表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゼンキンセンLOVE  作者: スピカ
love me
10/160

10.花は雨に濡れ愛を告げる

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


 スピースピー…


 微かな鼻息を聞きながら神木は押入れの天井を見上げて思った。


(撫子は俺よりPといる時の方が楽しい?自分で気付いてるの―――――?)


 押入れの戸越しに撫子を見つめる…





 さとるは笑顔で接してくれて、何も無かった頃に一見戻ったみたいだけど、違う。

 その笑顔は他人に向けるものじゃない?距離を置いてない?

 こんなのヤダよ、さとる、また前みたく笑ってよ、ほんとの笑顔をあたしに向けてよ、じゃないとあたし…エネルギーが切れちゃう…



 Pが遊びにきて、一見いつも通りの楽しい時間。

 だけどさとるはどこかPにあたしを譲ってて、Pは嬉しいけどちょっぴり気まずいかなーみたいなリアクション。

 Pは基本お気楽だからあんまり気にはしてないみたいだけど。

 こんなの…ヤダよ…




 キキのデス声の練習に付き合って、Pと3人海辺で、東京湾にデス声を放つキキ。


♪死 死 死 死 VO

血 血 血 血 VO

はらわた引き裂いて…


(楽しいな、今だけさとると気まずいの忘れれる)


 帰りに空き地のゴールでバスケして、腰を下ろした時


「クス、キキは元気で可愛い女の子。一緒にいたら誰だって好きになるよ」

 ニコッ。


 撫子の爽やかスマイル炸裂にキキは

「なら好きになってもいいのよ…ハアハア」

 両手で顔を隠す。

「だめっジュワ~てきちゃった!」

「何やジュワ~て?男なら勃起したて事か?」

 コク、と可愛く頷くキキ。

「怒んないんだな、心が広いよ」

 クスッと笑って撫子はキキの頭をなでた。




 7月ラストデイ。

 楽屋でPは若干興奮気味に言った。


「dark orangeのライブを業界人が見に来てるって噂やで!」

「えっマジ!?良かったなさとる!」

 撫子が笑いかけると神木はノーリアクションでクールに頷いただけで、

「なら舞い上がんないで良いって思われるように頑張ろ。頼むぜ撫子」

 ニコ、と撫子に向けた笑みはやっぱり距離があって。

「おう、任せな、バッチリ印象づけような!」

「勿論や!」

 Pが乗ってくれて四人で円陣組んで、一見普通に接するのに。


(さとるやっぱり前と違うよね…あたしがPとキスしたって知ったから?…でもさとるの夢の為に頑張らなきゃ)




 ライブ後、メールを見ていた冥海(クラ)が言った。


「神木、LUCYから引き抜きの誘いが来てる」

「なんやて!?」

 神木の目が大きくなった。


「今dark orangeはいっちゃん大事な時やないんか!?それをなんやLUCYめ!

しかもLUCYゆうたら女癖悪いで有名やないか!神木大丈夫なんか!?」

…クンドクンドクン

(さとる、あたしから離れていっちゃう――――?)

 足元がすうっと冷えてく感じが撫子を襲う。


「…引き抜かれたりはしない。dark orangeは辞めない。」


「そうか――そら良かったけど、じゃあどうすんの?断るんか?」

(ホッ良かった。さとる、あたしから離れていかないで)

 撫子の心が叫ぶ。

「…プレイ出来る場が増えるのはありがたい。けど…」

 クラが口を挟んだ。

「あそこギターとボーカルが一気に抜けて困ってんだよ、とりあえず繋ぎでサポートしてやるだけでもやれば?神木のキャパが増えるいい機会だろ」

(そっか、そうだよね)

「うん、俺もクラに賛成。神木、手広くやってもいいんだぜ?」

 精一杯気取られない為のアンニュイイケメン。

 神木は一瞬目を大きくしたが、まばたきして撫子を見ずに頷いた。

「分かった。お前らに背中押された。」


 クラの所に行きLUCYのアドレスを貰っている神木。

 キキが

「ちょっと」

 と撫子を廊下に引っ張った。


「ねえ、なんか撫子と神木クン仲悪くない?どしたの?」

 キキが眉根を寄せた。

(キキ鋭いな、でも)

 撫子はクールでアンニュイに返す。

「別になんも無いよ。ただ…最近ちょっとね、でもなんともないからさ」

 だがその困ったような寂しげな表情に、キキはもっと言いたい言葉を飲み込んだ。




 後日、神木はLUCY二人に誘われて顔合わせに来ていた。


「さぁて懇親会って事で。このままホテル行って3Pしちゃう?」

「は?」

「相手の体って気になっちゃうじゃん?ならモヤモヤするより最初にヤッちゃう方がいいよね」

「…」

「あ、二人受け入れんのキツいなら後で俺と1対1する?」

 カラカラと笑う二人は兄弟。上月(しょうげつ)(きょう)(20)と上月真夜(しょうげつまや)(21)。狂は茶髪、真夜は白く脱色して前髪を上げて分けている。

 二人共細身でよく似てるが真夜の方が若干与える印象が柔らかいか。

 神木はゆっくり目をしばたたいて腕組みをした。

「ま、冗談として。俺ら普段から女食い飽きてるからホントは神木とはヤッてもヤんなくてもいいの」

 カチッとタバコに火を付けて白い息を吐く。

「…。女癖悪い噂本当なんスね」

「あーそれ」

 また笑う二人。

「俺らは女の子側からすり寄ってきた時しか狩らないよ。

みんな俺を欲してるんだから、出来る限り応えてるだけ。

どうせ全部本命じゃないし」

 そう言った狂は普通にカッコいい。

「…いつか殺されますよ?」

「アハハ、かもな!」

「頼まれなきゃ手なんか出さないけど頼まれたら必ず応えるだけ」

 ニコニコとスレた感じの笑顔。

「こっちが後腐れ無いゴミ箱なんだよ」

「ヤりたい時は素直に言いな(笑)」

「けど神木マジクールな、ライブ見た時から思ってたけど、動じない奴」

「どうも。」

 じゃあとりあえずカラオケ行くか、と言い出した二人に連れられカラオケに…


「けど二人共話してみるといい人スね、女食いまくってんのにまだ殺されてないのなんか分かった。」

 狂と真夜は同時に吹き出し、

「こんなの世渡りの為の仮面じゃん!」

「神木騙されんなよ」

(これでマジ受けするの…)

 半目になった神木は二人に歌をせがまれて歌うと…


 真面目な顔で頷き合う二人

「神木いい声してんな。狂が歌ってもいいかと思ってたけど、ボーカル神木でもよくね?」

「線が細い声だけど中性的だしその弱々しさが逆に悲壮感てか、煽る感じあるよな」

「それっていいんですか」

「うん。その声でもっと強く叫べるようになったら最強じゃん?こりゃ鍛える必要あんな」

「神木ボーカルしてよ」

「…。俺が、ボーカル…」

 頷く狂と真夜。

「おだてて落とそうって訳じゃねーよ、こっちも真剣に言ってっからな」

「俺ら神木の事マジリスペクトだからね」

「…」

 少し考えて、コク、と神木は頷いた。




(さとる帰り遅いな…メールすら無いなんて)

 いつも寝る11時になっても帰らない神木。女たらしという情報の狂と真夜。

(まさか…いや、さとるは男だからいざとなったら、て、いざってなんだよ!)

 頭をプルプルッと振る撫子。

(でも大丈夫だよね?連絡は忘れてるだけだよね?…ジュースでも買ってこよっかな)


 コンビニの気分じゃないので自販機に行くと中学生3人がたむろっていたので素通りするふり

(はぁ、ジュースは諦めるか)

 ところがカツアゲされそうになる撫子。



 神木がアパートに帰ると真っ暗で部屋はカラ。

(撫子…どこ行ったの)

 すぐ探しに出る神木。



 小銭入れを守ってメンチを切る戦いをしてた撫子、が殴られ、顔をガードした所に、Pが現れた。

「お前ら何やっとんじゃ!警察呼ぶぞ!」

 警察、と聞くと中学生達は目配せし合って逃げていった…


「ありがと」


 そう言って立った撫子を抱きしめるP。


 ドキン…


「あ」


 サアアア…


「雨やな」


 撫子は自分で頬が染まるのが分かった。


「こんな夜更けに1人で出歩くな」


「Pだってこんな時間に1人じゃん」


「お前は女や、心配なるわ」


 ドキンドキンドキン…

「撫子…好きやねん、だから心配さすな」

 Pが撫子を見つめ、見つめ合った二人。


「撫子…俺のもんになれ」

「…っ」

 ドキン…

(あたしが好きなのはさとる、でも、Pは優しい、流されそうになる、駄目…)

 Pが撫子の頬に手をかけて、ゆっくりと顔を近づけると…

「!さとる」

 視線の先に神木が目を大きくして立っていた。


 にわか雨は土砂降りに変わる。

 神木がス、ときびすを返す。

「待ってさとる!」

 ピクリとして神木が止まる。グッとPを押して離れ、駆け寄ろうとする撫子の腕をパシ、と掴み

「撫子っ好きや!」

 真剣なPの声…神木が顔が見えないくらい振り向いた。

「…っ」

 撫子の目から涙がこぼれた。

「あたしは…っさとるが好きなの…!」


 Pの手を振り払い、泣きながらずぶ濡れの告白。

 ザアア…雨音だけがした。

 さとるが僅かに唇を噛んだ。

「…なんだよ、俺はお邪魔虫かよ」

 Pはくるりときびすを返すと去っていった…


 残された二人、しばらく雨音の中突っ立って。


 神木が苦虫を噛んだような顔をして語り出した。


「昔…ずっと周りからモデルになれる、絶対なれるって言われてるの見てて…撫子がいつかきっと遠くに行っちゃう、って、それがずっと怖かった。

だから俺が先に成功して、先に、遠くに行っちゃう前に撫子を迎えにこようって思ったんだ」

 トクン…

「さとる、それって告―――」

 カアア…

「友達として。」

 半目になる神木。

「そ、そっか、ともだちだからかー」

 パアアと笑顔。

 だがそれは無理矢理作った笑顔だと見てとれた。

 ザアア…雨が打つ。

「…帰ってシャワー浴びようぜ」

 神木が先に歩き出す。

「…うん」

 撫子もしょんぼり後を追った。




「先に風呂入れ」

「うん、ありがと」


 シャワーの中で涙が止まらない撫子。だがどうにか涙を押し込めて風呂を出る。

 神木が風呂の間、撫子は部屋の隅で膝を抱えて…


(どうしよう、告白しちゃった…さとるは友達として、てゆってたし、それって返事はノーって事だよね…)

 ズーンと落ち込む。

(どうしようこれから…同棲続けるの絶対気まずいよね、クスン…)


 神木が風呂から上がり髪を乾かす横で撫子はしょんぼりと自分の布団を引きブランケットをかぶってまた膝を抱え背を向けた。

 神木は何も言わず押入れに上がり…撫子はしょんぼり声をかけた。


「さとる、あたしもうここ出た方がいいよね、明日次住む所探しに行くから…」

「!…別にいいよ」

「ううん、あたしが無理…でもバンドはちゃんと続けるから…」

「…」

 押入れから降りた神木が部屋の明かりを消した。ドクンと心臓が高鳴る。

 頭を出して神木の様子を見る、神木は静かに撫子に近づいて。

 撫子は部屋の隅に後ずさって、壁に手が触れた。

 神木は静かに迫って、壁に追い詰められて…


 ドクンドクンドクン


 神木が壁に片手をつき、ゆっくり顔を近づけてくる…

「…ま、間違いは犯さないんじゃなかったの…?」

「…犯すよ、俺だって」

 神木が撫子の唇を奪った。

「……………っ」


 ふるふると震える撫子。神木は僅かに頬を染めて。また撫子の唇を奪った…



 Tシャツを脱ぐ神木、誘われて撫子もTシャツを脱ぐ。


(どうしようでもさとるの前なら素直になれる…)


 その時雲が晴れてカーテンの隙間から射した月光に照らされる神木の体。これが、さとるの体なんだ…

 心臓が口から出そうな程高鳴る。

 神木の指がツ、と撫子の心臓の位置をなぞった。

「さとる…好き…」

 どうしてそんなことしか言えないの?もっと色んな言葉があるはずなのに。

 小さく震えながら神木を見つめる撫子は、自分の表情は無自覚なんだろう。

 神木が撫子の白い体に、爪を立てて、触れて、口付けていった…――――――



 晴れた、月明かりの満月の晩だった――――――





 朝、撫子が目を覚ますとカーテンごしの陽光の中、目の前に神木の寝顔があって。

「!」

(そうだ、ゆうべ…)

 カアアア

 思い出して体ごと熱くなる。

 あの後、Tシャツを着直して、さとるに抱きしめられながら一緒に眠ったんだった。


 ジタバタしてると神木がフ…と目を開けた。

 目が合うと優しく微笑んだ。ドキ…


「撫子…昨日言わなかった、好きだよ」

(キャアアア!)

 顔を隠して小さくなった撫子を、クス、と笑って神木が起きて優しく抱きしめて髪にキスをした。

「おはよ」


(なにこれ∞!!!甘々なんですけどぉーーー!!!さとるってこんな人だったっけ!?ギャー!!!)




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ