第45話 勇者の正体
翌日、早々にルーズは帰ってきました。たった一日のことだったというのにドッサリと資料を持ってきているようです。
「す、スゲ~・・・」
再びの侵攻に備えて魔王城に止まっていた平次はルーズの仕事の質に驚いていました。一晩寝て動けるようになったフィフスは早速資料を見る。そこにルーズから説明が入ってっきました。
「向こうの国でもそれなりに有名人だったようで、思っていたよりもすんなりと集まりました。」
「それで、奴は誰だかわかったのか?」
ルーズはたくさんの中から一つの資料を指しました。
「これです。彼は『ノギ・ゼルペット』。向こうの国の名門であるゼルペット家のせがれだそうです。そして、彼は王子と会っています。」
「会ってる? いつにだ?」
当のフィフスは一切覚えていないようなのでルーズは説明しました。
「あれですよ。前にあったドッキリみたいな・・・」
「ああ・・・ そういうことか・・・」
大体察したフィフスにグレシアと平次は意味が分かっていないようです。
「何があったのよ?」
「丁度俺が異世界に飛ばされちまう直前の話だ。ざっと数えて百人ぐらいの勇者を同時に相手取ったんだよ。」
「百人!?」
平次は常識から外れた数字にあんぐりになってしまいました。
「ま、全員揃ってこっちの人手不足によるツケで来たような連中だったがな。だが、今までにも俺を倒したってほざいた奴が来てたんだろ?」
「ええ、ですがさっきも言いましたとおり、彼は名家の出です。なので・・・」
「親の金を使って、情報に圧力をかけたのか。じゃあ、あの訳の分からん剣も、親の金で手に入れたのか?」
ルーズはフィフスからの質問にこう答えました。
「それが、そこだけ分からないんです。」
「分からない? なぜだ。」
ルーズは資料から手を離して息をつけた。
「聞いた話によると、彼は酒場で飲んだくれていたところに一人の少年が話しかけ、彼がそれについて行き、戻った頃には持っていたようですが・・・」
「その少年の正体が分かんねえって事か・・・」
フィフスは思うところがあった。
『俺が生きていることを知っているこの世界の住人・・・ まさかな・・・』
ドンッ!!!
少しした後、魔王国国門にて大きな爆発音が響いた。距離が離れていたにもかかわらず、二つの場所には動じにそれが聞こえて来ました。
<魔王城 作戦室>
フィフスを中心に、その場にいた人間である平次も含めて震えていました。
「何だ、今の轟音!!」
<魔王国 古塔頂上>
そこにいた二人と一匹も、同様に反応しました。
「な、何ですか!!?」
・城サイド
「これは・・・ おそらく国門からですね・・・」
オオカミの聴覚を持つルーズは、すぐに音の発生源を理解して、それにグレシアは焦りました。
「最悪ね・・・ こっちは術の使えない鬼に氷の出せない魔女、昼間で力の出せない人狼と来た。パーティーメンバーとしてはこれ以下ない組み合わせね。」
「どうすんだよ! このままじゃやばいんじゃねえのか!!」
平次が慣れていない衝撃に膝を震えて慌てふためいていると、残り三人が体を傾けて彼を見ました。
「え? 何・・・ 俺の顔に何かついてるの?」
するとフィフスが冷静にこんなことを言い出しました。
「なあ・・・ こうなったらメガネを人質にして交渉した方が早くねえか。」
「オイーーーーーーーー!! 何言い出してんだこいつ!!!」
平次が突っ込んでいると、残りの二人も・・・
「そうね、確かに。」
「その方が効率良いですね。」
こんなときに限ってフィフスに乗る二人に平次はどうにか計画を変えようとします。
「お前らまで!! 何、俺って仲間じゃないの!? 何だと思われてるわけ!!?」
「いや、グレシアの付属品のメガネだろ。」
「あ、そうですか・・・」
平次は何かを察し、それ以上いうことを止めた。彼が諦めかけたとき、そこに助太刀がやって来ました。
ガララララ・・・
「そんなことする必要ないでしょ。」
それは、身軽な服装に着替えて、腰の左右に剣をこさえたサードでした。
「アタシがいるんだから。」
いることを知らなかったグレシアは驚きます。
「さ、サード姫!? え、自宅の別訴にいるんじゃ・・・」
「パーティーでたまたま来てたんだよ。」
「ま、一応『姉』だしね。」
フィフスは呆れて髪をかいていいます。サードはそれを見てムッとしています。
「不服そうね、フィフス。」
「当然ッスよ。姉上が暴れたらろくな事に何ねえ・・・」
「じゃあ、他に手があるの?」
そう言われてフィフスは不機嫌ながらも口を閉じました。
「サードの勝ち。ですわね。」
そう言って奥からヒョッコリとセカンドも出て来きました。
「セ、セカンド姫まで!!」
「おいおい・・・」
セカンドはクスクスと笑って、それを止めるとフィフスに言いました。
「今回は私達も出ますわ。これなら相応に戦えるでしょう。」
セカンドは自信ありげにそう言います。実際フィフスは彼女を強さを知っていました。知っているがゆえにこそ彼は彼女達を連れて行くことをためらっていたのです。
「あ~・・・ 『ろくでもないのが二人も来たか・・・ まあ、一番の得策か・・・』」
あまり内心は快く無かったですが、フィフスはグレシア、ルーズに加えて、サード、セカンドも連れて行くことになりました。
「ニシシッ・・・」
「フフッ・・・」
二人は威勢が良く笑いました。
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ルーズからの忠告を受け、今回フィフスは瞬間移動を使わずに国門につきました。
あれだけの爆発を起こしたことに一行はノギの剣のさらなる強化の影響と思っていましたが、現場につくとそこには、そのことの上に別の原因があったことを知りました。
「おいおい、こいつは・・・」
彼らの目の前には、ノギの家に雇われた私兵団がいたのです。しかし彼らが驚いたのはそれではありませんでした。
「ケケ・・・ 来ましたぜ。」
「さあ、ボコボコにする時間よ。」
そこには、堂々とした出で立ちのノギを中心に、そのサイドには二体の魔人がいたのです。
「魔人!? 何で・・・」
「動揺するなグレシア。作戦が乱れる。」
「ウッ・・・」
そんな相手に対し、フィフス立ちの作戦は・・・
「てめえら~!! 動くんじゃねえ!!! 」
国門にやって来た彼らは、セカンドを除いて全員相手の軍団にメンチを切っていました。
「オラオラ!!」
「この人間がどうなっても良いのかあ!!? あぁ!!」
後ろに引き連れてきた口を布で塞がれた平次を前に出して人質にするというものでした。
『結局こうなるのかよーーーーーーーーーーーーー!!!!』
<魔王国気まぐれ情報屋>
ノギの家元、「ゼルペット家」は、この世界の人間側の国の中でも有数の名家です。しかし、その裏には何かしらのマズい商売も含まれています。