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第33話 Shall we dance?

 突然現れた吸血鬼の令嬢に客人はもちろん、城の警備員達も驚いていた。しかし、そのときなぜか会場は静まり返った。全員が注目する中、フィフスは瓜に手を差し伸べる。


 「これは綺麗なお嬢さんだ。是非とも私と 一曲踊ってくださいませんか?」

 「な、何を・・・」


 困惑する彼女の頭の中に彼の声が聞こえてきた。


 『オイ、聞こえるか?』

 『あ、テレパシー・・・ ハ、ハイ!!』

 『よ~し、通じたな。』

 『あのフィフスさん、この状況は?』

 『説明は後だ。まずは俺に合わせてくれ。』


 観客は二人がテレパシーで通じているなど知るよしもないが、それでもさっきから動かない二人に違和感を感じていた。


 「ねえ、なんで動かないのよ。」

 「動かないんなら私に譲りなさいよ!!」


 『マズい・・・ 観客が怪しんでやがる。場を切り抜けるためにも手を貸せ!!』

 『そう言われましても、どうすれば・・・』

 『差し出されている俺の手を取れ!!』


 瓜は言われるままに両手でそっとフィフスの手を取った。


 『なぜ両手!?』

 『エッ!? 違うんですか!!?』


 「何あの子、礼儀作法がなってないわ!!」

 「これなら私の方が何倍もましよ!!」


 『動き一つでこの言われようか・・・』

 『こ、ここからどうすれば・・・』

 『ああ、スマン。笑顔になって、「喜んで」だ。言ってみろ。』

 『え、笑顔・・・ 笑顔・・・』


 瓜はその瞬間自分が笑顔になるときどうしてたかさっぱり忘れてしまった。


 『笑顔、笑顔って何でしたっけ? そもそも笑うって何でしたっけ!? どういうものでしたっけ!!?』


 瓜は目がグルグルになるまで混乱している。しかし観客の怪しむ目をなんとかするためとっさに出すことにした。その結果・・・



 二へラッ・・・  「よ、喜んで・・・」


 めちゃくちゃぎこちない笑顔が完成した。


 『下手くそぉ!! それじゃ無理矢理言わされてるみたいだろ!!』

 『ス、スミマセン!!』


 実際無理矢理言わされてるのだが・・・ ということは瓜は胸にしまった。そしてこの光景に怪しんでいる周囲と例外の一人。


 「う~ん、可愛い!! 下手くそな笑顔も素敵よウリーちゃん!!」

 『ウリーちゃん? まさか連れってのは・・・ いや、今は考えないでおくか』


 サドの一言に気になったフィフス。まさかと思いながらも先にこっちを済ませようと瓜の手を取ったまま立ち上がった。そしてその手を引っ張り、彼女の片手を持ち替えて構えた。


 『あの、何を・・・』

 『決まってんだろ、踊るんだよ。』


 フィフスのアイコンタクトを受け取ったルーズはパーティー会場に事前準備していた楽団に合図を送った。そして、二人が踊るための楽曲が流れ出した。


 『よし、行くぞ。』

 『あの、私、ダンスは・・・』

 『大丈夫だ。』

 『ああ!!・・・』


 言葉も途切れて引っ張られる瓜。フィフスは彼女の動きをきっちり制御し、見事な見栄えを見せていた。


 『次、右足を前に。』

 『はいっ!!』

 『よし、そのまま左足を上げろ。』

 『こ、こうですか?』


 二人は逐一テレパシーで会話をすることで、瓜は踊り、フィフスはそれが美しく見えるように合わせた。それを見たルーズ。


 『器用な方だ。知ってたけど・・・』


 残りの使用人や警備員達はあっけにとられていた。


 「オイ! 誰だあの令嬢は!?」

 「分かりません。参加者の名簿には、あの方の写真がなくて・・・」

 「ないだと!? ならどうやってこのパーティーに参加したんだ!!」

 「知りませんよ~・・・」


 「アタシの付き人よ。」


 声に振り向く警備員達。そこにはサドがヤらしい目付きで立っていた。


 「ナッ!!?」

 「これで文句はないわね? じゃ、異常なしって事で・・・」


 その場を無理矢理沈めたサドは、再び瓜を見るために戻っていった。声をかけられた彼らは怯えて腰を向かしている。


 裏でそんなことが起こっていることなど知るよしもなく、フィフスと瓜は美しい楽曲が流れる中で周囲に注目されながら踊り続ける。瓜も初めは緊張していたが徐々に慣れていき、このおとぎ話のような状況をどこか楽しんでいた。


 そして時間は過ぎ去り、二人は無事一曲踊り終えた。その完成度の高さに、観客からは、自然と拍手が起きた。それに瓜は恥ずかしがっている。


 『あわわわ・・・』

 『我に返っちまったか。まあここまでやれば御の字だな。』


 フィフスはルーズにハンドサインで指示を出す。彼は無言で頷き、司会者に耳元で囁いた。


 「さあ、皆様。主役の王子に続いて、パートナーを選んでください。」


 聞いた客人が、ウキウキしながら男女でペアを組む。そのとき瓜はいくつか引っかかる単語があった。


 『王子? 主役? フィフスさんが?』



 一通りペア組みが終わると、再び楽団は演奏を始めた。すると客人達は事前に打ち合わせでもしたかのように揃った動きで踊り出した。その間を抜け、密かにフィフスは瓜の腕を引いて部屋を出た。


 廊下に出て一落ち着きすると、フィフスは立ち止まって手を離した。そして彼女の顔を見た。


 『あ、あの・・・ フィフスさんってもしかして・・・』


 しかし瓜のテレパシーが伝わりきる前に、フィフスは彼女の頭に右手を置いた。


 『フィ、フィフス・・・ さん?』


 するとフィフスはボソッと呟いた。


 「良かった・・・ 無事で・・・」

 「エッ・・・」

 「何が「エッ・・・」だ。 こちとらクソ心配したんだぞ!!」


 瓜の目には、彼が心の底から安心している様子が映った。少しの間余韻があったが、フィフスは次に思っていたことを言った。


 「それにしてもお前、どうやってここに来た? まさかと思うが・・・」


 瓜はその質問にまた素直に答える。


 『実は、ある黄鬼さんに助けて貰いまして・・・ その方にここまで・・・』

 『やっぱりか!!』

 「瓜、そいつに金をせびられなかったか?」

 『お金? いえ・・・』

 「は!? んな珍しいことがあるか!! 何がとられた。正直に言ってみろ。」


 フィフスの声は明らかに焦っている。瓜は肩を掴まれ、戸惑いながらどう言うべきか迷っていた。


 『なぜそこまで心配するんですか? もしかして、お知り合いですか?』

 「あの黄鬼は・・・ 俺の・・・」






 「ちょっと、主役がこんな所で何してんのよ。」

 「ナッ!!?」


 声に驚きフィフスが振り向くと、サドが何の気なしに立っていた。


 「何でそっちこそこんなとこにいんだよ!!」

 「実家でアタシがどうしようが勝手でしょ。 アンタだって好きかってしてたんだし。」

 「実家!?」


 瓜が驚いたことでサドは自分が言ったことに気づき、しまったというような顔をした。そして瓜はフィフスに聞いた。


 『あのフィフスさん、サドさんって・・・』

 「サド? サードじゃなくて?」

 『サード?』


 二人がいつものごとくの会話をする中、サドはフィフスを少し引いて見る。


 『なんでさっきからこいつ独り言ぶつくさ言ってんだろう・・・ キモっ・・・』


 「あの、サード・・・ とは・・・」

 「ウリーちゃん? 今何て?」

 「こいつと俺はテレパシーで会話するんだよ。」

 「なんだかよくわかんないけど、やっぱりアンタ、その子の知り合いだったのね!! これで賞金ゲットよ!!」

 「やっぱりそれが狙いか・・・」


 またうやむやにされようとしたので、瓜はもう一度聞いた。


 「あの・・・ サード・・・ とは・・・」


 それに汗をかくサド。そんな彼女に遠慮することなくフィフスは言った。


 「なんだ、知り合ってるくせに何者か知らなかったのか?








      この黄鬼は『サード』、魔王国第二王女にして、俺の実の姉だ。」











 「姉!!?」




 「アハハ・・・ ごめんね、言わなくて・・・」


 サードは笑って誤魔化した。

<魔王国気まぐれ情報屋>


フィフスと瓜のテレパシーは、契約主人の力が弱まるこの異世界では使用が出来ません。この効力は、同じく日本人と契約しているグレシアも同様です。

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