第48話 古塔にて・・・
一方の古塔サイド・・・
さっきノギ達によって起こされた攻撃の衝撃によって響いてきた音に何か嫌な予感を感じ、どこかそわそわしていた瓜。
『一体、何があったんでしょう・・・ フィフスさんは・・・』
それを見て修道女は何か言いたげな様子でした。
「そんなに向こうが気になるのか?」
ギクッ!!
「ああ・・・ いや、その・・・」
「ここに来ているのと、何か関係があるのか?」
図星を付かれたことにビクッとした瓜。そこに彼女から追い打ちが入ります。
「そもそもここは国の奥底。殆どの者が存在すら知らず、知っていたとしてもまず見つけることが出来ないことが普通なのだが・・・」
聞いたことに瓜は冷や汗をかいてキョトンとしていました。ユニーは動かないままながらも、分かりやすく大量の汗をかいていました。
そこに修道女は考えた応えを言いました。
「ここに来れる者。唯一出来るのは、魔王家とつながりを待つ者だけ・・・」
「!!!?」
瓜はその一言にゾクッとしました。
「そのユニコーンで初めから分かっていたぞ。どういう仲かは知らんが、フィフスと関係があるのだろう。」
「知ってて・・・ 私を・・・」
「修道女として、悩みを持つ者を放っておけなかったからな。」
彼女は祈りの体勢を崩さずに片目を開けて瓜をじっと見ています。根負けした瓜はここに来た事情、及びフィフスとのことを隠さず話すことにしました。
「実は・・・」
そのときの瓜の話を、修道女はたまに頷きながら黙って聞いていました。
瓜が一通り話し終わると、修道女は静かに口を開きました。
「それで・・・ 私は、王子に・・・ 迷惑を・・・」
「そうか・・・ この塔にこもっていると手に入る情報が少なくてな。そこまで大事になっていたとは・・・」
どうやらこの女性は、『フィフスが一時行方不明になっていた』という事実すら知らなかったようでした。
その事が瓜にとっては衝撃的でした。なんせ国の王子であるフィフスがいなくなった事件なのである。いくらここでの作業に従事しているといえど、流石にその事を知らないのはおかしいと思ったのです。
「し、知らなかった・・・ ですか?」
修道女は瓜の言いたげな顔に気付いていました。
「こっちに来い。」
彼女の言うことに瓜は言われるまま近付くと、修道女は片目まで隠していた髪をかき上げました。
「これを見ろ。」
そこには、もう一方と違い角の生えていないおでこ、及び色の違う目がありました。
「それって・・・」
彼女は髪を元に戻すと、その事情を話しました。
「さっきのことから知っていると思うが、この世界は魔人と人間がことあるごとに対立している。それは事実だ。だがもし、その例外がいたとすればどうする?」
「れ、例外・・・ ですか?」
まさかと瓜は考えが付きました。
『もしかして、この方・・・』
「・・・ そうだ、私は人間と魔人の混血だ。だからここにいる。」
端的に言うと彼女は迫害されていたのです。この血のせいで、人間からも魔人からも差別され、居場所がここしかなかったようです。
「場所があるだけありがたいがな。聞いた話によると、迫害された混血が軍団を率いてテロを起こしている話もあるらしい。」
「でも、これは・・・」
瓜は彼女の境遇に何を言ったら良いのか分からなくなりました。しかし彼女の表情は変わりません。
「お前は今、私に対して同情をしたな。」
「え・・・」
「構わん。ただ、これだけは覚えておけ・・・
・・・お前が今私に思ったように、今のお前の境遇を心配している奴がいることを、忘れるな。」
瓜はその言葉に初め理解が出来なかった。しかしすぐに思い出した。
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「・・・ 当たり前だろ!! ったく・・・ 無事で良かった。」
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『フィフスさん・・・』
化けゴウモリのときにあったフィフスからの心配を。そしてさっきから自分が感じているのも、それと同じものだと・・・
「お前が王子の心配をして距離を置く事は自由だ。だが、お前と同じように、向こうもお前のことを心配していると、私は思うぞ。
・・・でなければ、自身のユニコーンを預けはしないだろう。」
「!! ユニーさんを・・・」
彼女はそう言われてユニーをじっと見ました。事がバレてしまったことから、ユニーは汗が減った代わりに大きく息を吐いていました。
「ずっと・・・ 私を・・・」
ユニーはフィフスから指示があったことを認め、コクコクと首を縦に振りました。すると瓜はそんなユニーを抱き寄せ、胸元にぎゅっとしました。
『あの人は・・・ 何でそこまで・・・』
「・・・ ありがとう・・・ ございます・・・」
胸元に顔を押しつけられて彼には見えなかったが、その声はどこか泣いているようでした。そこに修道女は振り返って一つ聞きます。
「・・・ お前、アイツの所に行きたいか?」
瓜は静かにこう答えます。
「ダメです・・・ 私は・・・」
「迷惑をかけるからいてはいけない・・・ か?」
瓜は黙ってうなずきます。それに対して修道女は・・・
「お前は?」
「エッ・・・」
「お前は、どうしたいんだ?」
「わ、私・・・ ですか?」
「さっきから聞いていれば、お前は自分のことをそっちのけにして、周りのことばかり考えている。だから聞きたい。『町田 瓜』は・・・ どうしたいんだ!?」
「このままここで暮らすも良し。この国すら出て、人間の国で暮らすも良し。そして・・・
・・・ 無理を承知で、アイツの所へ行くのも、また良しだ。」
「・・・」
「お前がどうするのかは自由だ。だが、ここで選択を間違えれば、もう後戻りは出来なくなるぞ・・・」
修道女はツンとした冷たい目線で瓜を見ます。その言葉に諭され、彼女は涙を拭いてこう言いました。
「私は・・・」
瓜はこれまで、一人になりたくが無いゆえに周りに合わせ、自分の意見など押し殺すのが当たり前だった生活を送っていました。自分がそんなことをして良いのかと・・・
しかしそのとき、頭の中に彼が思い浮かびました。
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「俺が、おまえの友達になってやる!!」
「当然だろ、俺たちは<友達>だからな。」
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そうして浮かんだ言葉は、至極単純で、緩徐にはとても勇気がいる言葉でした。
「・・・ 私は! フィフスさんの隣にいたいです!! 大切な、『友達』として!!!」
それを聞いて修道女は安心したように表情が緩みました。
「そうか。なら彼の所に行かなければな。勝手にいなくなったことを謝ってこい。」
「し、しかし・・・ ここから・・・ 国門までは・・・」
そう、ここは魔王国でもかなり奥にある古塔。ここから国門に行くには、歩けばかなりの時間がかかる距離でした。
すると修道女は、こんなことを言い出した。
「それについては大丈夫だ。下手な乗り物よりよっぽど速い方法がな。」
そして瓜はは彼女からその方法とやらを聞きました。
支度を整えると、瓜は言われたとおりに窓の前に立ちました。彼女は振り返り、修道女にお礼を言おうとしました。
「いろいろ、ありがとう・・・ ございます・・・ えっと?」
そのとき、瓜は彼女の名前を聞いていないことに初めて気付きました。
「あの・・・ お、お名前・・・」
彼女は小さく笑顔になって、快く応えました。
「・・・ マイナだ。また会えることを楽しみにしているぞ。」
瓜は顔を明るくして、改めてお礼を言いました。
「ハイ! ありがとうございました。 マイナさん!!」
そうして瓜は肩にユニーを乗せた状態で窓から飛び降りて、古塔から出て行きました。
一人になったマイナは、ボソッと呟きました。
「なんだか、面白い少女だったな。さて・・・」
マイナはそこから立ち上がりました。
「国に敵が来ているらしいからな・・・
・・・ 少しは母親らしいことをするとするか。 フィフス。」
<魔王国気まぐれ情報屋>
・政策裏話
構想段階初期では、瓜はサブヒロインとして登場させる予定でした。そのときは引っ込み思案な性格もまだましで、屋敷のメイドという設定です。
モチーフも『マッチ売りの少女』ではなく、『七夕物語』より織り姫でした。