第75話 ドジっ娘メイド
さっきの後、スポッチャから出て来たフィフス達。サードは遊び足りなかったため、不満顔を浮かべています。
「ブ~・・・ まだまだ物足りないわよ、こんなの。」
「そう言いなさんなって。そもそもこの世界には遊びできたわけでは無いんだからな。」
「用事って、何かあったっけ?」
「瓜。」
「ハ、ハイ!!」
瓜は突然声をかけられて驚きながら、背中にしょっていた鞄を開け、そこからある物を取り出して、彼に手渡しました。
それは、表紙が緑色に描かれている綺麗な契約の魔道書でした。
「ああ、それね。」
サードが納得すると、フィフスは眉間にしわを寄せます。
「「ああ、それね。」じゃね~よ、誰のせいでこんな事態になってると思ってんだ!!」
________________________________________
それはフィフス達が日本に帰り、サードが来ていたことを知った少し後。フィフスは家でその本を見ているのを気になった瓜が聞きかけます。
『フィフスさん、それは?』
「ッン? あぁ~、念のために持ってきた、ルーズの血入りの契約の魔道書だ。」
『念のため?』
フィフスは彼女に本を見せながら説明しました。
「この本には、契約のときにその魔人を回復させる作用がある。願いを叶えて貰うってのに、その直前に死なれちゃ意味が無いからな。」
『そんな効果が・・・』
「死にかけのときの救助用に用意したんだが・・・」
フィフスさは顔の向きを変え、瓜もそれにつられてその方向を見ます。そこには、ユニーの頬を引っ張って遊んでいるサードが映っていました。遊ばれている当の彼は足をジタバタして困っています。
「ウッワ! 結構伸びるわね、この子。」
「いきなり使うことになるとは思わなかったけどな。」
『あ~・・・』
二人揃って困って汗を流しました。
_______________________________________
「ということで、ルーズを日本に呼ぶために、アイツの契約者を見繕う。」
「て言ったって、どうやって見つけるのよ、そんなの。」
フィフスの勢いはグレシアの言葉によっていきなりへし折られました。そこに平次が補足します。
「まぁ確かに、こんな本をいきなり見せて「願いが叶いますよ。」なんて言う奴、怪しさ満点だもんな。」
「詐欺臭いわね。」
フィフスはそれを聞いて始まる前から気落ちしました。そこに更にサードは聞いてきます。
「それに、さっきの坊ちゃんにはなんで渡そうとしなかったの?」
「どうにもアイツには、渡すとマズい気がしてな・・・」
「根拠は?」
「俺の勘。」
「当てにならないわね・・・」
フィフスは話を戻そうと手を叩いて言います。
「ともかく! 何事もしなければ始まらない、困っている人を探すぞ!! オーーー!!!」
「「「「・・・・」」」」
「オーーー!!!」
「「「「オ、オーーー!」」」」
こうして無理矢理奮起させ、一行はルーズの契約者捜しに向かって行きました。
_______________________________________
その頃、経義と弁は丁度自宅の屋敷野ついた頃でした。さっきの勝負がつかなかったこともあって少し機嫌を悪くしていました。豪邸の門を弁が開き、奥の屋敷に入ります。そして経義が声を上げました。
「シズ! 帰ったぞ!!」
「ハイ! ただいま!!」
するとすぐにタタタタと駆け足の音が聞こえてきました。そして二人の前に、経義と年の近い美人なメイドが現れました。
「お帰りなさいませ、若様。」
経義はそこで靴を脱ぎ、弁にその手入れを任せて彼女と奥の部屋のテーブルに着き、そこの椅子に座りました。
「シズ、茶を・・・」
「ハイ! すぐに。」
そのメイド、『鶴島 静』はせっせとお茶をくみ、お盆にのせて彼に渡しに行きました。すると・・・
ゴンッ!!
「アァッ!!」
彼に渡す直前で彼女は足をテーブルの脚につまずかせて転んでしまいました。その結果・・・
バシャン!!
カップのお茶は見事に経義にかかります。静が姿勢を戻したときには、既に手遅れでした。
「す、すみません!! 若様!! やけどしていませんか!!?」
「シズ・・・ お前・・・」
「ヒッ、ヒィーーーー!!!」
経義は目を光らせて立ち上がり、彼女に説教をします。
「何度やったら気が済むんだ!! 毎度毎度茶を入れるたびにぶっかけるのを止めろと、何度も言ってるだろう!!!」
「す、すみません!!」
静はその場で直立し、何度も地面に頭を下げて経義に謝罪をしました。そこに片付けを終えた弁が合流します。二人の大声を聞いて事態を察したのか、顔を険悪にして走ってきました。
「若様!! もしやまた静が粗相を・・・」
「例のごとくだ・・・ いい加減どうにかしろ!!」
さっきまでの気晴らしの意味が無くなるほどに経義が怒り出すと、そんな彼が部屋を出ようとしたタイミングに部屋の電話が鳴り響きました。
「こんなときに何だ!?」
さっきのことを少しでも償おうと、足早にその電話を静が取りました。
「ハ、ハイ! 牛若です。ハイ! ハイ・・・」
少しして彼女は受話器を離し、経義に言いました。
「若様、帰ってきて早々ですが、また現れたようです。」
「またか・・・ まあいい。この鬱憤もそいつで晴らしてやる!! 弁、行くぞ!!」
「しかし、修理されている車がまだ届いておりません。」
「チッ! ならバイクで行くか。弁、片付けやっといてくれ。」
経義は屋敷のガレージに向かい、かかっていたカバーを外すと、そこから天狗の意匠のようなものを先端に付けたバイクが出て来ました。彼は後輪カバーの上のヘルメットを被ると、そこに後を付けてきた静がやって来ました。
「若様、お気をつけて・・・」
経義は心配そうに見てくる静の頭を撫でます。
「そう心配すんな、すぐに戻る。」
「・・・ ハイ!」
そうして経義はバイクに乗り込み、走り去っていきました。
<魔王国気まぐれ情報屋>
その頃のフィフス達、姉弟でのナンパ戦術で見繕おうとしたが、内の性格の悪さがにじみ出て現在30連敗中