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第85話 復讐者 牛若丸

 それは経義がまだ十歳の少年だった頃、母親に約束をやぶやれたことが発端でした。共に植物園に行くことを約束していたので、ショックは余計に大きかったのでした。


 父は早くに亡くなり、母親も祓い屋の仕事柄で一緒にいることが少なかったので、せっかくの会えるチャンスを潰されたことに子供ながら素直に落ち込んでいたのです。既に屋敷に仕えていた弁が彼を励ましていましたが、経義はふてくされています。


 部屋の扉の外から、母親の声が聞こえてきます。


 「ごめんね経義。埋め合わせはちゃんとするから。」


 「・・・」


 息子からの返事が無いことを少し寂しく受け取りながら、彼女は弁に頼みます。


 「弁、後は頼みました。」

 「承りました、奥様。」


 そうして母親は屋敷から出て行きました。


 「若様、さあ・・・」




 「・・・ 嘘つき。」




 当時の彼にとって、これはただの日常でした。しかし周りの自分と同世代の子供達が自分の親と遊んでいる中、彼は自分にそれが無いことに酷い劣等感を感じていました。弁が毎度フォローを入れていましたが、それでも彼の寂しさが紛れることはありませんでした。






 しかしある日、母親はいえに帰ってきてこんなことを言い出しました。


 「経義! 明日空いてる?」


 経義は部屋で遊んでいた中突然声をかけられたことに驚き、震えながら振り向きました。


 「な、何・・・ 母さん? 弁、明日は?」

 「ハイ、明日は特に習い事も無く、これと言った用事はありませんが・・・」

 「ッン? そんな日が有るのか?」


 経義は名家の男として恥じないように毎日習い事を掛け持ちしていましたが、その日不自然に不自然に予定が空いていました。違和感に気になっていると、弁が一回だけコクリと頷きます。どうやら彼なりの粋な計らいだったようです。


 経義はそれが分かった途端に明るい笑顔になり、母親の質問に元気に答えました。


 「ウン! 明日は大丈夫だよ、母さん。」

 「そう! なら明日、お母さんと遊園地に行かない?」

 「ホント!!?」


 珍しく母親は非番になり、経義を誘って遊びに行けることになったのです。それを受け、せっかくなので親子水入らずで出かけようと考えたわけです。



 翌日、遊園地のアトラクションを次々と周りながら楽しんでいる牛若親子。しかし経義にとってはそんなことなんかより、普段仕事ばかりに向かって行く母が自分を優先してくれた事実こそが彼にとってとても嬉しいことでした。


 しかしそんな中、母の携帯電話にバイブ音が入ってきました。どうやら急に仕事が入ったようです。


 「ごめんね、経義。」


 申し訳なさそうに頭を撫ででくる母の手の感触を受け止め、経義は一周回って無言のまま彼女を迎えに来た車に乗っていくのを見送りました。自分はその車に乗ってきた弁に連れられ、遊園地で遊び続けました。






 ・・・何てことはありませんでした。その場で弁が彼の腕を引っ張っていたつもりが、いつの間にかその遊園地のぬいぐるみにすり替えられていたのです。


 本物の経義は密かに母親が乗っていた車に乗り込み、隠れていたのです。


 それにより、彼は見てしまったのです。車が到着し、彼女が降りると共に誰にもバレないように彼も降りました。そこで見た光景は、残虐に暴れる魔人によって周囲の人々が惨殺されている景色でした。


 「ナッ!!・・・ アァ!!・・・」


 経義は初めて見るそれに声にならない叫びを上げました。それに彼の母は恐れること無く向かって行き、襲われそうになっている人を助けてポケットの中の呪符を投げて当て、魔人を吹き飛ばしました。


 「逃げて!!」

 「ハ、ハイ!!」


 経義はそれを見て体を震わせ、小さく声を呟きます。 


 「あれが・・・ 母さんの仕事。」


 魔人は術を放つ彼女に驚き、大きな声で聞きます。


 「貴様!! なんでこの世界の人間が魔術を使ってやがる!!?」

 「私は祓い屋、牛若家当主『牛若 ときわ』 邪悪な魔人を祓わせて貰う!!」

 「祓い屋!? ほぉ、この世界の勇者ってとこか・・・ 好き放題人間が襲えるって聞いて来たが、戦士とやり合うのも悪くねえな!!」


 魔人はまた攻め立て、ときわはあらかじめ用意していた呪符を宙に浮かせた。すると魔神がそれに触れた途端に呪符が光り、爆発を起こしてまた魔人を火傷と共に吹き飛ばしました。


 「クソッ!!・・・ たかが異世界の人間にこの俺が・・・






 ・・・ッン?」


 追い詰められた魔神は、スッカリ戦いに見入って動きが止まっていた経義の存在にいち早く気付きました。


 『ヒッヒ・・・ いいカモ見っけ。』


 魔人は動きの悪くなっている経義を人質に取り、戦闘を有利に運ぼうとしたのです。思い付いたらすぐ行動と魔人は経義に向かって真正面に走り出しました。その意味が分からなかったときわは疑問を浮かべて右後ろを見ました。すると、現在弁と共に遊園地にいるはずの息子がいたことに気付きました。


 『経義!! 何故ここに!!? いや、そんなこと考えている場合じゃ無い!!』


 ときわは我が子を守ろうと走り出しました。しかし彼女のスピードでは到底魔人速度には追い付きません。かといって呪符の魔術を使えば、経義ごと吹き飛ばしてしまい程の距離でした。


 「アァ!!・・・」


 魔人が近い経義は、目の前にいる化け物に恐れおののいて腰を抜かしてしまい、余計動けなくなってしまっています。


 「ヒヒッ、貰った!!」


 魔人はその鋭い爪を輝かせ、脅しに彼を傷つけようとそれを前に突き出しました。


 「経義!!」


 ときわは彼と魔人の間の少し空いた空間に一枚の呪符を投げました。するとその呪符は輝き出し、そこにときわが現れ経義の代わりに魔人の爪をもろに受けてしまいました。


 「カハッ!!・・・」

 「母さん!!」


 経義は目の前の光景に考える前に声が出ました。魔人は思わぬ幸運に笑顔になってしまいます。


 「これはいい、まさか自分から刺されてくれるとはな。」


 経義は声にならない声を何度も上げながら、頭の中でこのことだけは気付きました。


 『まさか、俺をかばって・・・』


 すると、ときわは経義の方を笑顔で見ました。


 「大丈夫よ・・・ 経義。母さんは、負けないから・・・ ゴホッ!!・・・」


 ときわの吐血量が増えました。どういうことかと彼女が思うと、魔人がこんなことを言います。


 「せっかく刺さってくれたんだ。俺の術で毒を流させて貰ったぜ・・・」


 彼の言ったことに親子は揃って絶望します。


 「そ・・・ そんな・・・ 母さんが、死ぬなんて・・・」

 「お~そ~だぞガキ、お前のかばったことでこの女は死ぬんだ。お前のせいで死んだも同然だ!!」

 「ア・・・ アアア・・・!!」


 そして魔人が爪を抜こうとします。しかし、何故かそれは出来ませんでした。力を強めてもそれは変わらず、魔人は何事かと思い下を見ると、いつの間にか自分の腕に呪符が巻かれていたことに気付きました。


 「何だ、これは・・・」





 「その呪符には二つ術をかけてあるわ・・・」


 ときわの表情は企みが当たっていることを魔人に察しさせました。


 「拘束したのか?」

 「一つはね・・・ 」

 「クソッ! 離せ! 離せ!!」


 魔人がいくらもがいても、拘束がより強くなるばかりでした。その隙に彼女は経義の方を見ます。


 「経義、ごめんね・・・ 貴方に寂しい思いをさせて・・・」

 「か、母さん・・・」








 「貴方は生きて・・・」



 



 そしてときわは左手で構えを取りました。すると呪符が同時に全て光り出し、経義を巻き込まないギリギリの範囲で爆発しました。




 「かあぁーーーーーーーさーーーーーーーーーーん!!!!!」





 そのときの彼は、ただ泣き叫ぶことしか出来ませんでした。



<魔王国気まぐれ情報屋>


 牛若家は異世界からやって来た人間の子孫です。そのため経義の母、『牛若 ときわ』は家に伝わる呪符を使って多少の魔術が使えます。しかし息子の経義は生まれながらに魔力が無く、己の非力さを恨んでいました。


 それと彼の過去を聞きつけたドクターのスカウトを受け、現在はエデンコーポレーションと魔人討伐の契約関係を結んでいます。

<魔王国気まぐれ情報屋>


・キャラクター紹介



{牛若 経義}



種族           異世界人の子孫

年齢           17歳

誕生日          11月5日

身長           171cm

性格           高慢

家族構成         父(故人) 母(故人) 兄

使用魔術         人工魔石による武器攻撃

好きな物・こと      弁の料理

嫌いな物・こと      魔人 椎茸

好きなタイプ       自分に忠誠を誓う女

将来の夢         魔人撲滅

悩み           シズのミスの多さ

             ドクターの気まぐれ

モチーフ         『牛若丸』より牛若丸




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