第43話 塔の上の修道女
瓜はその後サードの部屋には戻らず、自分でも分からないまま当てのなくふらふらと歩いています。
いつの間にか脇の扉から城を出ていた彼女はだだっ広い庭にて迷子になっていました。
「あ、あれ!? ここ、どこでしょう・・・」
彼女自身は今になって気付いたようです。
『マズいです・・・ ここからどうやって帰れば良いのか分かりません・・・』
流石に焦った瓜だが、すぐに悪い意味で気を落ち着かせた。もやついていたことがここにもぶり返してきたのです。
『帰って・・・ 良いんでしょうか・・・』
瓜は今までのフィフスに対する自分の行いを振り返っていました。
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「お前、とんでもないことしてくれたな~・・・」
「だから、お前の願いを叶えてやるっつてんだ!! コミュ障女にまともな友達、わんさか作ってやるよ!!!」
「・・・ 当たり前だろ!! ったく・・・ 無事で良かった。」
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「・・・」
瓜は、このまま自分はもうフィフスに会わない方が良いと思っていました。
『フィフスさんは無理矢理召喚された日本から、ようやく自分の居場所に帰ってこれたんです。これ以上、私は迷惑をかけてはいけません・・・
・・・ そうです! このままいなくなった方が彼のためですよね・・・』
瓜は自問自答を繰り返し、結局城に帰ることを諦めてしまいました。
瓜はそのまま進んでいくと、城の塀の下の地面に違和感のある芝生を見つけました。足で振るとそれは外れ、手作り感のある抜け穴がありました。
「何でこんな所に穴が・・・」
なぜそんな物があるのか気になったが、彼女はこれでいいと思い、彼女はそこから城を抜け出しました。
「これで・・・ 良かったんですよね・・・」
瓜がボソッと呟いた。そしてそこからまた歩き出します。するとそこで彼女は背中に違和感を感じた。何かが張り付いているような感覚があったのです。
『な、何でしょう・・・ まさか、誰か来たのですか!?』
瓜は後ろを振り返るが誰もいませんでした。未だに違和感があったのでまさかと思い背中に手を伸ばしてみました。
するとその手が毛玉のようなふわふわした物体に触れます。掴める大きさだったので張り付いていたそれを取ってみます。すると・・・
パチパチ・・・
「ユニーさん?」
瓜は何度か瞬きして確かめたが、それは見つかったことで大量に汗をかいて硬直していたユニーでした。
『ど、どうしてここに?』
ユニーはどうやらフィフスの部屋で様子がおかしかった瓜が心配になって彼に言わずに勝手についてきたようです。しゃべれないので瓜には聞こえていませんが・・・
瓜は勢いで怪我をしないように気をつけながらユニーを地面に置きました。そして
「ゆ、ユニーさん・・・ ついてこないでくださいね・・・」
しばらくそこから瓜はまた歩いて行って振り返ってみると、ユニーとの距離が全く離れてなかった。むしろ少し近づいています。
「・・・」
瓜は冷や汗をかき、また置いていこうかとも考えましたが、ユニーのような体の小さな動物がこんな所で一匹でいればそれこそ危ないと思い、結局肩に乗せて引き連れていく事になりました。
瓜とユニーはそのまま城の後ろへと進んでいくと、大きな木がおうおうと茂った広い森林に入った。日も暗くなっていき、とりあえずどこか寝床がないかと再び探し歩く羽目になっていました。
というのも、瓜は勢いで飛び出したこともあって手荷物は何にも無かったのだ。木の下で寝るにしてもこの季節ではかなり寒いです。
結局途方に暮れていると、ユニーがそんな自分を励ましてくれる。これは自業自得なのに心配してくれることに感謝を感じていると、ユニーを見た先の方向に瓜は小さな光が見えました。
『? 何でこんな所に光が・・・』
瓜は興味本位でその光に向かっていった。するとある地点で木だらけの空間から出て、開けた草原に来ていた。更にそこには、中心に大きな柱のようなものが見える。光はその上から差していました。
「・・・」
瓜がなんとなく光の方へと見上げてみると、大きな丸い建物のようなものが見えた。どうやらこの柱は大きな塔のようでした。
「・・・塔?」
ユニーは白目をむいてどこかビビっているが、瓜はそれに気付かずに発見した塔の入り口に吸い込まれるかのように入っていきました。
塔の中には先の見えない長い階段が続いていた。しかしどういう訳か瓜は全く疲れることがなくその階段を坦々と上っていきます。
いつの間にか瓜はユニーを肩に乗せたまま長々とあった階段を上りきってしまっていた。そこには一つの殺風景な部屋が広がり、その中心には、場所に置いては全くもって不自然な井戸があった。瓜の見た光はそこから発生しています。
『なんだか・・・ 綺麗ですね・・・』
瓜はどこか意識が半分飛んだ状態でその場に近づいていく。ユニーはその様子におかしいと感じて肩を叩いて止めようとしましたが、力が無いために効果はありませんでした。
彼の努力もむなしく、瓜が井戸の光に触れかけたそのとき・・・
「止まりなさい!!!」
唐突に後ろから聞こえた怒声に瓜は我に返りました。
「あれ? 私・・・ 何を・・・」
瓜が再び前方を見ると、井戸の中には一切の光などなく、何も見えないがその周りにいるだけで瓜は気分が悪くなりました。
「うぅ!? な、何ですか! これ・・・」
瓜が謎の圧に引いていると、再び後ろから声が聞こえてきました。
「そこから下がれ。出なければ死ぬぞ!!」
なんだかわかんないが、瓜はその指示に従って井戸から下がる。するとさっきとは打って変わって彼女の気分が落ち着きました。
『な、何だったんでしょう・・・ 今の・・・』
「残念だが、お前の臨む物はここにはないぞ。引き返せ。」
瓜は声の方へと振り返ると、そこには日本で言う巫女のような姿をした綺麗な女性の魔人がきつい目をし、矢をはめた弓を引いて立っていました。
彼女は片目が髪で隠され、肌の色は人間に近い色をしていました。しかしもう片方の目の上には立派な角が生えており、魔人であることは明らかでした。
『ヒィーーーー!! 』
「あ、あなたは?・・・」
「私はこの穴の闇を封じ続ける修道女だ。」
「や、闇?」
女は更に強く弓を引き、再び瓜に聞きます。
「もう一度聞く。お前の臨む物はここにはない。分かったなら早く立ち去れ。」
「の、臨む物!?・・・」
『ア! ここで泊まってはいけないって事でしょうか・・・』
「す、スミマセン!! か、帰り・・・ ますので・・・」
修道女は瓜のあたふたしている様子に違和感を感じました。そこで一つ聞いてみました。
「お前、ここに何しに来た?」
「や・・・ 宿を・・・ 借りに・・・」
瓜の言い回しからその事が真実であることを修道女は悟ったようです。
「そうか・・・ それはすまなかった。」
修道女は引いた弓を戻し、戦闘態勢を崩しました。
「しかしこんな所に宿を借りに来たとはまた珍しいな。国の奥底だぞ・・・ ッン?」
そのとき、修道女は瓜の右肩に乗っかっていたユニーに目がいきます。
『あのユニコーンは・・・ そういうことか。』
「ここは客人を泊める場所ではないのだが・・・」
瓜はそれを聞いて申し訳なさそうにし、塔を出ようかと思いました。しかしさっきの台詞の後すぐに、どういう訳か小さな溜め息を息を吐き、次のことを言いました。
「布団くらいなら用意してやろう。一晩だけならここにいて良いぞ。」
「え・・・ 良いん、ですか?」
「今日はもう遅いし、外に出ると野生の魔獣がたむろしているからな。」
『や、野生の魔獣!?』
瓜がビクつくが、修道女はクールにそらして瓜よりも前に来ます。
「さあ、そうと決まったら奥に進むといい。粗末だが寝床があるぞ。」
瓜は言われたとおりに部屋に向かった。さっきからユニーが固まっていた事を気にしましたが、その理由には気付きませんでした。
「・・・ 変な縁もあるものだな。」
そう口をこぼすと、修道女は正座をして穴を見て何かを始めました。
<魔王国気まぐれ情報屋>
・塔の中でのユニー
どういう訳かガクブルに震え続け、いつしか置物のようにカチコチに固まって動かなくなってしまった。
瓜 『ま、瞬きすらすら一切しませんね・・・』