第97話 ただ本能のままに・・・
路地裏に現れた女性『セレン』はかけていた術を解き、今立っている場所から降りてカオスの目の前に現れました。
「いや~・・・ わざわざ直接来てくれるとは思いませんでしたよ。」
カオスは面倒なことになる前に切り上げようと誤魔化そうとします。すると彼女は右腕に水を発生させ、それを先端を鋭利な形に変えてカオスの喉元に突き付けました。
「アワワワ・・・」
カオスは慌てて両腕を上げ、降参の意思を示します。すると彼女はいきなり本題に入りました。
「どういうつもり? なんでオークを見殺しにするような真似をしたの?」
カオスは仕方なくため息をつき、正直に話しました。
「ハァ~・・・ いえね、オークの働きぶりを見ようと足を運んだら、思わぬ『金の種』に出くわしましてね。それを収穫しようとしたまでですよ。」
「金の種ですって?」
「ええ、それで覚醒までは済んだんですが、力が有り余って暴走していましてね。ガス抜きにそこらにいた奴と戦わせています。」
カオスが微妙にはぐらかして詳細を語ると、セレンは腕を降ろし、納得のいかない顔をして返します。
「それでも、貴重な仲間を殺す意味にはならないわ。アンタには責任を取って貰うわよ!!」
セレンが再びカオスを睨み付けると、彼は疑問を浮かべてぽかんとします。
「だいたい何を言っているんですか? オークが死んだですって?
・・・ 本当にそうでしょうかね。」
「・・・ 何が言いたいの?」
_______________________________________
視点が戻って病院。オークに見えているフィフスに全く休憩無しに攻め立てる鈴音に、受けている彼はどうにか彼女を元に戻せないものか考えていました。
「アアァクソッ! 考え事してるってのに・・・」
そちらに気が向いていることを良いと思い、密かに経義はボウガンの発射準備を完了し、鈴音に照準を合わせます。
「よし、これで・・・」
後は引き金を引くだけ、それだけでした。
「魔人と契約するような奴だ、ろくな奴じゃない。殺したところで・・・」
経義はそう自分に言い聞かせますが、それでも引き金に向けている指は固まって動きません。
「・・・」
このとき、経義はオーク戦のために隠れていたときに聞いていた、フィフスと彼女の会話が頭の中によぎりました。
_______________________________________
「アイツは・・・ ウチが倒す! 倒さなきゃいけないの!! それが二人の臨みのはずよ!!!」
「勢いに任せて動いているなら、それは止めとけ。」
_______________________________________
会話の内容を思い出した彼は、ボウガンを持っている手先が震え出します。彼女の境遇に思うところがあったのです。
『・・・ ろくな奴なんかじゃない。鈴音は、俺と同じなんだ・・・ 魔人に家族がやられて、その復讐のために・・・』
経義は彼女の心境に自分と同じ者を感じ、構えていたボウガンを降ろしてしまいました。
『クッソ! 胸クソ悪い・・・ 何なんだよこの気持ち悪い感じは・・・』
経義はヘルメットの中で唇を噛み締め、頭では分かっていながら、体は動くことが出来なくなってしまいました。
彼が動かなくなったことで悪く言うとアシストがなくなっていしまったフィフスは、彼女の攻撃を受け続けているしか出来なくなってしまいました。
「ああ・・・ いつになったら終わるんだよ、これは・・・」
しかし彼女は錯乱したまま倒すまでフィフスを攻撃するつもりで動きます。
「やめろ! やめろ!!・・・」
しかし彼の必死な声にも彼女は聞く耳を持ちません。いつしかフィフスはその事に苛立つようになっていきました。そして・・・
「いい加減に・・・
・・・ やめろぉ!!!」
彼は発生した怒りのままに鈴音の攻撃を捌くどころか、あれだけ経義を制止していた自分が殴りつけていたのです。それを見た経義は当然驚いた反応をします。
「アイツ・・・ あれだけ俺を止めておいて何をしてんだ!?」
しかもフィフスはそれに飽き足らず、右の拳を強く握って前に突きだし、それを放しました。すると彼と鈴音の間の空間が突如爆発したのです。
「<火炎術 爆破裂>」
フィフスは怒りのまま白目の部分を赤く充血させ、魔術まで使って彼女を攻撃したのです。更にそこから鈴音の反撃のパンチをかわすと、発射方向に病院があるにもかかわらず破壊炎の構えを取り始めたのです。
「アイツ、殴られ続けて気でも狂ったのか? クソッ・・・」
今度は経義が彼を止めようと走り出しました。
「何度も忠告したのに無視りやがって・・・ もう限界だ・・・」
そのときのフィフスは、鈴音をも凌いだ殺気に満ちていました。経義は明らかにおかしくなっている彼の間合いに入ります。
「止まれ!! 病院ごと吹っ飛ばす気か!!?」
しかしそのとき、フィフスが破壊炎を出そうと魔力を込めた途端に衝撃波が発生し、病院の自動扉や窓を破壊し、経義を弾き飛ばしてしまいました。
『ウオッ!!?・・・』
経義は無事着地し、冷や汗をかきながらフィフスを見ました。
『何だこれ? さっきの女の魔術とは明らかに違う。』
経義はフィフスの様子に違和感を感じますが、もう間に合うはずもなく破壊炎は撃たれようとしました。
「周りごと吹っ飛べ!!!」
フィフスは両手を正面に合わせてしまいました。経義は止めようと再び動こうとしますが、さっきのことでスーツが壊れてしまい、その場でただ叫ぶことしか出来ませんでした。
「やめろーーーーーーーーー!!!」
ピカッ!!
そのとき、彼らを救う一筋の光明が差しました。
<魔王国気まぐれ情報屋>
・契約の魔道書の真相③
そうして何が原因なのか調べていくと、何度も魔道書を使っていた賢者の一人が他の者以上に大きく苦しみ出しました。そこから少し時が過ぎたときだった。
賢者から黒いもやがあふれ出し、途端にそれは彼の体を包み込み、その姿を醜い魔神の姿に変貌させてしまったのだ。
残りの賢者達は目の前の事実に驚くと共に恐怖します。するとその度合いが強い者から順にさっきの賢者と同じく黒いもやに体を包まれてしまい、ことごとく魔人に姿を変えていった。それは苦しんでいた使用者達もみなそうで、国はいつの間にか一面が魔人であふれかえっていた。