第94話 美女が野獣
その場の二人は目の前で起こったことに目と口を開いてあっけにとられていました。
「人間が・・・ 魔人に・・・」
『あの仮面野郎・・・ これが奴の目的だったのか・・・』
キマイラはそれを見ると、彼女のことに気を取られている二人を余所にその場から羽ばたいて離れていきました。
キマイラはそこから向かって行った場所は、先程からカオスが居座っている建物の屋根の上でした。それに気付いた彼はその顔を両手で捕まえてなだめます。
「おおっと、どうどう・・・ よしよし、良くやったね、キマイラ。」
キマイラはどうやらカオスに懐いているようで、顔を彼の体に当ててスリスリします。カオスはそれを少しの間なでていると・・・
「用済みだよ、甘ったれ君。」
「?」
キマイラがその言葉の意味を分からずに首を傾げると、カオスが再びキマイラに触れた次の瞬間、キマイラは細切れに四散し、次に粉々になってあっという間に消えてしまいました。
「でかい獣は目立っていけないね。人間の魔力を引き出すには効率がいいから今回は呼んだけど・・・
・・・ さ~てと、行くか。」
するとまたカオスはその場から消えました。
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戻ってフィフス達、さっきまで人間だった鈴音の変わり果てた姿にどうすればいいのか分からなくなっています。
「どうすんだ・・・ 鬼!?」
「わかんねえよ・・・ 俺だってこんなことを見るのは初めてだ!!」
二人が戸惑ったまま膠着状態になっていると、その視線の先にいる彼女はどうにも苦しそうです。
「ウゥ~・・・ ウグゥ~・・・!!」
すると鈴音は苦しみながら顔に近付けていた両手を降ろすと同時に叫びだし、それにつられるかのように周りの地面が爆発しました。
小規模ではあるものの、そこから発せられた余波を感じました。
『何だ!!? 今の・・・』
『そこらの魔人とは、圧が違うぞ・・・』
どうにも本調子が出ていないのか、鈴音は体を震えさせて叫ぶだけです。しかしさっきので経義はマズいと感じて剣を握っていた右手の力を強めて走り始めます。
「牛若!!」
「コイツはもう人間じゃない! これ以上放っておけば何をしでかすか分からん!! だから止める!!!」
そんな彼の動きをフィフスは止めます。
「止めろ! アイツは戦いに無縁なただの人間だ!! 巻き込むな!!!」
「黙れ魔人! お前だってどうせ、散々理不尽に人殺しをしてきたんだろ!!!」
フィフスは経義からのひねりのない言葉に胸に針を刺されたような思いになりました。炎に燃える森の光景を思い出したのです。
「そんな奴が、情けの言葉など語るな! 退けっ!!」
「・・・」
経義は何故か力が弱まったフィフスの手を放し、鈴音に向かって走って行きます。そして彼の大剣の刃が苦しむ彼女に届こうとしたそのときでした。
「はいは~い、そこまで~・・・」
「ナッ!!?・・・」
そこにはいつの間にか、経義と鈴音の間を割って突然カオスが現れ、彼の剣の刃を二本指で掴んでいました。
『誰だ!? コイツは・・・』
経義は彼と会うのは初めてだったので、突然現れた変な格好の男に驚いています。するとその男を知っているフィフスは眉間にしわを寄せて彼の名前を言います。
「カオス・・・ やっぱ来たか・・・」
「カオス!? コイツが!!?」
フィフスに声をかけられたカオスはその方に首を向き、いつも通りフランクに話しかけます。
「ヤッホー、魔王子君。どうしたの~、いつもと違って感情的になっているようだけど?」
『魔王子?』
経義は聞き慣れない単語に疑問を浮かべます。対してフィフスは大声のまま続けました。
「うるさい!! お前、鈴音に何をした!!?」
「そう声を上げないでよ~・・・ 見てて大体分かっただろうから、種明かしをしに来たのに。」
カオスは軽々と経義の大剣をそこから上に放り、彼の重心が後ろに向いたのを見て鈴音ごと後ろに下がりました。
『コイツ! 俺の大剣を軽々と・・・ 重さと振り込みでかなりの勢いがあったはずだぞ・・・』
経義はカオスが今さっきしれっとやってのけた事に驚きます。その後ろで立っていた後ろのフィフスはここは素直に聞きました。
「種明かし・・・ だと?」
カオスは距離を取っていることを確認し、ケラケラと笑いながら語り始めました。
「これはね、『副作用』だよ。」
「副作用?」
「魔王子君・・・ 君も知っているように、現在向こうの世界において、契約の魔道書は禁術として扱われている。それは何故だと思う?」
何の話をしているのか分からない経義を余所に、二人の会話は続きます。
「何故って・・・ 大抵の場合、契約を完了した途端にその魔人に襲われるからじゃないのか?」
「ハハハ・・・ まぁ表向きにはそう伝わっているね。全く、開発元の『聖国』の性格の悪さがにじみ出ているな~・・・」
聖国という言葉を聞いて、フィフスは眉をピクリと動かして反応します。
「じゃあ、まさか・・・」
フィフスが何かを察したことに気付くと、カオスは嬉しそうに手を叩き、彼の考えていることを代弁して言います。
「ハァイ、その通り!」
カオスは苦しんでいる鈴音に手を向け、もう一方の手を二人に向けてハッキリとこう言いました。
「これこそ契約の代償・・・
・・・ 願いが叶うと同時に、その契約者は『魔人』になってしまうのさ!!!」
カオスは高らかに笑い、彼の言うことを聞いたフィフスと経義は大きく衝撃を受け、言葉を失って固まってしまいました。
<魔王国気まぐれ情報屋>
・魔力量
魔力量は、その魔人や魔獣の大きさによって左右されます。いくつか例外はありますが、大きい魔獣はそれだけ魔力があります。
カオスはこれを利用し、鈴音を早く覚醒させるためにキマイラを使いました。