いつもの事やで」
社交ダンスの基本的な初歩をかじる。
荒川河川敷に移動して、花火が始まる。
「さとるのこと、俺が綺麗に咲かせてみせるよ」
イケメンスマイル。
花火大会の花火をバックに使用して、フィルターも使ってロマンチックな絵を撮る予定。
5メートル範囲くらいの人をよけるようにチームの人で囲み、補助ライティングとカメラワーク。そして夜空を彩る大輪の花々…
撫子はさとるの手をとりリードする。
見つめ合うさとるの瞳は深く輝いて撫子を見つめて。見てる方が涙が出るくらい綺麗な絵。
ざわっ…
周囲が振り返る。キャアッと見てはしゃいでいく女の子達もいる。二人の瞳は深く。ため息が出そうな程に…
「でもはた迷惑ッスよね(笑)こんな所で人掻き分けて踊ったりして」
「でもバッチシ衆目を集めてたよ?」
「二人共超切なくて良かったよ~」
「もう脱いでいいスかこれ。脱ぎたい…」
さとるがドレスの裾を持ち上げた。
「(笑)まだだよ、最後の連発をバックにもう1シーン撮るから。イメージ湧いちゃったから急遽付け足し」
それは…手を繋ぐでもなく少し離れて花火を向いて立って互いに横の互いを振り向いて見る絵。
どんな意図かは聞かなくても二人共すぐ同意した。
「いやー良かったよ、記念すべき初作品に相応しい素晴らしい作品が出来そう!」
チームメンバー達は皆笑顔で喜んだ。




