第65話 瓜の質問
それからしばらく時間がたち、話が終わったフィフスはいそいそと皆のいる部屋へと向かって行きました。
「お~っす、戻ったぞ~・・・」
するとその部屋の中には、食器の片付けを終えたところのルーズとキンズがいるだけでした。
「なんだ、瓜はもうどっか行っちまったのか?」
「おや、お帰りなさいませ。王子。」
ルーズはいつにもなく素っ気ない態度で挨拶をしました。当然フィフスはそれを不自然に思います。
「どうした? 何かもの言いたげだが。」
ルーズは、この部屋での食事中に『獄炎鬼』について話したことを彼に説明しました。すると、フィフスは自身の目見開き、途端に表情が変わりました。
「言ったのか? あのこと!?・・・」
フィフスはその瞬間に発生した怒りの衝動のままにルーズの胸ぐらを掴み上げました。それでも彼は落ち着いた様子を見せ、フィフスにはそのことにまた苛立ちました。
「お前!! 勝手なことを・・・」
殺気のこもった瞳を前にしながらも、ルーズは顔色を変えませんでした。しかしその声には感情による圧が込められていました。
「これ以上彼女と関わるなら、全て秘密という訳にはいかないでしょう!! あれでも、あなたの気持ちを配慮して、『あのこと』については話していないんですから・・・」
それを聞いて少し落ち着いたのか、フィフスは彼の胸ぐらを掴んでいた両腕を放しました。
「そうか・・・ なら百歩譲って良しにしておく。」
そう少し怒りが収まった口調でフィフスは言いますが、どこか納得はしていない様子です。そこに、らちがあかないと思ったキンズが割って入り、こう話しました。
「彼女なら、今は戦いの憂さ晴らしに姫様達と城下町に出ています。夕方には戻ると言ってましたので、話をしたければ食事のときにどうぞ。」
機嫌を悪くしていたものの、ここで争っても仕方ないと感じたのか、フィフスは軽く舌打ちをついてから自室へと戻っていこうとしました。しかしそこに、ルーズがこんなことを言って呼び止めます。
「瓜さんから質問がありましたよ。」
それを聞いて当然フィフスは反応を示して振り返り、彼を疑った目で見ました。
「・・・ 何だ?」
そしてル-ズは、フィフスにそのときのことを話しました。
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「す、すいません・・・ ですが!! 一つだけ聞きたいんです!!」
「?」
瓜はそのとき、珍しくハッキリとした声で、言った通りの一つの質問をしました。
「フィフスさんは・・・ 大丈夫なんですか!?」
「大丈夫・・・ とは?」
そこからの彼女はまた声が小さくなりました。しかし元から耳の良いルーズには十分内容が聞こえました。
「無理を、していませんか・・・」
瓜は、たくさん人を殺した彼のことを、その事に苦しんでいないか、あの普段の笑顔にも、無理がしているのではないかと・・・
しかしルーズからは、こう乾いた声で返されました。
「さあ?」
瓜はルーズからの意外な返答に驚きます。
「『さあ?』って・・・ あなた、彼の執事では・・・」
「執事だからこそですよ・・・ 変な同情を身近な者がすれば、彼の不安を煽るだけですから。」
「ルーズさん・・・ でも、でも私は・・・
・・・友達を!! 助けたいんです!!!」
今まで一部屋に響いたその一言に、周りにいたサード達も震えました。
「ウリーちゃん・・・」
「・・・」
そしてその言葉を皮切りに、部屋は重い雰囲気に包まれ、瓜も含めて口は出さなくなりました。
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一通りの話を終えて、ルーズはその感想としてフィフスにこう言い放ちました。
「正直・・・ 貴方の過去を聞いて、そう答えるとは思いませんでしたよ。」
「・・・ ハァ・・・」
フィフスのついたため息に、ルーズとキンズは目を丸くします。
「どうしました?」
「いや、アイツらしいって思ってな・・・」
「王子?」
「いや、もういい。」
フィフスはどこか気を納めたようになりながら、今度こそ自身の部屋へと向かって行きました。
少ししてから、ルーズはアッと思い出しました。
「彼の用事が何なのか聞くの、忘れてました・・・」
自室に戻り、その足でベッドに寝転がったフィフス。
「友達を助けたい・・・ ね・・・」
悪態を叫ぶと、彼は横にあった引き出しの上にある、他に隠れた一枚の写真に目が行きました他の飾り物の影に隠れて良くは見えませんが、彼には当然、そこに何があるのか分かっていました。
「・・・ また、良い『友達』を得ちまったな・・・
・・・ 俺には、そんなたいそうなもん持つ価値なんて・・・ ないのによ・・・」
フィフスは考え込まないように眠り込もうとしましたが、それは中々出来ませんでした。
<魔王国気まぐれ情報屋>
契約の魔道書の種類
・召喚型
別の場所にいる魔人を召喚して使役するタイプ。
例 フィフスなど
・解放型
あらかじめ本の中に封印されていた魔人をそこから解放して使役するタイプ。
例 グレシアなど