第74話 ゲス王子と俺様坊っちゃん
バッティングセンターにて起こった出来事、経義の方も近くにいた二人の驚きの視線に気付き、振り向いて話しかけてきました。
「ッン? なんだ、そんなにじろじろと見て。俺の顔に何かついているのか?」
観客の平次とサードがそこで分かりやすく言いました。
「う~わ~・・・ 必死こいて対決してたのが第三者にひっくり返されちまったな。」
「こりゃあなんともね・・・」
それを聞いていた経義はフッと笑ってこう言い出しました。
「なるほどな。安心しろ、これは仕方の無いことだ。」
「「・・・ア?」」
経義は向こうを向き、目を閉じて語り出しました。
「俺は物事の全てにおいて、一番になるべくして生まれた男。その俺に負けたところで、何も不思議なことでは無い。」
「ホウ・・・」
そう言われたフィフスはおもむろに設定装置に向かって行き、マックススピードを指定すると、それでホームランを決めました。さっきまで対等な勝負をしていたグレシアは、彼が力を隠していたことに怒り出します。
「これが一番か? 案外あっけないな。」
『アイツ~・・・ 最初からアタシを茶化す気で・・・!!』
その奥にいた経義も、起こったことに口を開けて衝撃を受けていました。そして・・・
「若様・・・」
「お前、少し付き合え。」
「・・・」
後ろにいた観客も反応します。
「あ~・・・」
「ほほう、これは面白くなってきたわねえ。」
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そこから一行は、丁度空いていたバスケットボールのコート内に二人は入りました。残りのメンバーは待期用のベンチに女性陣が座り、男二人がその後ろで立って見ていました。その一人である弁が語りかけました。
「すみません皆さん、若様の気晴らしに巻き込ませてしまいまして・・・」
「い、いえ・・・ 貴方は?」
弁は瓜に聞かれたことで名乗っていないことに気付きました。
「これは失礼しました。紹介します。あの御方は平安から続く貴族『牛若家』の末裔、牛若 経義様であらせられます。私は、執事の武蔵 弁と申します。以後、お見知りおきを・・・」
「は、はあ・・・」
『王子と貴族・・・ なんだか危なそうな組み合わせです・・・』
初めにボールを持っていた経義は、その場に立ったままドリブルをしています。
「さて、ここなら障害はない。どちらが上かハッキリする。」
「しょうもねえな~・・・ いちいち自分が一番じゃ無いと納得できねえのか?」
「なぁに、すぐにそれは証明される!!」
すると次の瞬間、経義は軽々とドリブルをしながらフィフスを追い抜き、ゴールの手前にまでついていました。
「!?」
「速っ!!」
ギャラリーがざわついていると、コート内の経義はゴールを決めようと腕を上げました。すると、いつの間にかその手からボールは消えていました。
「ナッ!?・・・」
まさかと思い経義が振り返ると、そこには予想通りのことが起こっていました。
ポーン ポーン・・・
「いやぁ~・・・ かっこよかったね~・・・
・・・ちゃんと追い抜けてたらの話だけど。」
彼の目線の先には、悪いにやつきをしながらこちらを見てドリブルをしているフィフスが映っていました。
「クッ!!・・・」
すっかりフィフスは調子に乗って自分側のゴールへ向かっていくと、一瞬彼の前を何かが通り過ぎた。
「・・・!?」
「そうだな、ちゃんとボールを死守できたらな。」
「・・・ケッ。」
そこからはギャラリーが見て十二分に楽しめる程に拮抗していました。お互いに一歩も譲らず、ボールを取り合っています。
しばらくそれが続くと、レンタルの制限時間がたち、タイマーのアラームが鳴り響いたことで、彼らの動きは止まりました。
「・・・時間切れか。」
「チッ! なら他で・・・」
しかしフィフスはそれに素っ気なく答えました。
「いや、止めておく。これから用事があるんでな。」
「逃げるのか!?」
「そんなんじゃねえよ。ただこれより優先することがあるだけだ。」
そしてフィフスはコートから出ようとすると、そこに大声が聞こえて来魔sた。
「お待ちください!!」
ビクッとなった彼は足を止めると、さっきまでギャラリーにいた弁が至近距離にまで来ていました。
「う~わ何だこのじいさん!!」
「若様はああしていますが、本当は、貴方とお友達になりたいと思っています。」
「思ってねーーーー!!!」
後ろで経義が反論します。しかし弁はそれに構わず続けました。
「どうかお近づきの印に、これを・・・」
そう言って弁が彼に受け取らせたのは、テブクリの包みにくるまれたあめ玉でした。
「・・・ 何これ?」
「牛ちゃんキャンディです。これからもどうぞ、若様をよろしくお願いします。」
かしこまってお辞儀をする弁に、フィフスは対応に困りながら、貰ったキャンディをズボンのポケットにしまいました。
「お、おう・・・ それはどうも・・・」
すると、今度は経義が思い出したかのように聞いてきました。
「そういえば名前を聞いていなかったな。お前、何て言うんだ?」
「・・・ 小馬 五郎だ。別に覚えて無くていい。」
「牛若 経義、次会ったときは必ず勝つ。」
「・・・ 上等だ。ま、次会えたらな。」
そして会話に一区切りをつけ、フィフス達はそこから立ち去りました。
<魔王国気まぐれ情報屋>
その後のグレシア
この回のフィフスがバッティングセンターで出したマックススピードを越えるため、そこよりボールの速度が速いバッティングセンターに連日かよって練習していた。
グレシア「絶対! 見返してやるーーーーーー!!!」