2.憂い惑うは花なればこそ
ヘビメタバンド、ピンキーのライブが終わり楽屋に戻ってくるや
「あちー」
「お疲れー」
男3人がバサーッと脱ぐ。
「撫子ただいまー!」
「次頑張っ」
裸で取り囲まれた所にすかさずPが飛んできて割り込み
「はいはいはいうちの撫子にライブ前にむさい汗をくっつけないでね!」
手をシュババとやってガード。
「ああ…あんがと」
フラリとしたアンニュイ動作でかすかに笑んで腕組み、だが内心動揺の撫子は
「じゃあいってくるぜ」
と言って先に階段を降りて壁に額をつけため息。
(キキはよくこん中で紅一点やってんなぁ、あんなすぐ脱ぎたがる奴らの中)
ドキドキ。
すぐ追ってきた神木が撫子と目を合わせて言った。
「お前はうろたえていいんだよ俺たちが支えるから」
「!」
トクンと撫子の心臓が小さく跳ねて、クールイケメンスマイルを取り戻す。
「悪いな、大丈夫」
そこに追いついたP
「撫子今日も頼むぜっ」
いつもは肩を組んでくるPが両手をパーにしただけ。
なので撫子から肩を組み、イケボで耳元に
「そっちもな。俺を支えてくれよ?」
「ハイィ」(ヤバい撫子は女の子っ)
変なテンションのP。
♪引き裂いたバラの香りの夢を
凍らせたままの古い記憶を…
溶かすのは甘いバラの香りの夢…
だが透明な偽りに抗うすべはない…
Ah…窓辺からこぼれ落ちる月…光…天使
かけがえの…ない命輝いて失えない…
今宵も溺れる…魅惑の…レッドローズ…
Ah…溺れさせて…Ah…レッドローズ…
レッドローズ…
(ヤバい、これで女なんだよな…!)
先頭で客の悲鳴を受け煽る撫子を横で見て内心大興奮しちゃうP。
ライブ後楽屋に駆け込むなり鼻血ぶー。よく我慢したものだ。
ドラマーの冥海はPを見て
(こないだからPが撫子を見て鼻血を出すようになった。一体どういう心境の変化だ?それはそう、多分Pが撫子達のアパートに遊びに行った後から)
「おいP、こないだ撫子達のアパートに遊び行ったよな。一緒に風呂でも入ったんか?」
ぶっ!
飲んでた茶を鼻から出した撫子。
「え、何で分かるの?」
鼻栓したPが悪意0で聞き返す。
「お前が撫子に興奮するようになったのはあれからだ、裸を見たとしか考えられない」
撫「何もしてねーからな!?(鼻いたた)」
P「うんただ白くて綺麗で色っぽかったから目に焼き付いてるだけ」
「このバカたれ!」
ゲシゲシPのすねを蹴る撫子。
「えー神木クンスッゴいねー」
まだ口の周りの口紅の血を拭かないままのキキが歓声を上げた。
P「何何何が?」
「スマホゲームがスッゴいの」
覗かれながら神木がやはりスーパーテクで次々敵を撃破するスピードは超絶!
P「でも何でキキは神木のこと神木クンて呼ぶの?女の子じゃん」
「下の名前がさとるだしクールで男の子っぽいじゃん、俺ってゆってるし」
撫(流石は女の勘か?油断できねえ)
キ「ほんと強いよねー」
神「普通…」
「違うでしょ謙遜なわけ?」
仲良そうな二人を見て撫子はさっきこぼした茶をアンニュイクールガイな動作でふきながら胸がぎゅ、となった。
(いいな、さとるあたしといるより笑顔じゃない?落ち込む)
前回の初対バンの時からキキは神木と仲良くしている。
それは多分お互い紅一点同士、という気持ちからだろう…
撫子は二人を見ないようにその場を去り、裏口から外に出る。
ヘビメタバンド、ピンキーの紅一点ボーカル、キキは155㎝栗毛緑エクステ入りロングツインテール。kannivalismで首にスカルのチョーカー。
(あたしよりキキの方がさとるに似合う。キキは小さくて女の子っぽくて可愛い)
――――――っく、壁に背中を預けるやずり落ちてポロリと涙が頬を伝う。
(同棲してるって喜んでたけど、同棲してるだけ、恋人じゃない)
撫子の様子が僅かに変だったので追いかけてきてすぐには声がかけられずに涙を見た神木、に気づく撫子
「や、やだ、何でもないよ」
目ゴシゴシで立ち上がった。
神木は壁ドンをする。両手を壁につき撫子を閉じ込めて見上げた。(※身長差10㎝)
「何でもなくない。お前は誤解してるだけだ、キキとは何でもない」
「!どうしてそんな事、あたし何も誤解してないもん!」
プルプル首を振ると
「撫子、俺は――――――」
神木はそこで黙った。
「…?何?」
「…泣くな、今は男だろ」
神木が手の平で撫子の頬を拭う。
「ほら誰かに見られたらマズイだろ」
「んっ…何でもないのに。目にゴミが入ったんだもん」
「…。」
半目になる神木。小さくため息して撫子の横で壁に背を預けた。
「…俺はイケメンのお前が好きだ」
「…。えっ?」
うつむいて唇を噛む神木。
(好き?好きってゆった今?えっさとるがあたしの事好き?…っえええ!?)
カアアア赤面の撫子。の頭をグイッと押す神木
「お前が演じてるイケメンが好きってゆったの」
半目で唇を尖らせた。
「な、なんだ、そっかぁ」(でも嬉しい嬉しい嬉しい!)
パアアア一気に笑顔。神木はプイと横を向いた。
「先に戻るから」
残った撫子は
(イケメンのあたしが好き…!もっとイケメンに磨きをかけて頑張るっ!)
にやけが止まるまで頬を自分で挟んでプルプル。
神木が戻るとキキが待ってた。
「ねえ神木クン、やっぱり撫子と付き合ってるの?」
「…違うけど」
「なーんだぁー、同棲ってゆうからあたしそうかと心配してたー」
「何で」
「あのね?…神木クン撫子とあたしの仲を取り持ってくれない?あたし撫子が好きなの」
神木が目を丸くした。
「クールでアンニュイな所とか美形な所とか声と歌い方とか。
デートしたいけど自分で誘えないってゆうかー」
P「えーっキキ撫子が好きなのー!?てかそれじゃファンの好きと理由一緒じゃん!」
神木は思った、それ全部仮面だから、と――――――
「うっさいバカ!
ねえお願い神木クン」
「いいの!?三角関係にならない!?」
必死にウインクを飛ばしてくるP。神木は思案顔をした。
そこへ再びアンニュイイケメンに戻った撫子がきた。
「神木クンお願いっ」
キキに背中を押されて
「撫子。…キキが撫子のこと好きだって」
「え」
ついポヨ、と首を傾げた撫子。
「そうなの…っイケメンで歌上手い所ヤバくて!だから後であたしとデートしてくれない??」
神木を押しのけて言い切った。
P「結局自分で言ってんじゃん!」
「きっかけが必要なの!」
ギャアギャア。
P&キキが一緒に聞いてくる。
「で、どうなのっ!」
撫「えと、俺は…」
神「…デートくらいすれば?」
P「いいの!?神木マジいいの!?」
頷く神木。
(女の子の友達になれるかもしんないし)
「とりあえず友達になれ」
「!…うん…」
(さとる、上京してからあたしがずっと男で通してて現状周りに男しかいないこと気にしてくれてたんだ…)
内心きゅう、と嬉しくなる撫子。アンニュイイケメンオーラ全開で
「わかった。じゃあ…いつがいい?」
前髪をかきあげた。
ぶーっ!Pがまた鼻血を出す。
「えとね…明日いいかな」
キキが頬を染めてちっちゃくなった。
「へぇ、そんな顔もするんだ…女の子じゃん、いつもは強がりさんなの?」
キキの頭をなでる撫子。ジュワ~ととろけるキキ。
Pは出血多量、血をふきながら
「撫子イケメンぱねえ俺もヤバいぃ」
という事で翌日はデートである。
撫子は白くてゆったりした中性的なサマーセーターとスモークピンクのカーゴサルエル。
キキは胸にリボンとフリルのラインを付けた白い清純系ワンピース。
ライブの時のkannivalismとは全然違い髪も下ろしている。
「可愛いじゃん」
髪を一筋なでてやる。
映画を観る間、手をつなぐ。握るのが面倒になって恋人つなぎに変わる。
(これがさとるだったらなぁ)
「けっこう面白かったな」
「こないだプライムレンタルしたエクソシスト物には負けるわ。
口から大量の精液と釘を出すのよ、こうやって、うぶ、おゥブぇェェェ!って」
ジェスチャー付きで真似してくれる。
「お前それ好きな男の前でする事か?おもろいけど(笑)」
キキは悪魔主義全般が好きな問題児。
「この後どうする?」
「とりあえず歩こっか」
指先で手をつなぎ、シェイクをテイクアウトして木陰のベンチ。
苺味とチョコ味を交換し合う。
(楽しいな、やっぱり女の子同士は気楽でいいや)
キキのサッパリした性格も心地良い。
(よし、言うぞ)
撫子は今日密かな決意を抱いてきた。
「ねえキキ、突然こんな事言うのズルいのかもしんないけど…俺…実は好きな人がいて…」
キキは目を丸くした。
「キキみたく可愛くなれたらもっと自信持てると思うんだ…だからキキとは友達になって、色んな可愛い部分勉強さして貰えたらいいなって思ってるんだけど…」
「撫子、可愛くなれたらってどゆこと?可愛い方がいいはずなんて相手男?」
「…、」
小さく頷くと
「ショック!
まさかP?それともクラ?」
「誰かは言えない」
「嘘ー!撫子がそっちだったなんてー!」
「ファンにはバレたくなくて…協力してくれないかな、友達になって欲しい」
ワナワナするキキ。
「…っわかったわ。友達になる。
でもあたしだって撫子が好きだから、こっちを振り向かせられるように頑張るからね!?」
(ホッやった!神木が好きってバレずに女友達ゲット!)
「そうねー可愛くかぁ、じゃあお決まりかもしんないけどウインドウショッピング行く?女の子的な発想教えたげる」
「エヘヘ、ありがと」
はにかみを乗せ小首をかすかに曲げたその笑顔もやっぱり倒錯系イケメンである。
アクセサリーや小柄で可愛い服、メイク用品を楽しんで…夕方の電車は超満員。
ギュウギュウの中、キキを守る為に身を呈すと、撫子の腕の中でキキは撫子の胸に自ら身を預けてくっついてきた。そこでハッとする撫子。
(これ絶対グッとくる!)
なので次のライブの日、神木のバイクにニケツする時に撫子は思い切っていつもより密着した。
メットの中で赤面の撫子
(どうかな…)
心臓が高鳴る。
神木は撫子の腕がグッと食い込み体がいつもより押し付けられた瞬間ピクッとして、だが何も言わずバイクを発進させた。メットの中で唇をく、と噛みながら…
上記曲レッドローズをYouTubeにupしました♪検索は⬇
ミカン青 オリジナル曲「レッドローズ」
宜しければ聴いて下さいませm(_ _)m