第49話 海賊姫
再び戻って国門付近。ノギの剣がセカンドによって折られる少し前・・・
サードと化け猫が面と向かい、そこにグレシアが走ってやって来ました。化け猫は二人の体を見て舌なめずりをしています。
「ゲヘへへへ・・・ 可愛い雌が二匹・・・ こいつは夜に楽しめそうだぜ・・・」
「・・・ キモっ。」
サードはド直球にそう罵倒します。後ろのグレシアも言葉は発しないものの明らかに嫌悪の目を向けています。化け猫はその目を逆に笑って見ている。
「ほ~いいねいいね~・・・ そうゆう反発的な女を落とすのがたまんねえんだよな・・・」
そして化け猫は対戦姿勢を固めます。
「じゃあそろそろ、この爪でお遊びを始めるか!!」
すると化け猫は、呆れてジト目になったいるサードに向かって真正面から突撃してきました。
「!?」
思っていたよりも速いスピードに押されてしまい、サードは身を捻りますが一部髪が切られました。
グレシアは彼女を心配します。
「姫様!! 大丈夫ですか!?」
勢いを止めた化け猫は振り返りながら更に挑発します。
「オラオラ見たか! さあ降参して俺のおもちゃになるなら今のうちだぜ。」
調子に乗りながら続ける化け猫にサードは黙っている。グレシアの方は怒りながら彼に殴りかかっていくところでしたが、サードがサッと片手を出してそれを止めました。
「姫様!? どうして・・・」
「まあ、今回は下がって見てなさい。」
「?」
疑問は持ちましたが、サードの真っ直ぐな目を見て今回は身を引きました。化け猫はそんな彼女を見てまたニヤけます。
「何だ何だ? アンタが一人で相手してくれるのか?」
「ええ、だって彼女がいたら危ないもん。」
「ほう、ならじっくりとやらせて貰うとするか。じゃあ早速体を・・・」
ヒュン!!・・・
「ハッ?・・・」
次の瞬間、化け猫は自慢の爪が生えている片腕が軽々と切り落とされていました。
「ハァーーーーーーー!!?」
突然のことに化け猫は立った今起こったことに大量の汗をかきながら焦っています。すると今度は逆にサードがニマニマと笑って言い出します。
「うっさい、バーーーカ。」
「て、てめえ・・・」
『な、何が起こった!?』
化け猫はもう一つ驚いていました。そもそも彼とサードとの距離は、彼女の探検ではとても切れないほど離れていました。しかし彼女はその場から一歩も動くことがなく、一瞬にして彼の腕を切っていたのです。
しかもその後、円を描いたかのように線上に森林の木が切り倒されていました。
「散々ワーワー言ってくれたようだけど、アタシ、アンタみたいなタイプが反吐が出るほど大嫌いなのよ。」
「クッ・・・ たかが女風情が!!」
化け猫は今度は口から術を放ちました。
「<火炎術 火球弾>」
しかしサードはその火球を軽々とかわし、両手に握っていた剣の片方を振るった。するとまた、届かないはずの刃が化け猫に当たり、今度は胸に傷を負いました。
「グホッ!? さ、さっきから何なんだ・・・」
後ろに下がっていたグレシアも、今目の前で起こっていることに理解が追い付きませんでした。
『どういうこと? 今の攻撃、普通に考えて当たるはずがない。でも、斬撃を飛ばしているなら切り口が鮮やかすぎるわ。』
「どうしたの? 口の割には手も足も出てないようだけど。」
そうサードが行ったすぐ後に、また彼女の前方の木が切り落とされていった。
「・・・ ええい、ならばこれで・・・」
彼は素早い動きでサードの目前にまで一気に近付きました。
「これなら小細工も出来ねえだろ。」
「そう。でもこんなんなら出来るわよ。」
サードは右手を自身の後ろ斜め上に振りました。すると、彼女の体はそれに引っ張られるように化け猫の攻撃から回避し、木の枝の上に乗っかっていました。
「残念ね。この環境下じゃ、素早さもアタシに部があるわ。」
焦って視野が狭まっている化け猫に対し、後ろから全容を見ていたグレシアは、サードの攻撃の仕組みを少し掴みました。
『さっきの移動、一瞬剣からロープが見えたような・・・ もしかして、あの剣に仕込みが。』
グレシアの考えは的を射ていました。
「さてと、その臭い息振りまかれるのも限界だし、そろそろ決めようかしら。」
そしてサードは立っていた木の枝から飛び上がり、空中から化け猫に向かって剣を振るいました。その剣撃は化け猫はもちろんのこと、周りの木々も次々と切り倒していきます。
「カハッ!!・・・ 『こ、こいつ・・・ 周りの損害もお構いなしかよ。』」
傷だらけになった化け猫は辺り一帯の荒れ具合を見てこんなことを言い出します。
「お前、何考えてんだ!! 周りに人がいたらどうすんだ!?」
地面に着地したサードはそれにこう答えました。
「だから魔女っ子ちゃんは逃がしたじゃない。」
「そう言う問題じゃねえよ!! お前、少しは穏便にやれねえのか!!?」
「・・・何言ってんのよ、それじゃつまんないじゃない。」
「・・・は?」
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魔王国 第二王女 サード
その姫という身分に合わず、彼女は常にラフな格好を着こなし、腰に携えた二本の剣を辺り一帯にに振り回す。
王家の中で随一に『魔王』の荒々しさを受け継ぎ、一国の姫とはとても思えないその過激な攻撃をする姿から、いつの間にか彼女を知る人間はこう呼ぶようになりました。
『海賊姫』
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サードは右の剣の峰を右肩に置き、もう一方の剣の先を化け猫に向けて、両目を見開いてこう言いました。
「どうせやるなら・・・
・・・派手に行くわよ!!」
「て、てめえ・・・ ふざけんな!!」
やけくそになった化け猫は火球を彼女に向かって連発して繰り出しました。それに対して彼女はつっるギの仕掛けを巧みに利用し、地面や木々を動き回ってそれを全て回避しました。
「クソッ! クソッ!!」
彼がそのことに苛立っていると、いよいよサードはその死角に入りました。
「よし、ここで良いわね。」
すると彼女は両方の剣に着いていたスイッチを押し込みます。その途端、刃先に魔力が集中し、そこに電撃が発生しました。
「ナッ!!?」
雷の音に気付いて化け猫は振り返りましたが、そのときにはもう手遅れでした。
サードはエネルギーがたまった二本の剣をただ単純に彼女から見て左から右に向かって勢い良く振りました。
「<雷鳴剣術 ド派手切り>!!!」
すると、剣はまた仕掛けによって瞬時に延ばされていき、今までで一番の範囲を巻き込みながらおおきな稲光を発して化け猫を切り裂きました。
一瞬だけ当たりから一切の音が消えました。そして・・・
「・・・ あ、あぁ・・・」
次の瞬間、化け猫が盾に三等分の輪切りになり、その技で切られた範囲から大きな音と共に広い爆発が起こりました。
「ふぅ~・・・ スッッッキリ!!!」
一戦を終えたサードは剣を持ったまま両手を上に向かって伸びをしました。
安全地帯で全容を見ていたグレシアはただただ圧巻していました。
『こ、これが・・・ 海賊姫、サードの戦い・・・ 噂には聞いてたけど、ここまで派手とはね・・・』
あまりのぶっ飛びぐわいの戦い方にすごいを通り越して呆れかえっていました。
<魔王国気まぐれ情報屋>
・サードの剣
サードの剣には、持ち手と刃の間に特殊なロープが巻かれています。向こうの世界で言う特殊カーボンワイヤーのようなこれは、それ自体にも切断力を持ち、彼女が長さを調整することで剣は一瞬にして長剣に変わり、移動用のロープとなります。
サードはこの仕組みを多用することで、周りに障壁があればあるほど縦横無尽に動き回る事が出来るのです。