第39話 新たな侵入者
時を同じくして、魔王国の国境付近の森林の中・・・
ザッ・・・ ザッ・・・
国境警備をしている魔人二人の目の前に、一人の男が堂々と歩いてきた。
「ん? 人間?」
「貴様!! そこで止まれ!! ここから先はわれら魔人の管轄だぞ!!」
忠告を受けても男は一切足を止めない。
「もう一度言う。今すぐ止まれ!! 聞かぬなら実力行使に移る!!」
しかしそれでも彼は歩き続ける。しびれを切らした二人はとうとう前に出た。
「捕まえろーーー!!」
すると男は待っていたかのように不気味に笑い、その手に持った剣を振るった。
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前回異世界にて再会し、全回復した平次も交えて四人はテーブルの椅子に座った。ユニーはテーブルの中心に立ち、話をしている人の方向に逐一向いていった。
ふとグレシアは聞いた。
「で、結局アンタ何しに来たの?」
「要件は二つだ。」
フィフスは腰に差した剣を鞘ごと抜いて二人に見せた。
「一つはこの剣について。」
「そのまなくらの? 今更どうして?」
「それが実はよ・・・」
フィフスは経緯を説明した。瓜も全容を聞くのは初めてだったので、その事に一番衝撃を受けていた。だが、一番発狂したのは予想道理、平次だった。
血管が浮き出るほどの怒り顔で平次は横のフィフスの胸ぐらを思いっ切り掴んで怒鳴った。
「きーーーーーーーさーーーーーーーーまーーーーーーー!!!!!!
万死だ!! こいつに徹底的な苦しみをとことん与えないといけないぞ!! いいやそれだけ絵はもうとう足りない!! 首吊り! ギロチン! 五右衛門ぶろ!! ありとあらゆる苦痛を与えなくては気が済まなーーーーーーーーい!!!
必殺!! スーパーインファイト!!!!」
平次は目を光らせて腕の筋肉を膨張させ、フィフスに向かって真正面に殴り掛かった。
一分後・・・
フィフスは手を払って顔がたんこぶだらけになった平次を部屋の隅に放り出し、残った二人と話を続けた。
「まさかそんなことが起こるなんてね・・・」
「俺だって信じらんねえよ。 でも起こったことは事実だ。」
二人が会話している中、瓜はうつむいて無言になっていた。その様子に空気を読んだ二人は話題を変えた。
「それで、もう一つの要件だが・・・」
「大体察しが付くわ。制限のことでしょ。」
フィフスはコクリとうなずく。
「やっぱりお前もか。どうしてかは知らんが、この世界に戻ってから契約の制限が消えてやがる。」
「アタシも夜になって魔力がなくならなかったことには驚いたわ。ママに聞いた話だと、契約者の地の利がどうとか言ってたけど・・・」
「すなわち、瓜たちがここに来たこと自体が原因ってか。なんかざっくりしていていまいちピンと来ねえな。」
「アタシに言われても~・・・」
二人がどうにも歯がゆい感じで話をしていると、そこに窓からコツコツと叩く音が聞こえて来た。聞こえた三人が窓を見ると、この前にサードの屋敷にも現れた鳥が窓枠に足を止めて窓をくちばしで
叩いていた。
「伝書鳥? ママにかしら?」
グレしアは窓を開けて鳥の足についていた手紙を取り、広げた。すると手紙の内容を見た彼女は目を丸くした。そしてフィフスに近づき、彼に手紙を渡した。
「ルーズから。アンタによ。」
「俺に? 何があった・・・」
フィフスは顔をしかめて受け取り、手紙の内容を見た。
「・・・ ユニー、ここに残って瓜を頼む。」
突如フィフスの言った台詞に瓜は戸惑った。対してユニーは何かを感じたのか身構えた。
『フィフスさん。一体何が・・・』
「悪い、急用が出来た。失礼する。」
そう言うとフィフスはグレシアにアイコンタクトをし、彼女はそれに頷く。それから二人は店を飛び出していった。
『何があったんでしょう・・・』
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店を出てからフィフスの瞬間移動を利用し、二人は手紙で指定された魔王国の国門にたどり着いた。
「これは・・・」
「瓜は連れて来なくて正解だったな・・・」
二人が見たのは、正面から巨大な穴が開けられた国門と、警備の兵達は全員無残に殺されていた情景だった。
「しっかし・・・ 今となっては珍しいな。こうも真正面からせめてくるのは・・・」
「最近じゃめっきりなかったもんねえ。しかもこれ、」
グレシアが被害者の遺体をいくつか見ると、それぞれが明らかに違う技に対策が出来ずにやられている様子だ。
「相手は複数体いる。急いで対処しないとやばそう。」
「・・・」
フィフスは無言で遺体を見ている。何かもやついている様子だ。
「どうしたの?」
「いや、親父を狙って来たなら、こんなことするか?」
「は?」
「国の長である親父の首を狙うんなら、今までの奴らのように壁の亀裂から入った方がよっぽど効率が良いはずだ。わざわざこんな演出はいらねえだろ。」
「言われてみれば、確かに・・・」
フィフスは立ち止まって考え込んだ。グレシアはせめてもと遺体に祈りを捧げた。すると・・・
ヒュンッ!!
そのグレシアに向かって突如斬撃が飛び出してきた。
「グレシア!!」
「エッ・・・」
気付いたフィフスは彼女の体を押し倒し、間一髪で回避した。地面に倒れ込み、フィフスはグレシアの顔を至近距離で見ながら生存確認を取った。
「大丈夫か!?」
「ナッ!・・・ ナアッ!!?・・・」
グレシアは途端に顔が真っ赤になった。
「ワァーーーーーーーーーーーーー!!!」
そして訳も分からず起き上がるのと同時にフィフスを突きで吹っ飛ばした。
「ウゴッ!!・・・」
フィフスの吹っ飛ぶ勢いは壊れた門の端の部分に当たってようやく止まった。
「助けたのに何すんだてめえ・・・」
「う、うっさい!! このスケベ! 変態!! ムッツリ!!! ○○ ○○!!!!」
「最後に至っては絶対言っちゃダメだろ! それより・・・」
ザ・・・ ザ・・・
一度沈黙した二人はそこで、一人の草むらを歩く足音が聞こえてきた。
「どうやらこっちに来させることが目的だったようだな。」
フィフスは火炎刀を構える。対してグレシアは素手のままだった。
「お前、杖は?」
「無いわよ。向こうの世界において来ちゃったの!」
「アア!? じゃあ今丸腰って事かよ!!」
今となって状況が悪いことに気付いたフィフスだったが、当然相手は待つことなどせずその場に姿を現した。
「お! いきなり目的がご登場か。これは幸先が良い。」
その男は、二人より四、五歳程年上のどこかのっぺりした重装甲の勇者だった。後、鼻が突き出て長い。だが二人が目を見張ったのはそこではなかった。男もそれに気付いたようだ。
「ん、これか? さっき手に入れてよ。中々かっこいいだろ。」
その手に持っていたのは、国門警備の獣人の生首だった。それにグレシアは吐き気を覚え、すぐに両手で口を塞いだ。
「あ~、でもやっぱキモいし・・・ い~らね。」
そう言って男は生首を軽く放り投げ、そして二人を煽るかのようにそれを己の足で踏みつけた。
「どうだこのポーズ、中々決まってるだろ?」
フィフスは挑発には乗らなかったが、怒りの眼差しで彼を見た。
「お前、何者だ?」
その台詞を聞いた彼はどこかショックを受けた顔になった。
「おいおい、覚えてないのか? あ! それとも忘れたいのか~ 俺の存在を・・・」
「? どういうことだ?」
男は二イッと笑い、こんなことを言い出した。
「忘れたなら思い出させてやろう。俺は、伝説の勇者 『ノギ』 !!
かつて獄炎鬼、貴様を倒した英雄だ!!!」
「「ハァッ!!!?」」
二人は口を揃えて叫んだ。
<魔王国気まぐれ情報屋>
・スーパーインファイト
平次が即興で作りだした必殺奥義。相手の胸ぐらを掴んで拘束し、そこに本気の怒りの鉄拳をこれでもかという程叩き込む技。
・・・技名、説明に反して威力はほぼ無い。