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第95話 契約の禁忌

 カオス一人を除いて張り詰めた空気が流れる病院の庭。フィフス達はカオスにどう攻め入ろうか考えながら彼の話を聞いていましたが、中々どうして体は動きません。というのも、彼が見るからには隙だらけすぎたからです。


 『クッソ、やりずれぇ・・・ 完全にピエロに踊らされてる感覚だ・・・』


 仕方ないながらもフィフスが動かなかった理由には、カオスが語る話に興味があったのも一理ありました。そこでどういう事か詳しいことを聞きます。


 すると当の本人は、楽しそうに話を続けました。


 「あの魔道書は契約のつながりを作るとき、魔人の魔力が一部契約者に流れるようになっているんだ。まぁそのおかげで契約関係者はテレパシーで通信が出来るわけだけども・・・


 ・・・この魔力はいかんせん人間に押さえ込める代物じゃない。なんせ原料である邪気がほぼそのままの状態なんだからね。」


 訳の分からない経義を余所に、くるりと歩きながら後ろを向いたカオスにフィフスは聞きます。


 「それが、どうかしたか?」

 「契約は完了した途端に魔人と契約者のつながりはなくなる。でも移った魔力はそのままになる。これがどういうことか分かるかい?」


 フィフスは彼の説明を聞いてなんとなく分かった答えを言います。







 「・・・ 人間はその邪気まみれの魔力に耐えきれず、それを受け入れるために自身の体を異形な形に変形させる・・・ そういうことだな。」







 正解を言ったフィフスに、カオスはまた彼の方を向いてこう付け加えました。


 「ま、そう言うことだ。魔王子君は知ってると思うけど、あの国は多くの英雄としての勇者を輩出している国だからね。ヒーローで居続けたいがために情報を操作して誤魔化したのさ。」


 フィフスはカオスの説明を聞いて納得のいくこともありましたが、同時に余計気になることができました。


 「ならお前、どうしてこんなことをし始めた!? それもわざわざ異世界で?」

 「ハハ、いいことに気付きましたね魔王子君! ポイント一点を加点してあげよう。」

 「ふざけるな!!」


 フィフスは何かの癪に障ったのか、後先を考えずに放射炎を繰り出しました。しかしカオスは鈴音ごと炎が消えたその場所からは消え、再び聞こえた彼の声の方に顔を向けると、カオスはいつの間にか二人の後ろにしゃがみ込んでいました。当然そこには鈴音も一緒です。これを初めて受けた経義が声を失って衝撃を受けていると、彼はフィフスの質問に答えました。


 「この世界に来た理由は二つ。一つは向こうの世界では禁術を広めるのは、余程のバカでない限りリスクが大きいから。もう一つは・・・






  ・・・ この世界にも魔力持ちの人間がいたからだよ。例えば君の隣にいる坊ちゃんや、今僕の後ろで苦しんでいるお嬢ちゃんがね。」




 カオスは鈴音に親指を指してそう言い、その中でフィフスは反応します。


 「鈴音も?」


 カオスは彼の言葉に答えながら、しゃがみ込んでいた体を立ち上がらせ、鈴音に向かって行きます。


 「過去の時代、契約の魔道書の副作用で覚醒した魔人達は、その殆どが性格が変わったり、もしくは人格そのものがなくなって暴れ出した。混乱した国民達は一目散に逃げ出し、中には当時稼働していたゲートを通って異世界に逃げてった奴も多かったそうでね。


 彼女達はいわば・・・ そんな負け犬さん達の子孫ってとこだそうだよ。」


 「負け犬・・・ だと!?」


 経義は魔人であるカオスの言うことに激しく怒りを感じました。


 「貴様! この俺の先祖を負け犬と罵るか!!」


 しかしカオスは彼の言葉を聞かず、苦しんでいる鈴音の頬に触れようとしました。すると彼女は反射的に魔術を出して応戦しようとしますが、カオスは瞬時にウォーク兵を召喚して攻撃をかばわせ、機能を停止して倒れたところに追加でウォーク兵を数体出して彼女を羽交い締めにさせました。


 「でも、今回はマズかったようだね・・・」


 カオスは彼女の顎に触れると、くいっと持ち上げて自分に近付けます。


 「元から魔力が多かったせいで、話すことも出来ずにただがむしゃらに苦しんでる・・・ こりゃ失敗だなぁ・・・」



 「失敗・・・ カオス、お前の目的は何だ!!?」


 フィフスは目に殺気を込め、ドスのきいた声で聞きます。カオスはまた振り向いて素直に答えました。




 「僕の、いや、僕達の目的は一つ・・・




  ・・・魔人が支配する世界を作り出すこと。そのためにこの世界の人間には下辺になって貰おうと思ってね。」





 自身の口から出た目的を聞いた二人が唖然としているのを見て、カオスは仮面から見える目をニヤけさせます。


 『そうだ・・・ いいこと思い付いた。』

 「アァーーー!!! アアァーーーー!!!」


 するとカオスは尚ももがいている鈴音の目元に手を触れ、それを放して拘束を解きました。


 「さ、見てご覧。」

 「ウゥーーー・・・」


 鈴音がそうして前を見ると、何故か倒したはずのオークが映っていたのです。


 「・・・ キッ・・・ サマ!!・・・ ナン・・・ デ!!?・・・」


 しかしその先に実際にいたのはフィフス達でした。


 『何だ? 鈴音の様子が・・・ 変わった・・・』


 次の瞬間、鈴音は唐突に素早い動きを見せてフィフスに殴りかかってきたのです。


 ドンッ!!


 「グッ!?・・・」


 フィフスが突然のことに驚くと、カオスはニヤニヤしてその理由を話します。


 「その子に君達がオークに見える幻術をかけました~・・・ これで君達が適度なガス抜けをしてくれれば、正気かはともかく人格は出来ると思うから。」

 「カオス、てめえ!!」

 「まったね~・・・」


 カオスは余裕のこもった表情を崩さないままに、一瞬にして今立っている場から影も形もなく消えてしまいました。

<魔王国気まぐれ情報屋>


・契約の魔道書の真相①


 昔、魔人からの侵略に怯え、一方的に潰されていた人間達は、多くの国が手を取り合い、対抗戦力としての戦士を選りすぐった。



 しかし当時の人間は魔力はあれどその使い方が分からない者が多く、教えたにしても圧倒的な経験の差で、魔人に蹂躙されるのが落ちだったそうだ。



 そんな中で一度勝負に出た。数少ない魔術使いであった賢者達が知恵を持ち寄り、一つの魔道書を完成させた。



 それがこの『契約の魔道書』、携帯できる本の中に魔人を封じ込め、その魔人に一つだけ命令を与えて従わせることが出来るという物だった。多くの人が魔術が使えないのなら、魔人を手なずけて同士討ちをさせればいいと思ったのだ。


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