第81話 仕組まれた契約
そこから少し時間がたち、瓜達はフィフスの提案もあって、彼と信を残して部屋から出て貰いました。グレシアは返して貰った杖を触りながら不安そうに言います。
「どうしたんだろう、アイツ・・・」
「給料貰えるって分かった途端顔色変えてたもんな・・・」
「それについては同意だけど、こんな形での交渉をするとはね。」
周りはそんな風に感じ地ますが、近くでフィフスの顔を見ていた瓜だけは違いました。
『さっき、龍子博士の言葉を聞いた途端、一瞬だけ険悪な顔になっていたような・・・ 何かあったんでしょうか?』
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対面用の部屋に残っていた二人。彼の考えていることを察していたのか、信は彼の険悪な表情の顔を見ても全く調子を崩していません。
「さて・・・ その顔からして、給料につられて組んでくれた訳じゃなさそうだけど。人払いをしてまで僕に話したいことって何かな?」
「分かっているくせに白々しい・・・」
信のラフな態度に少々腹が立ったフィフスですが、それより優先して聞きたいことを離しました。
「さっき俺の去り際にアンタがボソッと言ったことが気になってな。」
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「残念だな~・・・ せっかく向こうから来て貰ったのに・・・」
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「あの含みの有る言い方、だたエデンに来させたことじゃないよな。」
信はパンッと一回手を叩き、右人差し指を彼に指して嬉しそうに答えました。
「ご明察。実は君がこの世界に転移して来ていることは、過去の監視カメラに映る一件の前から知ってたんだよね~・・・」
「どうしてだ?」
信は机の上のコーヒーを少し飲んで喉を潤した後、ことに対する説明をしました。
「君の契約の魔道書は、瓜君の家に宅配便で届いたもの、だったよね。」
「なんでアンタがそんなこと知ってる? ! まさか・・・」
信は机の方に向かせていた椅子を再びフィフスに向け、ハッキリと言いました。
「察しの通り。 彼女に魔道書を送りつけたのは、この僕だ。」
フィフスは驚くより、何故か怒りに満ちている様子でした。
「・・・ どこで手に入れた?」
「ん、・・・ 何か言ったかい?」
信は彼の小さい声が聞こえずもう一度聞きました。するとフィフスは椅子から立ち上がり、信に顔を詰め寄る勢いで近付いて、彼の胸づらを掴み上げて睨み付けました。
「どこで手に入れた!! あの本を!!?」
フィフスは唾が飛ぶことも気にせず叫び出しました。信のこれには驚いている様子です。
「かなり動揺しているね・・・ 何かあったのかい?」
「話をそらすな!! どこでそれを手に入れたのかと聞いている!!!」
そのときのフィフスはいつになく必死な姿を見せています。しかしそれに対しての信の答えは大雑把なものでした。
「そう言われてもなぁ・・・ 僕はただ『ある人』に頼まれただけなんだけど。瓜君に契約の魔道書を渡せってね。理由を聞いても彼は答えてくれなかった。」
「ならそいつはどこにいる!!? 言え!!!」
「生憎それは秘密だ。言わないように根を押されているのでね。」
「そうか・・・」
フィフスは強引な手段に出ようと、腰に携えていたままの剣に手を伸ばします。しかし、彼がいざそれを行動に移そうとした次の瞬間、彼のへその辺りには銃口が突きつけられていました。
「止めておきたまえ・・・ 君が剣を抜くより先に銃弾が腹を撃ち抜くよ。」
『どっから銃を出しやがった!? しかも顔色に一切の変化が無い、使い慣れてやがる・・・』
「・・・ ケッ!」
フィフスはこの場では分が悪いと判断し、仕方なく降参しを示して彼の胸ぐらを掴んでいた手を離し、気持ちを落ち着かせて椅子に座り込みました。
「なりふり構わないね~・・・ 余程あの本に思い入れがあったのかな?」
フィフスはそのとき、またあの少女のことを思い出していました。
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「じゃーーーーん!」
少女はフィフスに赤い表紙の魔道書を手渡します。
「それは?」
「フフフ、契約の魔道書。 家にあったのくすねてきた。」
「ホント悪い意味で手際が良いな。」
フィフスは彼女の行動に呆れながら聞きました。
「それで、それは何が出来るんだ?」
「なんでも魔人と人間を契約させてつながりを作るそうよ~・・・」
フィフスは疑問を感じます。
「どうしてそんな物を?」
「最近、フィフスが修行で忙しくなって来れなくなってるから、少しでも、つながりが欲しいなぁって。どうかな?」
「つながり?」
「そう・・・ どんなものであれ、つながりって大事だもん。だからそれが少ないアタシには、それを形にしたくって・・・」
フィフスは風に揺れた彼女の髪を見た後、顔の向きを変えて冷めた答えをしました。
「・・・ 変な奴。」
「アハハ、やっぱそうかな?」
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フィフスはそんなことを思い出し、自分なりに考えて答えました。
「わかった、今は聞かないでおく。ただし、働いたらそれなりの報酬として断片的にでも教えて貰うぞ。」
「がめついな~・・・」
「じゃ、これ以上いても進展はなさそうだし、帰らせて貰うわ。」
話が終わったフィフスは席から立ち上がり、部屋を出ようと後ろに歩き始めました。信はそれを呼び止めました。
「待ちたまえ。」
「何だ? 魔道書について話す気になったか?」
すると信は机の上に置いていた分厚いスマートフォンを彼に三つ放り投げました。フィフスはそれを落としかけながらも受け取ります。
「・・・ これは?」
「僕の発明した『マグナフォン』、さっきの戦闘で経義君が使っていた銃兼連絡具だよ。使い方についてはボタンを押して起動したときに出るから、それに従ってくれ。」
「監視アイテムってか?」
信は自身の都合が悪いことには口を開きませんでした。
「まあいい、後で姉貴達にも渡しておく。」
フィフスは持ちにくそうにそれを抱えながら帰って行き、信はそれを見送ります。すると扉の前でふとフィフスが立ち止まりました。
「あ、そうだ・・・ 龍子ドクター、最後にこれだけ言っとく。」
するとフィフスはまた殺気のこもった目になって振り返り、信を睨み付けました。
「もし、アンタの指示に瓜を巻き込んだら・・・
・・・ そのときは、お前も殺す。」
「・・・ 分かったよ。」
信の返事を聞くと、フィフスは顔の向きを戻し、そこからは黙って部屋を出て行きました。信は静になった部屋の中、残っていたコーヒーを一口飲んでこんなことを呟きました。
「そんなことを言われてもな~・・・ 彼女は君より先に、この騒動に巻き込まれているのになぁ~・・・」
<魔王国気まぐれ情報屋>
彼の帰還を待っていた瓜と合流後帰宅。彼女の説明を受けながらスマホの設定をする。
瓜『ここをこうです。』
フィフス「こっちの世界のものはいちいち細かいな・・・」
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