第84話 屋敷のお客様
「ギャーーーーーーーーーーーーー!!」
周囲に響き渡る断末魔と共に、その音の発生源であった魔人は、真っ二つに袈裟斬りされた崩れ落ちました。その当事者である経義はスーツを脱ぎ、またやるせないような顔をしています。
「お見事です、若様。」
「世辞はいい・・・ それより早く連絡しろ。今あのドクターの声を聞いたら、怒りでスマホを握り潰しそうだ。」
「ハ! ただいま・・・」
弁は指示を受けて急いで電話をかけます。どうやら経義は、昨日ドクターがフィフス達をエデンの味方に引き入れたのを全く許してはいないようです。
弁の連絡を受けてすぐにその場は部隊によって片付けられ、今回は報酬を取りに弁を向かわせ、自分は彼らに持ってこさせたバイクに乗って先に帰ることにしました。
「それじゃ頼んだぞ。」
「お帰りの道中、お気をつけて・・・」
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経義はそのままどこにも寄らず一人屋敷に戻ってバイクを駐車し、扉を開けていつも通り静を呼びました。
「シズ、帰ったぞ。」
「ハイ! ただいま~・・・」
そうしていつも通り玄関にまで静が笑顔でやって来ました。しかし何か慌てていたのか、髪が少し乱れています。
「おや? 弁さんはどこへ?」
「報酬の受け取りを任せて先に帰ってきた。あのドクターと今は顔を合わせたくなくてな。」
経義のムカついている様子を感じながら、静は彼の靴を片付けてすぐにこんなことを言い出しました。
「帰って来られて良かったです。ただいまお客様がいらっしゃっていまして。」
「客だ? そんなことは聞いてないぞ?」
靴の片付けを終わらせた静は立ち上がり、続けてこう言います。
「なんでも若様の御友人・・・ だそうですが。」
「何を言ってんだ? 俺に友人なんていない。お前も知っているだろう。」
「ハイ! なので弁さんと日々友達作りに精進致しております。」
「余計なことはせんくていい!!」
経義が彼女を怒鳴りつけるのと丁度同じ頃に、二人はその客人のいる部屋にへとたどり着きました。するとそこには・・・
「よお、待ちくたびれたぜ。」
経義はその客人の姿を見て、怒りの感情を膨らませながら目を丸くしました。そこには、客人用の椅子に座って配られたお茶を悠々自適に飲んでいるフィフスと、慣れない場所に現在進行形で緊張中の瓜がいました。
「お・・・ お邪魔しています・・・」
経義はさっき以上に形相をキツく変えて、いきなりフィフスに詰め寄ります。
「何でお前がここにいる!!? ここは俺の家だぞ!!?」
「さっきドクターに聞いた。お前に頼み事があってな。」
気軽に話しかけているフィフスに対し、経義は全く彼の調子に合わせる気はありません。
「ふざけるな!! ここは平安から続く由緒正しき『祓い屋』の家系。その屋敷に魔人が入るなど言語道断だ。とっとと去れ!!!」
「ま、魔人!?」
静は目の前にいる彼が魔人だと言うことを信じられない様子でした。しかし経義の反応を見て、それが事実だと言うことを感じます。
「もしや、この方が昨日おっしゃっていた?」
「ああ、どういう訳かドクターが引き入れた赤鬼だ。」
フィフスは彼らの話より、一つの単語が引っかかりました。
「なぁ瓜、『祓い屋』って何だ?」
『昔この国にいたという、疫病神を払う職業ですが・・・ 私もてっきりおとぎ話のような物かと思っていましたので・・・』
瓜のその説明を聞いて、フィフスはなんとなく察しました。
「なるほどな・・・ 『昔の日本じゃ魔人は「疫病神」呼ばわりだったのか。なんとも不名誉なことだ・・・』」
フィフスが少しふてくされていると、経義はとうとう家にまつっていた日本刀を外して刀身を抜き、彼の首元にその刃を突き付けました。
「もう一度だけ言う、今すぐこの屋敷から出て行け!!!」
「客人に対して酷いもんだな。」
「もう一度だけと言ったはずだが?」
経義はその刃を更にフィフスに近付けます。その距離はもうあと数センチまで来ていました。しかしそんな中でもフィフスは冷静にしています。
「何故そんなに落ち着いている?」
「下、見てみろ。」
経義が言われた通り真下を見ると、自分の刀と同じ距離感で自信の腹に向けられているフィフスの剣がありました。
「ッン!!」
「ここは一旦置いておこうぜ、坊ちゃん。」
経義は少し止まって考えましたが、それでも彼方を振ろうとします。フィフスの方も、あおれに対抗してより速く刺し込もうとします。しかしそんな彼らの腕は、それぞれ静と瓜によって止められました。
「おやめください!!」
『ダメです! フィフスさん!!』
軽く腕に触れて止まったフィフス、対して経義の腕はしっかりとした怪力で捕まえられていました。
「は、離せ! シズ!!」
「いけません若様! 先祖代々住んできた土地に血を染めるおつもりですか!!」
彼女の言うことと腕力の前に根負けした経義はフィフスに向けていた刃を引き、それを鞘に収めました。そして刀を元の場所に戻すと、静に一つ指示をして去って行きました。
「・・・ 茶を飲ませたら帰らせろ、魔人に長時間いられると虫唾が走る。」
「・・・ 分かりました。」
静は部屋から離れていく彼の背中に向かってお辞儀をしました。その頃後ろの二人はテレパシーで会話をしています。
『何であんなことを!?』
『別に殺す気はねぇよ。術装は使ってなかっただろ。』
『そういう問題じゃありませんよ! 魔道書探しの手伝いを頼むのはどうしたんですか?』
『あの感じじゃ頼んでも無駄だろ。』
『しかし・・・』
二人が無言で見つめ合っている様子を見て脇の静が対応に困っていました。
「あの・・・ お二人とも何をしているのですか?」
「何でも無い、それよりメイド。」
「鶴島 静です。」
「なら静、あのボンボン・・・」
「牛若 経義様です。」
何度も話を止められて少し機嫌が悪くなりましたが、それでも途切れさせずに続けました。
「あの牛若って奴、どうしてあんなに魔人を恨んでるんだ? 単に家柄が理由なら、ああも感情的にはならないと思うが・・・」
静は表情を暗くしながら少し考え、顔を上げて息を整えて話し始めました。
「若様は・・・ 幼い頃にお母様を魔人に殺されているんです・・・」
怒りを感じながら寝室に入り、ベッドに寝転んだ経義。客間で静が語っていることを考え込んでいました。
<魔王国気まぐれ情報屋>
経義はエデンコーポレーションと魔人一体につき三万円の報酬を受け取る契約を結んでします。
当初は別の幹部と契約をするつもりでしたが、彼の境遇を見かねた信によって細工され、彼の部下になっています。