第2話 マッチ売りの孤独な少女
これは、フィフスがこの世界に来る十年ほど前のお話・・・
「こうして桃太郎は悪い鬼を退治し、お爺さんやお婆さんとともに幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし・・・」
ある静かな部屋のベッドの上で小さな少女が、母親に絵本を読んでもらっていました。普通なら聞いている途中に子供は眠くなってしまうものですが、この子はそうではありませんでした。
とある一つのことが気になっていたのです。
「ねえ、お母さん・・・」
「ん? なあに。」
「この鬼さんはどうなるの?」
「? どういうこと?」
「鬼さんも、幸せなれたの?」
その子は桃太郎の活躍ではなく、敵である鬼の心配をしていたのです。
「鬼はみんなに悪いことしちゃったから、しかたないのよ。」
「でも鬼さん、いじめられてかわいそう・・・」
その子はいつもこの調子でした。物語の読み聞かせをすると、なぜかいつも、鬼や魔女、狼のような懲らしめられる悪役のことをかわいそうと言い出すのです。
「そお、あなたは誰にでもやさしい子ね。もしかしたら、あなたなら鬼さんとお友達になれるかもしれないわね。」
母親の何気ない言葉に隣の少女は笑顔で答えた。
「うん、わたし、鬼さんとお友達になる~・・・」
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ジリジリジリジリジリジリジリジリ!!!
「ハッ!? 」
そんな小さな頃の夢を見ていた少女、<町田 瓜>は、大きな目覚ましの音と共に目を覚ましました。
彼女は現在十六歳の女子高校生。父子家庭に育つ一人娘です。その上、父は仕事の都合上家を空けることが多かったので、実質彼女は一軒家で独り暮らしをしていました。
彼女は朝の支度を済まして仏壇に手を合わせます。
「お母さん・・・ 行ってきます。」
そして彼女は鞄を右肩にかけ、扉を開けて学校にへと駆けだしました。
・・・顔に丸めがねとマスクをつけながら・・・
多少急ぎ足で電車に駆け乗り、窓の外からマンションの上にある巨大なモニターに流れるCMを見ていました。
「都市開発、ファッション、グルメ・・・ 様々なジャンルであなたの幸せをサポートします。
今より楽しい世界へ・・・ <エデンコーポレーション> 」
そうしてしばらくボ~ッとしていますと、すぐに時間がたち、瓜は電車をまた駆け足で降りて走りました。しかし、学校に近くなり人が集まってきますと、さっきまでのはどこへやら彼女はトボトボと歩き出します。
そう、彼女は見ての通りのコミュ障なのだったのです。
『う~、いつもならこの時間はまだ人が少ないのに。 盲点でした。』
周りにいるほかの生徒達が気軽に挨拶をし、一緒に教室へと向かうのに対して瓜はただ黙り込んで静かに教室に入りました。
「はぁ、今日は朝からむなしかったです。」
「お~い瓜~、」
「は、ハイ!?」
こんな彼女だが友達がいない訳ではありません。クラスメイトの二人ほどと仲良くやってはいるのです。
「何よ、朝っぱらからしょげて。」
「テンションあげてこ~よ~、ね~」
「そ、そうですよね、ははは・・・」
ただし・・・
「それよりさ~、最近どうしても欲しいグッツがあってさ~ちょ~かわいいのよ~」
「へ~どんなやつ?」
その女はもう一人に画像を見せました。
「やば、めっちゃ映えてんじゃん!!」
「あ、あの、私にも・・・」
「でもさ~、今月使いすぎて金ないのよね~」
「え~、じゃあむりじゃん。」
「は、は~・・・」
そして彼女はこう言いました。
「ねえ瓜、またお金貸してくんない。お願い!!」
「え、でもこの間のものまだ返しては・・・」
「まとめて払うから・・・」
「しかし・・・」
「いいじゃん、私達友達でしょ?」
瓜はこの言葉に前から弱かった。その結果いつも彼女は損をしているのでした。その日もなんだかんだで、放課後瓜はおごってしまいました。
「サンキュー、瓜~。」
「は、はい・・・」
その後三人は適当な場所でお茶をして、そうしてすぐに分かれました。お茶をしている最中でも、残りの二人の方で勝手に盛り上がり、瓜は蚊帳の外になっていました。
「・・・ また話に入れなかったなぁ・・・」
瓜はそそくさと誰も待っていない自宅へと帰りました。
「ただいまです・・・」
家に入り、夕食の用意をしますと、それを食べようとしたタイミングに電話がかかってきました。
「もしもし、町田です・・・」
「やあ、瓜ちゃん、パパだよ~」
「お父さん!! あ、もしかして来週のこと? どこに行く、私はやっぱり・・・」
「ごめん、その日帰れなくなった。」
「・・・」
「すまない、埋め合わせはするから。」
「ああ、うん。いいよ。お仕事頑張ってね、私は大丈夫ですから・・・」
ガチャ・・・
瓜は無意識に作り笑顔になって受話器を置きました。
「そう、しかたないよね・・・」
彼女はその後寂しく作った夕飯を一人で食べ終わり、もやついた気持ちのままその日は眠りにつきました。
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翌日、十二月二十四日のクリスマスイブ。その日は友人二人と共にお店で晩ご飯を一緒に食べに行く予定になっていました。しかし瓜は浮かない顔でした。うつむいて起きる彼女でしたが・・・
「・・・ いけません!! きょ、今日は楽しまないといけませんね、そうですよね。」
そう自分に言い聞かせて瓜は家を出ました。しっかりめがねとマスクをして・・・
瓜は内心心配になっていました。友人とは言ってはいるものの、いつも何かと金をせびられ、遊びに行くと二人の親しさに入ることもできず、結局一人でいました。
瓜は孤独が嫌いでした。小さい頃から友達がいなかった。元々引っ込み思案ではありましたが、何より他の人と違う変な思考をしていたからでした。
周りとヒーローごっこをすると率先して悪役をやり、尚かつやられると泣いていたのです。そんなことをし続けたことで、いつの間にか彼女はイジメにあい、自分を塞ぎこんでしまうようになってしまったのです。
瓜は今いる友達に少し不信を抱いていました。だが、それでも一緒にいたいと思っています。こんな自分に声をかけてくれた優しい人だから・・・
ですが、その日会って瓜が言われたのは・・・
「ごめん、用事が入っていけなくなっちゃった。」
「で、でも・・・ もう予約しちゃったし・・・ 今日は、大丈夫だって・・・」
「いやまじでごめん、弟が怪我しちゃって面倒見ないといけなくて・・・」
「うちも、妹が・・・ 」
「え、でも二人とも兄弟は・・・」
瓜は違和感を感じました。しかし・・・
「いいじゃん、友達でしょ?」
「え、ああ・・・ 」
「友達なら、許してくれるよね。」
そう言われて瓜は無言で首を縦に振ります。そのこともあって結局その日も瓜はひとりぼっちになりました。
休み時間も話しかけられず、放課後になって家に帰りますと、瓜はまた無言になって荷物を片付け私服に着替えました。クリスマスイブなのでせめてケーキだけでも買ってこようと思ったからである。
先に晩ご飯の支度をして外に出ました。記念日と言うことで豪勢にしてみると意外と時間がかかってしまい、外はすっかり暗くなっていました。
それを見て少し焦った瓜が巷で流行りのケーキ屋へと行き、少しお高めの小さなケーキを買い終わって家に帰ろうとしますと、ふととあるレストランの前で立ち止まりました。そこには、瓜が今最も見たくない光景が広がっていました。
「ね~、次何食べる~?」
「やっぱクリスマスだしチキンからじゃな~い。ね~。」
「おう、それいいな~」
そのレストランの中には今日瓜とのパーティーを断った友人二人と、その彼氏らしき人がクリスマスパーティーをやっている様子だった。
さすがのことに瓜はいてもたってもいられずに店に入りますと、四人の会話の内容が聞こえてきた。
「ねえ、ほんとに瓜を誘わなくてよかったの?」
「別にいいでしょ、あいついたら盛り上がりにかけるし。」
「おいおい、友達に対してしつれいじゃね~のか?」
「大丈夫、あいつはただの金づるだし。」
「だ~よね~、いつもいろんな物買ってくれるし、なんか疑ってきたら「友達でしょ?」って言ったらすぐおごってくれるし。」
「お~、ひで、」
「むしろ感謝して欲しいわよ。あんなコミュ障の陰キャに毎日話しかけてやってんだから。」
「ま、それもそ~だね~」
その一連を聞いた瓜は店員がやってくる前に店を行きよいよく飛び出してしまい、泣きながら家まで走っていました。
そうして自宅に帰りますと、玄関で一人泣き続けていました。
「・・・ やっぱり・・・ 私は、ひとりぼっちなんだ・・・ 」
そこに、空気を読まないインターホンの音が鳴った。
「宅配便でーす。」
「は、はーい・・・」
瓜は流れていた涙を腕で拭い、扉を開けて荷物を受け取りました。
渡された荷物はどこか変でした。送り届け場所はここで合っていますが、差出人が不明だったのです。
「何だろう、これ・・・」
どうにかして気を紛らわせたかった瓜はその荷物の箱を開いてみました。
その中には一冊の本が入っていました。それなりの厚みがあり、表紙は赤い背景に金の枠があり、中心に見たことのない文字で、何かが書いてあります。そして少しぼろい・・・
「ただの本、だよね・・・」
気になった瓜が再び箱を見ますと、そこに一通の手紙も入っていました。彼女はそれを取って開いてみると、おそらく差出人からのメッセージが書いていました。
あなたに託します。願いを叶えてください。
「願いを・・・ 叶える・・・」
あきらかに普通に見たら怪しい文体でしたが、今の瓜には「願いを叶える」ということに興味がわいていました。
「これで私、一人じゃなくなるかな・・・」
瓜は本を手に持って、ページをめくってみます。しばらくパラパラとめくっていると、見開きで魔法陣が書かれたページを見つけました。もしやと思い瓜は右手をそこに置きます。
・・・しかし何も起こりません。ガッカリしかけた瓜でしたが、そのとき、昔母に読んでもらった「ランプの魔人」を思い出しました。
『もしかして、願いを言う・・・ とか・・・ 』
そう思った瓜は今度こそと珍しく大きな声で言ったのです。
「たくさんの友達が欲しい!!」
しばらく間があったが結局何も起こりません。そのことに瓜は深くため息をし、ボソッと呟きました。
「やっぱり、そんな夢みたいな話、あるわけ・・・ ないよね・・・」
瓜は本を床に置き、晩ご飯を食べるために動きだしたときでした・・・
カーーーーーーーーーーーーーーッ!!
ほっとらかした本が突然光り出したのです!! 瓜がビクッとなって振り返りますと、本に描かれていた魔法陣が空中に大きく投影されました。
「な、何ですか!?」
強い光に腕で目元を隠して動けずにいると、今度は強いショックと共に煙が発生し、部屋中に充満しました。
「ケホッ! ケホッ!! ・・・」
「ドベシャ!!」
『ドベシャ?』
時間がたって充満していた煙が晴れた。そこに瓜が目を開けて本の方を見ますと、そこには黒い角が生え、赤みがかった肌の少年が頭をかいていました・・・
<魔王国気まぐれ情報屋>
瓜のかけている眼鏡はアニメによくあるグルグル眼鏡です。瓜自身は気にしてませんが周りからはセンスがないと思われています。
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