第38話 師匠の家
『行く当てのない魔人の集落・・・ とは・・・』
「お前の言った通りのことだ。」
「エッ・・・」
「人間は昔っから、魔人を悪だと思い込んでいる。そうして俺らの祖先は一方的に差別され、人間社会に住む場所がなくなっちまったんだ。
そこで住む場所がないなら作っちまおうと画策したのが、俺の先祖の鬼一族だ。」
『そうして鬼が魔王となり、出来た国・・・ と言うことでしょうか。』
「当然そのためにまた争いが起こっちまったがな。それに、過去の因縁で人間を恨んでいる魔人も、今だ多いのは事実だ。」
瓜はテレパシーで伝えず心で思った。
『だから、昨日の兵士さん達はあんなことを・・・
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「それが人間なんだよ。アイツらは俺たちのことを『化け物』呼ばわりするけどな。実際はどっちが化け物だってんだか。」
「ああもう、ホント人間なんて滅べばいいのにな!!」
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・・・本当に、私はこの国にいて良いんでしょうか・・・』
言葉にはしていなかったが、瓜はそのとき暗い表情になったことでフィフスに少し感づかれていた。雰囲気が重くなってしまったので、フィフスは頭をかいて話を変えた。
「さて、それなりに時間もたっちまったし、そろそろ俺の方の用事を済ませるか。」
『そういえば、その用事とは?』
「剣のことについて聞きに行く。」
『ど、どこにですか?』
「師匠の家にだ。」
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町のお店を次々と突っ切り、一行はただただ歩いて行った。瓜は今から会おうという人に絶賛緊張中である。
『フィフスさんのお師匠さん。これまでも何度か聞いてましたが、一体どんな方なんだろう・・・』
『分かりやすく固まってやがるなこいつ・・・』
そうしてしばらくし、町の離れに出たところでフィフスは足を止めた。
「ついたぞ。」
そう聞いて瓜がフィフスが首振りで指し示す建物を見た。そこは何というか・・・ こぢんまりとしたスイーツ店だった。
『な、何というか・・・』
「ぱっとしない店だな・・・ だろ?」
ギクッ!!?
瓜は心を見透かされた事に冷や汗をかいた。フィフスはケラケラ笑っている。
「ハハハ・・・ まあ実際、そっちの世界で言う『映え』はこの店には存在しないからな。その分中身で勝負って事だ。」
瓜はそのとき疑問をいくつか感じました。
『あの、フィフスさんって王子なんですよね。』
「それが何でこんなへんぴな場所の稽古を受けたかだろ?」
『さっきから先読みしすぎじゃないですか!?』
「大体想像がついたからな・・・ ま、実際似合った方が早いだろ。」
そしてフィフスは少し前に進んでいき、扉のドアノブに手をかけて腕を引きました。
「どうも~ お久しぶりです、師匠・・・」
フィフスは何の気なしに、瓜は緊張を更に感じながら店の中に入ります。しかし・・・
「「・・・!?」」
「あらフィフス、何かよう?」
二人が店には行って初めに見たのは、客用のテーブルで店のケーキをモグモグ食べているグレシアでした。
「グレシア!?」
「志歌さん!?」
驚く二人、対して新聞で事を知っていたためにさしてリアクションもないグレシア。当然フィフスは次にこう言いました。
「何でお前までここにいるんだ?」
「自分の家でくつろいで悪い?」
「そこじゃねえよ。」
『自分の家!? じゃあここが志歌さんの・・・』
瓜がもしやと思うと、フィフスが説明します。
「ああ、グレシアは師匠の娘なんだ。それで、あの人は?」
「ママなら現在外出中よ。しばらく帰って来ないわ。」
フィフスにお構いなしにお菓子を食べ続けていた彼女だが、奥からヒョッコリと出て来た瓜を見て手を止めたそして席から立ち上がりました。
「瓜!! やっぱりアンタも来ちゃったの!?」
「え・・・ あ・・・ はい・・・」
グレシアはフィフスを放って瓜の方へと駆け寄っていきます。
「大丈夫!? この世界で危険な目に遭わなかった? やっぱりこいつに変なことされたんでしょ!!」
「どうしてそうなる。」
グレシアはフィフスの反応に苛立ち、部屋の奥に入った。そしてすぐにある物を取って戻ってきた。
「これはどういうことよ!!?」
彼女は叫びながらそれをテーブルに叩きつける。二人が見ようと近づくと、それは今日の新聞だった。一面には、昨日のパーティーのこと、そしてフィフスと瓜の婚約について書かれていた。
『あわわわわわ!!・・・』
「ああ・・・ こいつは・・・」
グレシアはどんどん機嫌が悪くなる。
「アンタ! 何が目的か知らないけど、アタシの友達にこんなことさせるなんて・・・」
「ち、違います!! それは・・・」
珍しく叫んだ瓜の声にグレシアは動きを止めた。しかしここではメールが使えないこともあってそこからはゴニョゴニョ声で聞こえなかった。仕方がないのでフィフスが事の一旦を説明した。
「は~・・・ こっちに戻ってすぐにそんなことが・・・」
「色々大変だったんだよ! 特に姉貴の対応にな・・・」
次にフィフスは聞き返す。
「それで、お前どうやってここに来た?」
「アタシにもわかんないわよ!!」
そこからグレシアは事の一端を説明した。
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それは化けゴウモリの騒動が終わった直後のとき。止まったバスの中にいた女子はグレシアを含めて次々と目が覚めていた。
しかしこの中で男が平次しかいなかったがために、終わって早々被害者のほとんどから犯人に疑われてしまっていたのだ。当然本人は必死で弁解する。
「いや俺は!! この暴走したバスを止めただけで!!」
ヒソヒソ・・・ ヒソヒソ・・・ ヒソヒソ・・・
ヒソヒソ・・・ ヒソヒソ・・・ ヒソヒソ・・・
変に叫んだことで余計疑われてしまっている。頭から血が出ていることも誰も心配してくれない。
更にそこに間の悪いことになった。バスが運河の中で凍って止まっているという異常光景に野次馬が集まってきたのだ。だがそこに来たのは、それだけではなかった。
ガタガタガタガタガタガタガタガタ!!!
野次馬よりも先に、機動隊の男達が運河の周りを取り囲んだのだ。窓からそれを見た女子達はパニックになった。
「やばい何あれ!!?」
「このメガネ捕まえに来たの!!?」
「いやそれにしちゃ人多くない!!?」
そんな中でグレシアは窓を開けて外の音が聞こえるようにした。すると耳を疑うワードが聞こえた。
「魔人はまだこの中か?」
「そう遠くへは行っていないはず、まずはバスから調査すべきかと。」
『まさか、アイツらの狙いは・・・ アタシ!?』
しかし今逃げれば余計疑われてしまう。その場を動けずに考え込んでいた所に、救いの手は突然現れました。
パーーーー・・・
「ウワッ!!?」
「ウオッ!!?」
二人は突然バスの床に出現した魔法陣にグレシアと平次は同時に吸い込まれていったのだ。
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「で、この世界に来ちゃった訳。ただ焦ったってどうにもならないから、実家に戻ったってこと。」
「それで、メガネは?」
「ご安心を、あそこにいるわ。」
二人がグレシアの指さす方を見ると、その周囲にはどんよりとした暗いオーラが充満していた。壁に隠れて見えなかったので向かうと、おーらの中心に参画座りの平次がいた。
「あ、いた。」
『何があったんでしょうか・・・』
瓜が心配そうに見ていたので、グレシアは話した。
「さっきの新聞よ。それで分かりやすく絶望しちゃって・・・」
「スゲ~・・・ ぴくりとも動かねえ・・・ オイ瓜、お前声かけて来いよ。」
『わ、私がですか!?』
「確かにありね。このままじゃらちあかないし。」
瓜は傷心しきっている平次にそおっと近づく。そして例のごとくの小声で名を呼んだ。
「あ、あの・・・ 石導君。」
「・・・」
そのとき、不思議なことが起こった。絶対に動かないとされていた、彼の体がピクッと動いたのである。そして・・・
「声が・・・ 声が聞こえる。
俺を呼んでくれる・・・ 彼女の・・・ 天使の声。」
ついさっきまでの闇のオーラが消え去り、光り輝く白いオーラが彼の体からあふれ出したのだ。瓜はビックリして焦る。
「だ・・・ 大丈夫ですか!?」
「アイツ更に重症になってねえか?」
「そろそろ末期ね。」
二人の冷めた会話などお構いなしに、男は勇気を振り絞り、立ち上がった。愛する彼女の声を聞きつけて・・・ ただ・・・ 一人の女のために・・・
「さっきから何なのこのナレーション。」
「無駄にヒーローっぽくすんな。ここ全然重要なシーンじゃないから。」
え、そうですか? でも雰囲気は大事ですし・・・
「せめてもっとシリアスな場面で使えその技量。」
「てかアタシ達何で当たり前のようにナレーションと会話出来てるのかしら。」
その事には突っ込まないでください!!
え~・・・ コホンッ!! 調子が狂ったので、続きは次回に!!
「「勝手に切るな!!!」」
<魔王国気まぐれ情報屋>
グレシアはフィフスの師匠の拾い子です。そのことからフィフスはグレシアの弟弟子に当たる訳なのですが、初対面の頃から今の態度で通されています。
グレシア「先輩には敬語を使えっての!!」