第72話 謎の組織
戦いが始まってからの両者の調子は決定的でした。さっきまで脅していたはずの魔人が、完全に経義によって押されていたのです。焦っている魔人に対して、ヘルメットで表情は見えないものの、その様子はケロッとしていました。
「ガッ! ガァッ!!」
魔人はかけ声を上げながら攻撃を仕掛けていますが、彼には全く通じていません。そして、少しした後、経義は相手の攻撃を捌いていた大剣を振り上げ、再度攻撃してきた魔人の両腕を一気に切り上げてしまいました。
「ウガァ!!!」
魔人が突然の激痛に叫び出すと、経義は冷静なままこう返します。
「魔人がギャーギャーわめくな。そんな権利、お前らに無いんだよ。」
そして経義は上に上げていた大剣を振り下ろし、苦しむ魔人を真っ二つに切り裂きました。食らった相手は途端に声が変わりました。
「アッ! アア・・・」
そして魔人は綺麗に割れて倒れました。
「弁、そっちはどうだ?」
「とどころりなく。」
声をかけられた彼の近くには、簀巻きにされて伸びていたチンピラ達がいました。
戦闘が落ち着いた経義は、左腕に付けていた腕輪のスイッチを押します。すると、彼の体が突如上空から降り注いだ光に包まれ、一瞬鎧が外れ、次の瞬間に粒子状になって、光と共に消えました。
元の姿に戻った彼は、ポケットの中の特殊な形のスマホを取りだして電話をかけました。
「・・・ 処理完了、回収頼む。」
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そして連絡を終えると、少ししてその場所に、大型のトラックが数体やって来ました。そこから小部隊が降り、事態の処理に当たります。二人がその様子を傍観していると、部隊の一員が経義に近付きました。
「リムジンは我々の方で修理します。お二人はこちらで。」
二人は案内されたトラックへと乗り込み、そのドライバーの運転によって、都市街のビルまで運ばれました。その男に案内され、二人は一つの大辺らの門にまでたどり着きました。
「ここからはご自分で。」
「ああ、分かってる。皆まで言うな。」
経義は彼の言葉を句切り、弁と二人で自動扉をくぐり抜けて部屋の奥へと振り込んでいくと、そこには一人の白衣を着た男性が、椅子に座ってコーヒーを飲んでいました。彼は経義の存在に気付き、椅子の向きを変えずに話しかけます。
「やあ、早かったね。」
「報酬を貰いに来ただけだ。用が済んだらとっとと出て行く。」
「そっけないな~・・・」
そう文句をたれながら、奥の男は近付いてきた弁にあらかじめ書いていた小切手を渡しました。
「ハイ、確かにお受け取りしました。」
言っていた用が済んで経義は部屋を離れようとしますが、それを男は声をかけて止めました。
「待ちたまえ。」
弁はともかく、経義は不機嫌な顔をしながら足を止めます。
「まだあるのか? 世間話なら聞かんぞ。」
「終わって早速で悪いが、君に仕事を言い渡そうとね。」
経義はそれを聞いて目の色を変えました。
「今、僕個人で探しているある魔人がいてね・・・」
「討伐か。了解し・・・」
「いや、今回は『捜索』だ、倒さなくていい。」
「・・・ ア?」
経義は彼の言ったことを聞いて顔を引きつりました。
「ついては君に・・・」
「断る!!」
男は経義のハッキリとした却下を受け、一瞬右指がピくりと動きました。そこに経義は怒り口調で話し続けます。
「俺は魔人を滅ぼすためにアンタと組んだんだ。目的は知らんが、そんなことは他を当たれ。俺に殺されていなければな・・・」
そう言って彼はまた扉の方を向きました。
「弁、帰るぞ。」
経義はその表情のまま早足で部屋を出て行き、弁もそれを見て焦り、男に断りを入れて彼について行きます。
「お、お待ちください若様!! すみません、失礼します。」
部屋に一人残った男は、独り言を呟きます。
「ハァ・・・ 少しは丸くなってくれないものかなぁ、彼も・・・」
そして彼は、机の上にあったパソコンから、一つの画像を開きます。
「こっちもこっちで、一体どこに行ったんだか・・・
・・・ 赤鬼君。」
その画像には、前に化けゴウモリがいたアパートから瓜を抜け出せずに動きが止まったフィフスが映っていました。
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怒りの顔のままビルを出た経義。そこにようやく弁が追い付いてきました。
「若様!! お待ちを・・・」
声をかけられた経義は足をを止めて、彼が来るのを待ちました。
「何だ、まさかお前まであんな仕事を受けろというんじゃ無いだろうな!?」
弁は汗をかきながら彼を落ち着かせようと話します。
「落ち着いてくださいませ若様。私は、そんなことは言いません。貴方様のことは、屋敷位置知っているつもりですので!」
「じゃあ何だ。」
経義は今だ眉間にしわを寄せています。
「そんなことでは屋敷に戻ってもスッキリしませんよ。どうです、ここは一度遊んで帰ってみては。」
顔の汗の量が増える弁を見て、経義は一度息をついて少し落ち着きました。
「遊びだぁ? ・・・ まあいい、気晴らしに運動でもするか。」
そこで経義の表情が少し軽くなったのを見て、弁は心の底からホッとしました。しかしこの判断が、後に思わぬことに繋がっていくのでした。
<魔王国気まぐれ情報屋>
研究室の男のコーヒー
カップ一面にコーヒーが見えなくなるほどのムースが乗っかり、正直はたから見たらかなり不味そうに見える。