第68話 酒乱な鬼
今、フィフスと瓜は、彼の部屋にて誰にも見えずにキスをしている。瓜は頭が真っ白になり、その状況を飲み込むのに間が出来てしまいました。
それは時間にしてしまえば一瞬のことでしたが、彼女の体感は遙かに長く感じました。いざ頭が回り始めても、混乱は続きました。
『こここ、これって!! ももももしかして・・・
・・・ ききき、キス・・・ しています!!?』
そんな瓜のことはお構いましに、フィフスは彼女の後頭部に付けていた腕の引き締めを更に強めて口づけを深くしようとします。
『ナッ!?・・・ ナッ!!?・・・ ナアッ!!!?』
瓜はどんどん訳が分からなくなって目がグルグル渦巻きになってしまっていました。そして・・・
ドガァッ!!!
「ギャアーーーーーー!!!」
ついにキャパオーバーになった彼女は、突如発生した馬鹿力によってフィフスを突き飛ばしてしまいました。彼はその勢いに押され、彼女を掴んでいた手を離して吹き飛んで、ベットの隣にあった引き出しに思いっ切りぶつかって気絶してしまいました。
「フゥ~・・・ フゥ~・・・」
瓜はなんとか息を整えて気を落ち着かせました。そうして改めて前を見てみると、気絶したフィフスの周りに、引き出しの上に連ならせていた物が落ちているのが見えました。
「ああ! なおしておかないと・・・」
瓜は異常な状態のフィフスが目を覚まさないように落ちていた物を次々拾い上げていきました。すると早速その一つ目に目が行って動きが止まってしまいました。
「あら、これは・・・」
それは、幼い頃のフィフスを中心に、サイドにグレシアやルーズが映っている写真でした。いくつかは落ちた拍子にケースを外れています。この世界にはまだ技術がついていないのか、その写真は単色のものばかりでした。
「そういえば、前に言っていましたね・・・」
瓜は、前に言っていたフィフスやグレシアの言葉を思い出します。
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「ご察しの通りだ。こいつの名は『グレシア』。半年前に行方不明になっていた、俺と修業時代からの腐れ縁の雪人だ。」
「知り合いも何も、こいつもアタシの修行仲間よ。」
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「本当に幼い頃からの知り合いだったんですね。フフッ、なんだか皆さん可愛いです。」
瓜はさっきまでのことをどうにかして忘れようとしていたこともあって、一旦、起きないフィフスをベットに寝転がせるまで動かした後、さっきの片付けを再開しました。
それからの作業は彼女にとって見たことの無い彼らの様子を知ることが出来てどこか楽しいものになりました。修行を受けている様子、授業を受けている様子、遊んでいる様子と、当時の彼らの様子をありのままに映し出していました。
瓜が熱中してそれを見ていると、あっという間に落ちていた写真は最後の一枚になっていました。彼女は少し名残惜しく感じながらも、さっきまでと同じ調子でそれを拾い上げました。
『フフッ・・最後は何が映っているのでしょうか・・・』
しかしこれは、フィフスにとって最も彼女に触れて欲しくないものだったということは、後になって分かりました。
「!!? これは・・・ この人は・・・」
彼女はその写真に写っていた人物を一目見た途端、目を見開いて注目しました。それが何を意味するのか分かってしまったからです。
『まさか、フィフスさんは・・・』
「ウリーちゃん!! 大丈夫!!?」
瓜はそこに突然聞こえて来たサードの声にビックリし、咄嗟に持っていた今の写真を服のポケットの中にしまい込んでしまいました。
するとそこに、足早にサードを初めとした夕食時の部屋にいたメンバーがなだれ込んできました。
「ご無事ですか、瓜さん!?」
「すみません、二人きりにさせてしまって・・・」
瓜はまた冷や汗を流して困惑しました。しかしサードはまだ聞いてきます。
「大丈夫? ねえ!!」
「ハ、ハイッ!! 大丈夫、です・・・」
瓜は多少押される形で返事をしました。それを聞いた彼女達はホッとしています。
「ハァ~・・・ 良かった・・・ もう間に合わないものかと思ったわ。」
「?」
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瓜はそこにフィフスを置き、また食事場所にまで連れて行かれました。そこでサードから、こんなことを言われました。
「『酒乱』ですか!!?」
「そうよ~・・・ アイツ、鬼のくせに酒が一滴も飲めないの。」
「すぐに酔って暴れ出すんですよね・・・」
瓜はフィフスの酒事情を聞きました。何でも幼い頃に一滴飲んだ魔王の酒のせいで暴れ出し、辺り一帯をめちゃくちゃにしてしまったらしいのです。
「まあ、それだけならまだ良いのですが・・・」
「更に厄介なところがありますからね。」
「厄介なところ?」
疑問を浮かべている瓜にサードがこんなことを言い出したのです。
「アイツ、酔うとキス魔になるのよ・・・」
瓜はその言葉にビクッとします。
「ハイッ!? そ、そうなん・・・ ですか?」
そこから更にサード立ちがこんなことを言い出したのです。
「そうよ~・・・ だってアタシ被害者だもん。」
「エッ?」
「私も・・・」
「エッ!?」
「僕もです。」
「エッ!!?」
「私もですね。」
「エエッ!!?」
「余所で言うとグレシアもですね。」
「エェーーーーーーーーーーーーー!!!!」
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実家の自室でくつろいでいるグレシア。
「ハックション!!・・・ あぁ~・・・ 誰かが噂でもしているのかしら。何か悪寒を感じるわ・・・」
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瓜は大きな衝撃を受けました。そして彼女はまた混乱状態に陥り、その部屋を走って出て行ってしまいました。
取り残された一行は、お互いに目を合わせて一緒になって言いました。
「「「「何かあったなこりゃ・・・」」」」
周りに誰もいない廊下の窓の縁に手をかけて大きなため息をつきます。
「ハァ~~~~~・・・・」
散々言われてしまい、瓜は忘れようとしていたさっきのキスのことがガッツリ思い浮かんでしまいました。
『フィフスさん・・・ なりふり構わずだったんですね・・・
ファーストキスだったのに・・・』
瓜はがっくりしました。どうにかまた気を紛らわせようとポケットをいじりますが、中に入っているのはさっき入れた写真だけでした。
『しまった! 持って来ちゃいました・・・』
瓜はポケットから写真を撮りだして見ます。しかしそれによって、彼女の悩みは更に増えてしまいました。
『これも・・・ どういうことなんでしょう・・・』
そこには、幼き日のフィフス。そしてその隣には、笑顔で笑っている瓜にそっくりな少女がいました。
<魔王国気まぐれ情報屋>
・フィフスの酒癖
フィフスの酒癖の悪さは、母親であるマイナからの遺伝です。兄弟の中で彼だけが受け継いでしまいました。
マイナは過去の結婚披露宴にて慣れない酒を飲んで酒乱になり、現魔王が気絶するほどの熱い接吻をかわしたようです。