第36話 魔王城地獄の湯
かくして魔王城のサードの部屋にまた入った二人。部屋に先に戻っていたキンズが軽くお辞儀をしてきた。
戻ってからもずっとしどろもどろしている瓜に、サードは優しく声をかけてきた。
「お疲れね、ウリーちゃん。」
「は、はあ~・・・」
変わらず瓜を喜ばせようと色々言うサード。後ろのキンズはその様子を見て瓜の気持ちを大体察し、ブレーキが壊れたサードの右肩に左手を置いて彼女を制止した。
「サドさん。もう止めて上げてください。」
「何よ! これからいいとこなのに!!」
「困惑されてますよ。これ以上嫌われたいのですか?」
そう言われて初めてサードはまともに瓜の顔を見た。困り顔になっている瓜に、サードは・・・
「キャーーーー!! ウリーちゃん困り顔もか~わ~い~い~!!」
『ダメだこの人。』
尚も反省せずに瓜に襲いかかろうとするサードに、キンズは手足を器用に使って羽交い締めにし、そのまま部屋の奥に連れ去っていった。
「さあて貴方はこっちですよ。少しは女の子の扱いを学んでください。」
「い~や~だ~!! 今夜は一晩中姉妹トークするのーーーーー!!」
「駄々をこねないでください。もうそういう歳じゃないでしょう。」
「あ!? 何か言った?」
入り口付近に立ち尽くしてほっとらかされている瓜。冷や汗をかきながら呆然としていると、奥の壁からキンズがヒョッコリと顔を出してこう言ってきた。
「すみませんウリーさん。しばらく取り込み中になるのでその間にお風呂にでも入ってきてください。部屋を出て左に曲がり、真っ直ぐ進むと突き当たりに大浴場があるので。」
「ちょっと!! それならアタシも!!・・・」
そのとき壁からサードの手が見えたが、すぐに押し戻され、代わりにキンズはタオルと替えの服、そして桶を放り投げた。瓜がそれをナイスキャッチする。
「幸いもう遅いので、ゆっくり入れると思いますよ。では。」
コメントを言い残すと、キンズは顔を戻した。最早愛想笑いをしている瓜だったが、実際かなり疲れていたので彼女の言う大浴場でくつろぐことにした。
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言われた通りに廊下を進み、脱衣所までたどり着いた瓜。確かに言われたように人影は見当たらず、ほっと息をついて着ていた服を脱ぎ、奥の扉を開けて大浴場に入った。そこは湯煙で見えずらかったが、それでも豪華銭湯顔負けなほどの広い浴槽だ見えた。
「わ~・・・ 凄い。」
瓜はすぐ近くのシャワーで体を洗い、どこかワクワクしながら浴槽に片足の指先を付けた。いつものお風呂とはどこか違う感触に新鮮味を感じながらゆっくりと全身をつからせる。中々入れないような温泉に、すぐに彼女の心はほぐれていった。
「は~・・・ 気持ちいいです~・・・」
温泉内でいつの間にか自然と笑顔になっている瓜。肩の力も抜け、スッカリリラックス状態だ。ふと瓜は広い温泉がどこまで行けるのかが気になった。
そこで彼女は今の浴槽をしばらく堪能して一度出た。そして更に奥まで進んでいくと、その先に夜景の見える露天風呂を発見した。
「わ~!!・・・」
早速その中に入ろうと瓜は足を伸ばした。そこに、湯煙の中から声が聞こえてきた。
「あらウリーさん。こんな所で偶然ですね。」
誰だと思い瓜がその方向に進むと、そこには先に露天風呂に入ってくつろいでいるセカンドがいた。当たり前かのように豊かなものが水面に浮いている。
「え、エベレスト山・・・」
「エベ、何と?」
「あれ、聞こえてました? って、あれ? 今も!!」
瓜は自分がベラベラしゃべっていることに驚いている。その様子にセカンドはクスクス笑っている。
「フフッ、ここの温泉の効能ですね。」
「温泉の効能?」
「この温泉に入ると、全身のありとあらゆるこりが取れるんですよ。」
「コミュ障って、こりじゃないような・・・」
頭に思った事をしゃべってしまうことにどうにかしようと口を咄嗟に塞いだが、意味もなく口は勝手に動き出し、結果モゴモゴと言っている。すると、横で楽しそうに見ていたセカンドがふと会話を持ちかけた。
「先程フィフスから聞きました。何でも異世界からやって来たとか。」
「え、あぁはい・・・」
瓜はそう言いながら手を離した。
「いきなりこんなヘンテコな世界に来て大変でしたね。お悔やみ申し上げます。」
「い、いえ・・・ 私こそ、弟さんを誘拐して・・・」
「フフフ・・・ 別に構いませんよ。」
「え、でも・・・」
「フィフスがいなくなるのは、日常茶飯事でしたのでね。」
「日常茶飯事!?」
瓜は驚いて珍しく大声を出した。
「そうなのですよ!! 彼はいつも城を勝手に抜け出していたんです。それで毎回彼の執事が探していましたね・・・」
「そ、それはまた大変でしたね・・・」
「流石に一ヶ月間は初めてでしたが、これまでのことで耐性がついてあまり驚きませんでしたわ。」
「ハ、ハハ・・・ そうなんですか。」
そこから先は、現在の瓜の状況も相まって非常に会話が弾んだ。静かな夜での露天風呂の中、あっという間に時間は過ぎていき、そろそろのぼせかけてきた。
「フ~・・・ そろそろ暑くなってきたところですし、私はお暇しましょうかね。」
セカンドはそこから立ち上がった。さっきまでは風呂のお湯に隠されて見えなかった見事な体のラインがハッキリと見えた。
「ボンッ! キュッ! ボンッ! ですぅ・・・」
「?」
小声だったのでセカンドに今の言葉は幸い聞こえていなかった。
「ウリーちゃんもそろそろ上がった方がいいですよ。それでは~・・・」
セカンドは露天風呂から去って行った。それから瓜は最後に最初に入った温泉に浸かって上がることにした。
「フ~・・・ 百数えましたし私も上がりましょうかね。」
そのときの脱衣所から一人の影が近づいてきた。瓜は形からサードだと思い特に気にしていなかったので、浴槽から立ち上がった。そしてそれと同時に脱衣所の扉が開いた。
ガラガラガラガラ・・・
そこに入ってきたのは・・・
「ハ~・・・ ルーズの奴、わざわざ面倒な書類仕事を大量にやらせ上がって・・・ あ~、疲れた。」
ありのままの姿のフィフスだった。そして・・・
「んっ? あれは・・・」
彼は目の前の彼女を見てしまったのだ。
「ナッ!?・・・ ナァ!!?・・・」
それが何なのか気づいたフィフスは目を見開いた。
「瓜!!? お前何でここにいんだ!! 今の時間は男湯のはず・・・」
「イッ!!・・・
イヤーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
瓜は自分の裸を見られたことと彼の「あれ」を見てしまい、顔を真っ赤に真っ赤にして思いっ切り桶をぶん投げた。そしてその桶は見事フィフスにクリティカルヒットした。
「ドベシャァ!!!」
フィフスが倒れ込んで気絶している内に脱衣所に飛び込んだ。扉を閉めると、瓜はそこでしゃがみ込んだ。
「アーーーーーーーーー!! やっちゃいましたーーーーーーーーーーーーー!!!」
焦った瓜はすぐに着替えを済ませてそこから箸って離れていった。対してフィフスは気絶から冷めると、黙々と洗いながらあることを考えていた。
『う、瓜の奴・・・
・・・結構、でかかったな・・・』
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そことは別の国の、とある酒場。そこでは夜も更けている時間だが、貸し切りのパーティーで盛り上がっていた。
「おらおら!! 酒が足りないぞ!! もっと持ってこい!!!」
その中核の一人の男がそう叫ぶと、店の少年が大盛の酒樽を担いで運んできた。
「よいしょっと・・・」
男は隣のセクシーな女性にキスされながら、彼女の尻をまさぐっている。調子よくやっているところに少年は彼らの近くに樽を置いた。そのとき、少年は男の耳元にこう囁いた。
「勇者ノギ様ですね。」
「あ? 誰だ小僧?」
機嫌良く酒を飲んでいたところに水を差され、男は苛立った。
「サインなら今度にしろ! 今俺は忙しいんだ!!」
しかし少年の言葉にそれは覆された。
「嘘の英雄。」
「アッ?」
「貴方に頼みたい事があります。」
そう言って、彼は男に顔を向けた。それはフード頭に不気味な仮面・・・
・・・現在日本にいるはずのカオスであった。
<魔王国気まぐれ情報屋>
魔王城地獄の湯の効能
・疲労回復
・全身のこりがほぐれる(口調も含めて)
・怪我の治癒
・運動神経向上
・リラックス効果
・幸福感
・記憶向上
・五感向上
・その他諸々・・・