第46話 裏切り者の魔人
<昨日の回想>
剣が使えない状態のノギは苛立って待っていると、カオスはいつもの調子でそこに戻ってきた。その事にノギは更に苛立つ。
「貴様、今までどこに行ってやがった!!?」
「まあまあそうカッカせずに・・・ 言ったじゃないですか。最大限サポートはするって。だから準備してたんですよ。」
「準備だと?」
カオスはニヤリと笑う。すると彼の後ろの木々から屈強な男達が出て来た。
「こいつらは?」
「あなたの家の名声を使って集めました。ご安心を、口は堅いです。」
「ケッ! 要は金で雇ったのか。」
そのとき、ノギは気付いていなかった。いくら夜ふけた時刻だったとはいえ、たったこれだけの時間でかるく百はいる軍団を作るなど、普通は到底不可能だったのです。
「あぁ、そうそう・・・」
カオスはそこに更に両手のひらの上に瞬時に魔道書を出現させ、それをノギに手渡しました。
「何だこれは?」
「契約の魔道書です。いい手下が手に入りますよ。」
ノギは魔道書を物珍しく見ました。それもそのはず、今の時代ではこの本は禁術であり、存在がある自体マズいことだからでした。
しかし甘やかされて育った彼には、おもちゃ程度の感覚でそれを持てました。
「ほう、これが噂に聞く契約の魔道書か。」
「ええ、それを使えば、人間を襲いし恐怖の魔人ですら支配下における。あなた様にぴったりな道具です。さあ、早速どうぞ。」
ノギは二つの魔道書を同時に開き、そして願いました・・・
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そして現在、魔道書によって召喚された『化け猫』と『魚人』が悪くニヤけながらフィフス達を見ました。
「見ろよ! こいつら分が悪いからっていきなり人質を取りやがったぜ。」
化け猫のかるい挑発に合わせて、後ろにいた兵士達も高笑いをします。それがやむと、今度は魚人の女が笑うために塞いだ手をどけて話し出しました。
「良いんじゃない? どうせ魔人なんて威勢だけで中身はすっからかんなんだから。」
「アンタだって魔人でしょうが!!」
「そう。でも何事にも例外はあるのよ。私は今の魔王の政策に反対なの。わかる?」
「いみゃもまもうもめいみゃむ?」
塞がれた口で平次は気になったことを話しました。
「今の魔王は魔王の中じゃ珍しく平和主義だからな。それに反対する奴は多いと聞いたが・・・」
「まさかそれが勇者(w)につくなんてね・・・ 」
呆れながら煽るグレシアに、魚人は笑い返します。
「フフフ、それだけ今の魔王国は腐っているって事よ。どう、貴方たちも一緒に来ない?」
当然ながらその場の全員の応えは・・・
「ノー!! だな。」
と、かっこよく言い張りました。変わらず平次は人質にされてましたが・・・
後ろの中心に控えていたノギはそれを聞いてフッと鼻で笑い、口を広げた
「ハ~・・・ 獄炎鬼以外は手下にしても良かったんだが・・・ こうなれば仕方ない。人質も俺には関係ないしな・・・」
『ん? 何か嫌な予感が・・・』
ノギは腕を振り上げた。
「お前ら!! かかれ!!」
すると構えていた兵士達が待ってましたとばかりに平次のことをお構いなしに攻めてきたのです。フィフスは少し冷や汗を流しながら・・・
「う~ん、やっぱり駄目か。仕方ない。ホイッ。」
少し愚痴を言ってフィフスは平次を放り投げた。
「ンーーーーーーーーーーーーー!!」
投げられた彼はしばらく宙を浮き、その間に布がずれて口元が開きました。そして後ろの木の枝に服が見事に引っかかって宙ぶらりんになりました。
「しばらくそこで待ってろ。」
「ふざけんな!! クソ鬼ーーーーーーーーーーーーー!!」
平次はそのまま放っておき、フィフス達はついに相手の軍団と真正面からぶつかりました。ノギは彼らにこう言って更に喝をかけました。
「獄炎鬼の首を取った者には多額の報酬をくれてやる!! 存分に暴れろ!!!」
ウオォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!
やる気に満ちた兵士達は、他の魔人には目もくれずにいきなりフィフスを取り囲みました。それを見てサードが茶化します。
「あ~ら、モテモテね。」
「悪い意味でな・・・」
グレシアもそこに向かおうとしたが、脇から飛び出してきた化け猫に妨害されてしまいました。
「おっと、お前の相手は俺だ。俺は女をいたぶるのが大好きなんでな。」
化け猫は腕をポキポキと鳴らす。
「またそう言う奴? もう簡便なんだけど・・・」
そうは言いますが、今のグレシアは実質術が使えない状態なので、場合によってはかなり不利でした。
「さあて、かわいがらせて貰おうか!!」
そして化け猫は正面から攻めてきました。のですが・・・
バンッ!!
「グホッ!!?・・・」
その直後に更に脇から現れたサードによって彼は蹴り飛ばされてしまいました。
「アイツは任せときなさい。魔女っ子ちゃん。」
「ま、魔女っ子・・・」
グレシアは遺憾の意を示した顔になりました。
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少し離れた大きな木に激突し、そこで化け猫は体勢を立て直します。
「何だってんだ・・・」
するとそこに、鞘から剣を抜いたサードがやって来ました。さっき攻撃されたばかりだというのに、化け猫は品定めをしました。
「ほお、さっきのよりも肉付きが良いじゃねえか。こりゃあ良いぜ。」
対するサードは怒っていた。
「アンタ、アタシがホンッとに嫌いなタイプだわ!! 魔女っ子ちゃんに言ったことについて土下座で謝りなさい!!!」
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その頃、フィフスは四方八方から兵士に責められていた。
「獄炎鬼の首は俺の物だ!!」
「いいや俺のだ!!」
「いいや俺のだ!!!」
兵士達はすぐに我先にと容赦無く襲いかかる。
『さて、こいつら全員に格闘勝負か。少し面倒だな・・・
・・・ッン!!』
そのとき、何かに気付いたフィフスはどういう訳か両手の人差し指で耳を塞いだ。するとそこに歌が聞こえて来た。
「<心歌術 怠惰の歌>」
その歌を聴いた途端、兵達の反応が変わった。
「・・・ あ~・・・ めんどくせえ・・・」
「やる気ないし。こんなこと。」
「面倒くせえし寝るか。」
次々と兵士がその場で寝転び、眠り始めたのです。
「これは、何だ!? 何が起こっている!!?」
ノギが訳も分からないでいると、兵士の後ろに隠れていたセカンドが現れました。さっきの歌を歌っていたのも彼女でした。
「多対一なんて卑怯ですわ。このくらいはしないと。」
「ああ・・・ すまねえな、セカ姉。」
フィフスは曲を聴いていなかったがために効果が無かった兵士達を素手で相手しました。
「ば、馬鹿な・・・ 素手で俺の剣が折られた!!」
「だ、だったら盾で・・・」
一人の兵士は怯えながら盾を構え、その後ろで剣を準備します。しかし、その盾のど真ん中にフィフスは貫手の型を取って一直線にぶつけ、これを剣ごと破壊しました。
「<伝獣拳 雉突き>」
「た、盾までぶち抜いてやがる・・・」
兵士達が戦々恐々としていると、フィフスはその人達を睨み付けて言います。
「どこでどんな噂を聞いて俺を倒せると思ったのかは知らんが、あまり舐めると・・・
・・・痛い目を見るぞ。」
その台詞は、いつにも増して威圧を感じ取れました。
<魔王国気まぐれ情報屋>
<心歌術>
この異世界の格国に一人いる歌姫のみが使用できる特殊術。波長の違う歌を歌うことで、聞いた相手の感情、及びテンションを操作できる。直接的な攻撃には使えないが、サポートの面で役に立つ。
モチーフ紹介
・化け猫
『ピノキオ』よりフィガロ
・魚人
『ピノキオ』よりクレオ