第92話 合わないコンビ
鈴音は目の前に現れたオークに一瞬驚きましたが、すぐに昨日の事を思い出していきり立ちました。ただし、流石にこのことは気になったようです。
「どうして、ここに来たの?」
「お前が標的だからだよ。」
鈴音は目を開いてフィフスにその顔を見せる反応をします。そんな彼女にフィフスは端的に説明しました。
「このオークが狙っていたのはいつも一個人のみ、しかも調べたところそいつらには全員共通点があったんだよ。」
「共通点?」
彼の話を終わらせる前にオークは攻撃を仕掛けてきます。しかしそれにフィフスは動きません。そこに近付いてくる存在に気付いていたからです。
「死ね! その赤鬼諸共な!!」
「その言葉、返させて貰う。」
するとオークの近くの物陰から経義がスーツを着た姿で飛び出し、持っていた大剣で切りつけました。しかし直前に気付いたオークはそれをかわしました。
「チッ・・・」
「いつの間にいたの!?」
「俺がドクターに頼んだんだよ。」
するとフィフスは少し離れたオークに言いました。
「お前の契約内容はなんとなく分かっているぞ。ヤーリューバー狩りだろ。」
「ヤーリューバー狩り!?」
「ケッ! もうバレちまったのか。」
オークはケチを付けた顔をします。フィフスはそこから警戒をしながら、担いだままの鈴音に説明しました。
「コイツに被害者の共通点は、全員揃ってヤーリューバー、それも登録者数の多い人気者達ばっかだった。大方、契約者の臨みは自分のチャンネルの点数稼ぎだろう。」
その事を聞いた鈴音は顔が固まってしまいました。
「そんなことのために・・・ パパとママや、他にもたくさんの人達が・・・」
そして彼女は己の拳を強く握りしめ、自身の思いを寄り強く意識してしまいました。そのことに彼女を抱えていたフィフスは気付き、こう声をかけます。
「ムカつくのは分かる。が、それは抑えろ。この場で俺が片付ける。」
そう言うと、フィフスは抱えていた鈴音を降ろし、下がらせました。しかし念のため契約の魔道書は持ったままです。オークはそれを見つけ、当然ながら強く反応しました。
「お前! なんでそんな物を!?」
「ま、色々あってな。 お前は気にする必要は無い。」
すると二人の会話って割って入り、経義は堂々と剣をオークに突き付けてしゃべります。
「何にしろどうでもいい。先に言っておくが・・・ お前はここで俺に切られるからな。」
『わ~・・・ イキった決めぜりふ・・・』
冷めたジト目で一度経義を見た後、フィフスも術装を発動しながら剣を抜き、オークに目線を戻して構えました。しかし二対一の状況でありながら、一瞬何かに反応するそぶりを見せたものの、余裕な態度を崩しません。
真正面から飛び込む経義と何か無いかと警戒しながら攻めるフィフス。そんな二人の攻撃は全く息が合わず、攻撃が当たる前にお互いにぶつかってしまいました。
「「ホゲッ!!?」」
「邪魔すんな! 魔人が!!」
「脳筋で攻めんな、考えて動け!!」
「クッソ・・・ だったら・・・」
そしてすぐに二人は立ち上がって再び攻撃を仕掛けましたが、まるでフラグを回収するかのようにまたぶつかって弾かれてしまいました。そこからも一切事が進まずに二人で悶着し続けています。
「ちょっ! おま、そこ退け!!」
「お前こそ邪魔だ! 俺の指示に従って動け!!」
「真正面から突っ込むことしかしない奴が何言ってんだ!!」
「アァーーー!! 痛い痛い!! 腕が食い込んでる食い込んでる!!!」
オークはそれを見て余裕を通り越して呆れた様子でこちらを見ていました。後ろに隠れていた鈴音もそんな二人に怒ります。
「何なのよ!! 全然攻撃すら出来てないじゃない!!」
そこから更に状況は悪くなりました。もみくちゃになっている内にフィフスは左手を弾かれ、知らぬ間に魔道書を放り出してしまったのです。そしてそれは鈴音の近くに落ちました。
「ッン!・・・」
鈴音は今ならと魔道書に手を出します。そのとき、フィフスもそれに視線が向きました。
『いつの間に、マズい!!』
経義やオークを無視して急いで走り出します。その行動にオークは笑い出しました。
「へへへ・・・ お友達は逃げてったぜ?」
その言葉に、経義は敏感に反応し、フィフスの方を向いていた体をオークの方に戻しました。
「勘違いするな、アイツは後回しにしただけだ。それに、下手くそなアシストが入るよりよっぽどやりやすい。」
そこから二人は両者拮抗した勝負を始めます。対してフィフスは鈴音を止めそうとしますが、少し空間がある距離まで来た付いてきたとき、前方の地面に魔法陣が複数個出現し、そこからウォーク兵が召喚されました。
『ウォーク兵が来たって事は、やっぱカオスの計略か。』
「そこを退け!!!」
フィフスはとにかく前を通ろうとしますが、ウォーク兵達は代わる代わるにそれを防いでいきます。それを離れた所から見ているカオスは、独り言を呟いていました。
「さぁて、仕込みは万全・・・ 後は彼女に願って貰うだけだね。」
そんな彼の後ろには、二つの影がありました。その彼らの荒ぶる鼻息を聞いて、カオスは機嫌を取ろうとします。
「まあまあそういきり立たないでよ。丁度今、セレン様から連絡が来たよ。」
二体はその後のカオスの指示を聞くと、散らばっていきました。
「じゃ、こっちも見届けようかな・・・ 少し手を出しながらね。」
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鈴音は魔道書の触れる直前、ふとフィフスの言葉が頭にちらつきました。
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「一感情に走って動くとろくな事になんねえぞ。」
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そして彼女は悩んで動きを止めてしまいました。すると魔道書が風に吹かれ、魔法陣のページが開きます。更に彼女な頭の中に、今度は昨日の情景が思い浮かんできました。これは全てカオスがやっているのですが、本人は全くそんなことには気付きません。
『そうだ、これは一感情なんかじゃ無い! 二人や他の被害者だってこれを臨んでいるはずだぞ!!』
そうしてとうとう鈴音は魔法陣に触れてしまいました。
「・・・ 復讐したい!!」
<魔王国気まぐれ情報屋>
タウロス
信が開発した『牛』をモチーフとしたスーツの一つで、『牛若 経義』の専用機として調整されている。魔人を恨む彼の性格に合わせた近接特化型になっており、拳や足にも多くの人口魔石を使用し、強烈な打撃を与えることが出来る。
装備として刃に人工魔石を使った大剣を使用し、スーツのパワーもあってある程度の相手なら軽く一刀両断出来る。
大剣は変形させることで一戦闘一回のみ使用できるボウガンとなり、その矢の威力はフィフスの破壊炎に匹敵する。