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第93話 美女とキマイラ

 鈴音が一度願ってしまえば、その後は簡単に進んだ。いや、進んでしまったのです。彼女の間違った悟りの方向に向かって・・・


 パァァ・・・


 「何!? 本が光った!!?」


 彼女が触れた魔法陣は途端に光り出し、空中に大きく投影されます。鈴音はそこから何が出るのかと思っていると、それはその場にいたフィフスや経義、果てはオークまでもが驚きました。


 「契約の魔道書!? 何で青のガキがそんな物持ってんだ!!?」

 『契約の魔道書? ドクターが言ってた魔神を呼び出すとかいう本か。』


 魔法陣から出て来た存在は、魔人では無く魔獣だったのです。それもその大きさは、そのものの近くでフィフスと戦闘中だったウォーク兵達を軽々と踏み潰してしまいました。


 フィフスはその直前に上から大きな影が見えたのでなんとかかわすことが出来ました。しかしそんな彼も額に冷や汗を流しています。


 「・・・ マジか!? 契約の魔道書はこんなもんまで呼び出すのかよ。」


 すると戦闘中だったオークが動きを止め、急に顔色を変えて青ざめました。そして震えた声を出します。


 「な・・・ なんだよこれ!? カオスの奴! はめやがったのか!!?」


 オークが無意識にそんなことを言ったので、彼の近くにいた経義は少し気にします。


 『カオス・・・ 誰だそいつは?』


 しかし目の前に現れた巨大な魔獣が何をしてくるのかとそちらに気を張ります。


 「オイ鬼! あの怪獣は何だ!?」

 「俺のいた世界にいる魔獣、『キマイラ』だ。まさかこんな形でお目にかかるは思わなかったけどな・・・」


 そのキマイラを呼び出した当の本人は、ついさっき自分がやったことに対して驚いていました。


 「こ、これが・・・ ウチを助けてくれる・・・ 力?」


 「グゥゥゥゥゥゥゥ・・・





  グオォーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」


 魔道書から完全に飛び出したキマイラは、そこら中に響き渡るような程の大きな雄叫びを上げ、フィフス達はすぐに耳を塞いでどうにか凌ぎました。


 「ウオッ!!・・・」

 「クッソ、あの怪獣(バカ)・・・ 病院じゃ静かにする常識を知らねえのかよ!!」

 「異世界人が常識を語るな。」


 とりあえず音がやんだのを見て三人は耳に当てていた手を外しながらしょうもないやりとりをします。それに対してキマイラは、その威圧のこもった鋭い目付きをオークに向けて睨み付けました。


 「ナッ! その・・・ うそだろ・・・ オイ!」

 『『分かりやすいイヤな予感・・・』』


 二人の悪い予想通り、キマイラはその巨体をオークに向かって一直線に突撃した来ました。あまりの大きさによる体重にその踏んでいる地面が陥没しています。


 その進路にいたフィフスと経義はとばっちりを受けそうになり、どうにか回避しました。そしてそのキマイラのターゲットのオークは完全にその巨体に恐れおののいて病院から逃げ出そうとします。


 「ヒッ! ヒィーーー!!!」


 鈴音はどこか乾いた目をして笑顔になり、小さい声で独り言を呟いています。


 「す、凄い・・・ これなら、パパ達の恨みも晴れるよね・・・


  ・・・ハハッ! ハハハ!!」


 当然それを見てキマイラも追いかけようと動きます。フィフス達はその事に危機を感じます。


 『マズい!! コイツがそのまま都市のど真ん中に行ったら・・・』

 『それこそエデンでも隠せないレベルの大惨事になるぞ!!』


 すぐに二人は動き、キマイラが病院の敷地から出る前に立ちはだかりました。


 「考えは一致したようだな。」

 「順番を変えるだけだ。オークもお前も後から切る。」


 しかしキマイラは当然ながらそんな二人に興味などなく、オークめがけて背中の大きな翼で飛び出しました。


 「空まで飛べるのか!?」

 「ああクソ!! 『俺の炎じゃ病院ごと燃やしちまう。グレシアがいたら助かったんだが・・・』」


 経義がマグナフォンを銃に変形させて連射します。しかしどういう訳かキマイラには通じませんでした。


 「チッ! なぜだ!?」

 「キマイラってのはあの巨体で常に暴れている奴だ。故に多少痛みがあろうが気にしない習性になってんだよ。その銃じゃ相手にならん!」

 

 キマイラは一匹で妨害をものともしないままにオークに攻撃が当たる間合いにまで入りました。


 「そんな・・・ ちょ、ちょっと待ってくれ!!」


 当然そんな言葉が魔獣のキマイラに通じるはずもなく、その爪による攻撃をギリギリで回避しました。


 「ヒッ!」


 すずねはそうして恐怖で慌てるオークの様子を見て、乾いた笑顔が更に協調されます。


 「いいわ! そのまま追い詰めて。引き裂いて!!」

 「鈴音? 『様子が変だ・・・』」


 彼女が視界に入ったフィフスは、いつもクラスで見る彼女とはどこか様子が違うことに気が付きました。するとそんな彼女の体の周りから、黒いもやのようなものがたれ流れているのも確認します。


 「ッン? あれは・・・」

 「オイ鬼! 片手間の戦いをするならお前から切るぞ!!」

 「うっせ!! 少し黙ってろ!!」


 フィフスはそこでこの前のノギのことを思い出しました。


 『あの黒いもや、こないだの勇者と同じ・・・ てことは・・・』


 次に彼はその騒動でカオスが言っていたことを思い出します。


_______________________________________


 「お、オイ・・・ 何だよ? これ・・・」

 「『邪気』だよ。魔力の元になる成分みたいなもんさ。」


_______________________________________


 『あれがもしその邪気ってんなら、マズい!!』


 フィフスは脇で聞こえる経義の声を無視して鈴音のもとに向かいました。しかし丁度その頃、キマイラは追い詰めたオークが大量の汗を流しながら怯えています。


 「今だ!」


 経義はキマイラがオークに気が向いている隙を見て、すぐに大剣を振ります。しかしそれすらもかわしてオークを抱えたまま空を飛び、口元に魔力を集中させ始めました。


 「何だ!?」

 「アッ!? アァーーーーーーーーーーーーー!!」

 「イケェーーーーーーー!!! 殺せーーーーーーーーーーーーー!!!」


 鈴音の叫びを聞くと、キマイラはオークを宙に放り出し、口から出した光線を直撃させました。


 「アガァーーーーーーーーーーーーー!!!!」


 オークは大きな断末魔を上げ、そして爆散しました。それを自分の目で確認した鈴音は、片目から涙を流して笑顔でいます。


 「やった・・・ やったよ、パパ、ママ・・・」


 すると・・・











 ドキンッ!!!・・・



  ・・・ ッン!? 何? 急に胸が・・・」


 フィフスは、彼女の体から出る邪気の量が急激に増えるのを見ました。


 「クソッ! 間に合わなかったか!!・・・」



_______________________________________


 一行には見つからない建物の上で様子を見物しているカオス。彼は突然何かに気付いてハッとしました。


 『始まったか。 助かったよおーク、君の収穫だ。』


_______________________________________


 鈴音の体から出た邪気は、彼女の目にも見えるほど肥大していき、離れていた経義もそれに気付きます。


 「何だ? あれは・・・」


 そしてその邪気はとうとう鈴音のかっらだを包み込み始めます。彼女はその途端にそこから足が動けなくなり、訳が分からなくなります。


 「何!? イヤ!! 助けて!! キマイラ!!!・・・」


 しかしキマイラは傍観するだけで動こうとしません。対してフィフスは彼女に手を伸ばして助け出そうとします。しかし至近距離まで近付いた途端に邪気に弾かれてしまいました。


 「ドワッ!! ここまで増えてるのか・・・」

 「イヤーーーーーーーーーーーーー!!」


 鈴音は声を上げながら邪気に前進が包まれてしまい、そこから邪気は彼女の体に張り付くように形を変えていきました。


 「これが・・・ カオスの目的か!!」


 次の瞬間、邪気は黒く光って周囲に飛び散り霧散しました。その中から出て来たのは・・・





 「あぁ~・・・」



 鈴音だったはずの、『魔人』でした。

<魔王国気まぐれ情報屋>


モチーフ紹介


・キメラオーク

 『三匹の子豚』より三匹の子豚


・キマイラ

 『美女と野獣』より野獣


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