第64話 獄炎鬼
ここからは、ルーズが己が口から瓜に伝えた当時の光景。
そこは、魔王国と人間側の大国である、『聖国』の丁度国境近くある森林の中。
しかしその場所には最早その影は無く、おうおうと茂っていた葉の場所にあるのは、メラメラと燃え盛り続ける炎。木々の立ちこみの代わりには、上空へと上っていく煙が何本もある異質な空間。
それは一見すれば、閉鎖された地獄とも思えるような場所に彼は立っていました。
その周りの地面には、灰となっている者や、体の一部を欠損した死体が、無残にも大量に転がっている。
当時のルーズは、遅れて来たがためにその光景を遠目に見ていた。そして彼は、そんなフィフスの隣に近付くことが出来ませんでした。彼のことを分かっていても、心の奥にあった恐怖によって、無意識に警戒してしまっていたのです。
そのときのフィフスは、彼も知らない、まるで別人のような出で立ちだったようです。
そして、フィフスは彼の存在に気付いたのか、振り向きました。その顔には、流し続けてようやく止まった涙の跡が見えました。
「王子・・・」
ルーズは、そんな彼を励ます言葉さえ、そのときは残念なことに一つも思い付かなかったようです。
すると、そこにフィフスの救援のためにやって来た魔王軍は、この目の前に起こっている事態を見て、多くの兵士が衝撃を受けていました。
「な、何だこれ・・・」
「全員、死んでるのか?」
「まさか、王子が・・・」
このことは後に国民にこう伝えられた。
『最悪の強敵を前に、第三王子フィフスが正義の鉄槌を下し、見事に壊滅させた。』
その記事の別の部分に書かれた一文から、フィフスは地獄の炎ですら己に纏わせた国最強の戦士、『獄炎鬼』として語られた。
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その話の一部始終を、瓜はただ黙って聞いていました。
『それが・・・ 「獄炎鬼」 』
「この魔王国にとっては、巨大な脅威から自分たちを守ってくれた『英雄』、対して敵国である聖国に住む人々にとっては、家族、友人、恋人・・・ 多くの人の大切な人の命を奪っていった。まさしく、国を挙げての『大罪人』なんですよ・・・
・・・ 彼、フィフスという男は。」
「・・・」
瓜はうつむいて、カップの中に残っていたお茶を覗きます。そこには思い浮かんでいた、フィフスの顔が浮かび上がりました。
『そんなつらいことがあっても・・・ 彼は私の前に、笑顔でいてくれたなんて・・・』
サードはそんな彼女の顔を見て、ルーズの方を向きながら、『ほらやっぱり・・・』とでも言いたそうな表情になりました。
それに反してセカンドは、ルーズに何か別のことを言いたげな顔をしている。それを見た彼は、瓜が見ていないことを確認して、苦い顔になります。
『今はこれでいいでしょう。これ以上真実を教えれば、それこそ軽く友情なんて壊れる。』
ルーズは居心地が悪くなったのか、その部屋を離れようとしました。しかしそこに、顔を上げた瓜が呼び止めます。
「あの!!・・・」
「・・・ 何でしょう? 自分から語っておいてなんですが、この話はそうくどくどやりたいものではないんですよ。」
「す、すいません・・・ ですが!! 一つだけ聞きたいんです!!」
「?」
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変わってフィフスサイド。御託を並べる幹部達を外に出し、彼は父である『魔王』と、暗い部屋の中で久しぶりの対話をしていました。
「相変わらずの圧力なこった。幹部連中もビビって警戒しきってたぞ。」
「痴話話は止めろ。私が忙しいことは、お前も十分知っているだろう。用件だけ話せ。」
フィフスはこれに、フレンドリーに答えました。
「そう固いことじゃない。単に息子として、少し『わがまま』を言いに来ただけさ。」
それを聞いて、魔王は威圧が少し引っ込みましだ。そしてクスクスと言う小声のすぐ後に、今度は大きく笑い出しました。
「ハッハッハ!!・・・ お前がわがままとは、これは面白いことを言う。人に迷惑をかけて、最後に反省のない謝罪をするのがお前だろう。」
それを言われてフィフスは小さく赤面し、そっぽを向きました。
「・・・ うっせ。それを言うな・・・」
フィフスは小さく文句を言います。すると魔王は、今のそのペースのままで続けます。
「それで、この父の仕事を邪魔してまで言いに来た『わがまま』とは、何だ?」
魔王からの改まった聞き方のその質問に、フィフスはそっぽ向かせていた顔を彼の方向に戻して、単刀直入にこう答えました。
「俺を、また異世界に行かせてくれ。」
<魔王国気まぐれ情報屋>
・獄炎鬼の伝説
聖国には、フィフスのこの強さが伝わっていこう、魔人の討伐懸賞金において彼は魔王の次に高くなっています。
しかしルーズはまだ瓜に話していない内容があるようですが、それはまた別の機会に語るとしましょう。