第82話 ユニーも一緒
その日の夜、皆が家路についている時刻。昼間にフィフスと経義が戦った公園に、静かに鳴っている足音が聞こえていました。
その足音の向かう先には、黒焦げになって動けなくなっている怪物が倒れ込んでいました。それは経義のボウガンによって為す術も無く倒されたキメラオークでした。
「・・・ あ~あ、もうやられちゃってるじゃない。これじゃ来ただけ損だったわ。」
その女が残念そうにしながら来た道を戻ろうとすると、その黒焦げの固まりから何か聞こえて来ました。
「アッ・・・ ウゥ~・・・」
それの意味が分かった彼女は再びキメラオークの前に近付きました。
「あら? てっきり死んでいるものかと思ったけど・・・ どうやら三人分の生命力が功を奏したようね。」
彼女は生きていると分かったキメラオークを見てニッと笑い、こんなことを言い出しました。
「いいわ・・・ もう一回チャンスを与えてあげる。」
すると彼女は自分の歯で指の薄皮を切り、そこから血を出しました。そしてそれをキメラオークの開いていた口に垂れ流しました。
「私の可愛い下僕ちゃん、貴方を元気にしてあげる・・・」
次の瞬間、キメラオークの三体の目はそれぞれ同時に光り出しました。
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翌日、昨日のバタバタで疲れていながらも、普通の人間の当たり前というしがらみには離れられず、フィフスと瓜は眠い目をこすりながら電車に乗り、学校へ向かっていました。
「ふぁ~・・・ 昨日の今日で忙しいこったな。」
『対談が終わって外に出たらもう夜でしたもんね・・・』
二人が疲れに目の下にクマができ、猫背になりながら揺れていると、次の駅で入ってくるグレシアと平次を見つけました。気を紛らわせようとしているのか、グレシアはスマホで動画を見ています。結局彼女はマグマフォンは使っていないようでしたが・・・
「よ~・・・ お疲れようさん。」
「無理矢理挨拶を混ぜないで。」
「突っ込む余力はあるんだな・・・」
フィフスは次に彼女が見ている動画に目が行きました。
「てか、それ何?」
「知らないの!? 『ベルリズム』よ。」
「あ? 何だそれ・・・」
すると瓜が反応し、フィフスにテレパシーを送りながらグレシアにメールを打ちました。
『知ってます! 確か、有名な「ヤーリューバー」ですよね。』
「ヤーリューバー?」
世間知らずのフィフスは更にはてなを浮かべます。
「『ヤーリューブ』、ユーザーが好きなときに撮影した動画を投稿できるサイトよ。」
「中にはそこから有名になったやつもいるくらいだからな。」
『その中でも「ベルリズム」さんは、チャンネルが立ち上がって一年でチャンネル登録者数が100万人を越えた期待の配信者なんです。』
「ホ~・・・ この世界には色々な目立ち方があるんだなぁ・・・」
四人は電車を降りた後も疲れで変な歩き方になり、校門の前で挨拶をしていた生活指導の先生ですら、それを見た途端に驚いて心配そうにしていました。
いつもよりかなり遠く感じた教室に着き、鞄を置いて椅子に座ると、全員脱力感から姿勢が崩れてしまいました。
「疲れた・・・」
「今日はまだ始まったばかりのはずなのにね・・・」
そこから瓜が教科書類を出そうと鞄のファスナーを開いてみました。すると・・・
「ナァッ!!?・・・」
その中にあったものを見て驚き、つい声に出してしまいました。何があったのかとグレシアと平次が心配に近付くと、彼女の鞄の中には教科書の束の上に普段より更に小さくなって寝ていたユニーがいました。当の彼はさっきの瓜の叫び声で起きたようです。
「どうしてコイツが居るわけ? 瓜、突っ込んだ記憶ある?」
グレシアに、瓜は首横に振って答えます。
「じゃあなんで・・・」
平次が困り顔で考えようとすると、瓜の席の隣から返答が帰ってきました。
「俺がそいつに頼んだ。」
「なんで?」
「ちょいと調べたいことがあってな。まぁそのくらいまでなら小さくなれるから、隠せば問題ないだろ。」
フィフスが座った椅子を揺らしながら悠々としていると、呆れた目をしながらグレシアが彼を見てこんなことを言い出しました。
「学校にペット持ち込む奴なんて初めて見たわ・・・」
しかしそこからもユニーはフィフスではなく瓜にひっついて離れませんでした。念のためクラスメイトに彼の存在を隠しておこうと、授業中は机下の教科書入れにスペースを設け、その中で寝させています。
「そうしてこの文の意味は・・・」
教師の説明を受ける中、瓜はどうにも机の中のユニーが気になって仕方ありませんでした。
『ユニーさん、先程から静かですが大丈夫でしょうか・・・』
「町田!!」
「ハ、ハイッ!!・・・」
瓜は教師に当てられたことに驚き、立ち上がってしまいます。
「次のページ一番上の英文、訳してみろ。」
「あ、えぇっと・・・」
瓜はどこのことを言っているのか分からずタジタジしています。
「気を抜きすぎだ。次やったら減点だぞ。」
「す、すみません・・・」
瓜は恥ずかしさに顔を赤らめながら座りました。クラスメイトは彼女の様子にクスクス笑います。
そうこうしている内に昼休みになり、瓜の席にフィフス達が集まってきました。
「午前中からお疲れさん。」
「誰のせいよ。」
瓜は一旦ユニーにも休憩させようと、机の奥から彼を取り出しました。するとその頃の彼はどうにも寝ぼけたような顔をしています。
「・・・ どうかしましたか?」
「狭いとこに閉じ込められて寝ていたとか?」
すると次の瞬間・・・
「ヒッ!・・・」
ユニーが一回鳴き声を出して震えてしまったのです。
「え・・・ 今コイツ・・・ 声出して・・・」
平次が起こったことを言おうとすると・・・
「ヒエェッッッッッッックション!!!!・・・」
突然フィフスがオーバーリアクションを出しながら大きなくしゃみをして机を前に倒してしまいました。
「何してんだお前!!?」
「うっせーー!! 今のは俺のくしゃみだ!! それ以上でも以下でも無い!!!」
「なら何もしゃべるなよ! それすると余計怪しまれるだろうが!!」
焦った平次がクラスメイト達を見ると、何人かは見ていましたがすぐに自分のグループに戻っていきました。
「あ~・・・ 昼休みなのが幸いしたな・・・ 周りの会話で聞こえてなかったんだろう。」
しかしそれとは別に、一人のクラスメイトが大きなくしゃみをしたフィフスを心配して近付いてきてしまいました。
「オ~ 大丈夫か小馬君。」
髪をサイドテールにまとめているその少女、『日正 鈴音』は気軽に声をかけてきます。
「び、日正さん!?・・・」
「大きいくしゃみだったぞ。風邪引いてないか?」
少しなまった口調を変に感じながらフィフスは問題ないと応えます。すると彼女の興味が瓜の手に持たれているのユニーに行きました。
「おお、ユニコーンのぬいぐるみだ!!」
鈴音は目を輝かせています。今のユニーがいつ寝ぼけてボロを出すのか分かったものじゃ無いことを知っていたフィフス達はどうにか彼から興味をそらせようとします。
「あ~・・・ 日正さん、そんなことより今日の宿題やったか?」
「ん? 今日は宿題なんて無かったぞ?」
「いいから!! さ、早く戻って英語の課題をやろう。な!!!」
フィフスが圧をかけながら彼女の背を押して席にまで座らせます。
「よし、じゃあ俺と瓜は用事があるから!!」
「待って・・・ ウチだってもっと勝手に動くぬいぐるみを見たいぞ!」
「だからって・・・ ん?」
フィフスは後ろの彼女の言葉を聞いて大粒の冷や汗を流しました。そして確認のためにもう一度聞きます。
「お前、今何て言った?」
「自分で動くぬいぐるみなんて初めて見たから、もっと見てみたいぞって・・・」
『おもいっくそバレてんじゃねーーーーーか!!!』
フィフスは体中から汗を噴き出して大きく口を開け、事態を理解しました。
<魔王国気まぐれ情報屋>
・フィフスの鞄
フィフスの鞄は彼の手作りの細工で二重底になっており、普段はそこに剣をしまっています。
フィフス「この国で見つかったら間違いなく銃刀法違反だからな・・・」