第87話 ベルリズム
ユニーの速さのおかげで素早く現場に到着しました。しかし、到着したときには辺りはもぬけの空になっていました。
「チッ・・・ 足の速い奴だ。」
そこには、大怪我をして倒れていた成人男性、そして何故が画面がたたき割られたスマートフォンがありました。フィフスは自分の立場を考え、すぐにドクターに電話をしました。
すると、ユニーから降りた瓜がその男の顔を見て、首を傾げて浮かない顔をしています。フィフスはそれを見かけて声をかけました。
「どうした?」
「ああ! いや・・・ 『この方、どこかで見たことがあるような気がしまして・・・』」
「知り合いか?」
『いえ・・・ そういうわけでは・・・』
瓜の中途半端な返答にフィフスはもやつきます。するとドクターから電話がかかってきました。瓜からやり方を聞き、フィフスはスマホをスピーカーモードにしてそれを聞きます。
「報告ありがとう五郎君。」
「何か分かったのかドクター?」
電話の向こうの信は変わらず飄々としたまま話を続けます。
「どうやら経義君の所も、もう一人に向かわせた所も君と同様だったようだ。現場は公園にレストランにマンションと様々だが、そのどこでも襲われたのは一人だけだ。おそらく的はピンポイントで人を狙っていると見ていいだろうね。」
「ちょっと待て! 同時に三カ所で犯行が起こってんだぞ。契約者が三体も同時につるんだってのか!? いくらカオスのやることでも大盤振る舞い過ぎるだろ!?」
その通話はグループ通話になっていたようで、勝手に経義も割り込んできました。
「魔人の言うことなど信用できんが、もしそうならどうやった?」
すると信がこんなことを言い出しました。
「一つ僕に当てがあるよ。」
「「当て?」」
信は例のごとくコーヒーを飲んでから続けました。
「この前君達が出会ったときに現れた魔人がいただろ。確か『オーク』だっけ?」
「おう、そうだ・・・ 本来あんな姿はしていないがな・・・」
フィフスがキメラオークを思い出してまた気味悪く感じると、経義は強気な感じでまた会話に入ってきました。
「俺が一発で倒した奴だな。」
フィフスは経義の台詞にむず痒い顔をし、信は机に手に持っていたコーヒーを置きました。
「あの後、五郎君の件で夜になってしまってから部隊をそこに派遣したんだ。
・・・でも、そこにオークの死体は無かったそうだ。」
「「「!?」」」
信の言葉を聞いた三人は同時に驚きました。そこから最初に質問したのは経義でした。声のトーンが怒りを感じさせます。
「オイ、ドクター・・・ まさかその魔人を俺が倒し損ねたって言うんじゃねえよな!?」
フィフスは経義の言うことに呆れています。しかし信は彼のプライドなど考えずスパッと言います。
「そのまさか、もしくは何らかの方法で蘇ったか・・・ だろうと思っているよ。
・・・ 五郎君、君の知る術にそんな物はあるかい?」
信からの質問に、フィフスはスマホを瓜に持たせ、戦場で慣れた手つきで怪我人の応急処置をしながら答えました。
「俺の世界に死から命を戻す術は存在しない・・・ 『あの種族は滅んだはずだしな・・・』
・・・が、死にかけの奴を治すものなら心当たりがあるぞ。正解ならこっちとしても驚きだがな・・・」
フィフスは瓜も含めた面々が気になります。
「ほう・・・ で、それは?」
フィフスは手当を終え、少し暗いトーンで話し出しました。
「・・・ 『人魚の血』だ。」
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その頃、そんなことが起こっているなどとは少しも知らない、平凡なとある家の一室。
そこには一部に背景用の壁紙が張られ、その中心には髪色が明るい女子高生。そしてその目線の先には、固定されている手持ちカメラがありました。
すると彼女はカメラに向かって大きな声でしゃべり出します。
「ハァーーーーーイ!! みーーーんなのヒロイン!! ベルリズムだよ!!!」
彼女は『ベルリズム』、グレシア達も見ている若者に大人気のヤーリューバーです。彼女は毎日夕方に動画を撮影し、それを編集して夜にあげています。
その人気は凄まじく、動画を上げた途端にコメント欄は投稿の嵐でした。中にはいくつかアンチによる悪口や批判もありましたが、大半は彼女に向けた応援や前向きなコメントでした。
一通りの撮影を終え、ベルリズムはカメラを止めて一息つきました。
「フ~・・・ 今日は課題のせいでやることが増えて疲れたぞ・・・」
そう独り言で愚痴を呟きながら、彼女は頭に被っていた明るい色の髪のウィッグを外しました。そこからカメラの後ろに置いておいた髪ゴムを手に取り、自身の地毛である黒髪をサイドテールで結びました。
コンコン・・・
「撮影は終わった?」
扉からノック音と大人の女性の声が聞こえてきました。撮影のために大声を出していたのが止まったため、様子を聞きに来たようです。
「ウン、終わったぞ! ママ。」
「晩ご飯出来てるわよ、置いておくから食べといてね。」
「オ~ウ! 分かったぞ! ありがとう!」
彼女、『ベルリズム』こと『日正 鈴音』は元気よく答えました。
そんな普通の一軒家を様子を、人目につかない隙間から覗く影が一つありました。
「ヒヒッ・・・ 次はあそこだな・・・」
その影は、大きくニヤつきながらよだれを垂らしました。
<魔王国気まぐれ情報屋>
・ヤーリューブ
瓜達が住む世界で広く浸透しているフリーの動画配信サイト。今日ではここで多くのファンを獲得した者が、芸能界にも顔を利かせるようになるほどらしく、俳優志望やモデル志望の人も動画を上げています。
しかし近年その人気の裏に、悪行を働いてそれを動画で公開する存在も増えてきていることが問題視されています。