第32話 舞踏会②
<瓜サイド>
事の当日の夕方に、丁度パーティー会場に着いたサド一行。まだ開場には早かったためか警備も少なく、どこか静かに感じる。
そこで馬車を降りた瓜は、下にしていた目線を戻すと、その目に広がった景色に度肝を抜かれた。そこには、端が見えないほど大きな城の外壁が広がっていた。
「こ、ここは・・・」
唖然とする瓜にサドは答える。
「何って、『魔王城』よ。今回のパーティー会場になってるの。」
『魔王城』、その単語だけで瓜は内心震え上がった。
『まままま、魔王城!!? それって、ゲームとかで言うラスボスの居住区じゃ・・・』
完全に固まってしまった瓜。しかしサドはそんなことにかまいもせず彼女の腕を無理矢理引いて門の前まで進めた。城の敷地に入る為の塀の門でさえも自分たちの身長の二倍は軽くあった。
「招待状をいただいた者よ。通してちょうだい!!」
サドが門の前でそう言うと門は独りでに動き出し、音を立てながら道を開かせた。
『もう、この時点で何なのか・・・』
「さ、入るわよ。ウリーちゃん。」
サドはまた瓜を引っ張り、キンズはその後ろを歩いて敷地内に入っていった。
「まずは衣装合わせをしないとね~、腕が鳴るわよーーーー!!」
「実際に着付けをするのは私なのですが・・・」
「あぁ・・・ うぅ・・・」
自分の全く知らない世界の姿に瓜はただ放心して進むしかなかった。
城での用意された部屋に入った一行は、そこでサドと瓜のドレスを着替えさせようとした。しかしサド用に作られたドレスではサイズが合わず、着付けに苦労していた。
『キ、キツいです・・・ もしかして太ったんでしょうか・・・』
「あらキツそうね~ サイズ合わなかったかしら。こりゃ、採寸し直しね。」
「スミマセン・・・」
「いいのよ。すぐ終わらせるから。」
「だからそれもやるの私なんですが・・・」
キンズは敗れないように器用に瓜の着ていたドレスを脱がした。そうして下着姿になった瓜の体をサドがまじまじと見ていた。視線が気になって瓜はその顔を見る。
「ど、どうか・・・ しましたか?」
「ああ、気にしないで。『にしても・・・』」
そのときのサドはたった一つのことを考えていた。
『ウリーちゃん、だぼったい服着てたから気付かなかったけどメチャクチャスタイル良いじゃない!! 女のアタシですら変な気分になるわ・・・』
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ドレスのサイズ合わせによってしばらくの間時間が空いた瓜は緊張で尿意を感じてトイレに向かい、ついでに城の中を回ることにした。しかしどこまで行っても端らしき所にはたどり着かない。
『さ、流石は魔王城・・・ 果てしなく広いです・・・』
変装のおかげで周りの警備員には怪しまれずに済んだが、見慣れない魔人の姿にどこに行っても落ちづけずにいた。
『右に魔人、左に魔人。光景が異次元過ぎて混乱します・・・』
その道中で瓜は警備員達の噂話を耳にした。
「なあ、王子って結局どこ行ってたんだ?」
「さあな~、なんでも人間に助けられたって聞いたぞ。」
「マジかよ!! 人間にも物好きがいるもんだな~・・・」
『王子? そうか、お城なんですし魔王もいれば、その子供もいますよね。』
しかしその直後に彼がら行った言葉を瓜はハッキリと聞いてしまった。
「でも所詮人間だろ、どうせ人質にしようとしたんだ。」
「あいつらホント容赦がねえもんな。聞いたか、昨日向こうの軍に襲われた村、魔人だからってだけで住民全員殺したらしいぜ。」
「おいおい流石にねえだろ。いくら敵でも無抵抗な奴らを・・・」
「それが人間なんだよ。アイツらは俺たちのことを『化け物』呼ばわりするけどな。実際はどっちが化け物だってんだか。」
「ああもう、ホント人間なんて滅べばいいのにな!!」
「・・・!!」
瓜は無意識のうちに反対をむいて走り出した。これ以上話を聞きたくなかったのだ。
『昨日の住民の皆さんの顔。こういうことだったんですね・・・
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「に、人間・・・」
「人間だ。人間がいるぞ!!」
「何でこの魔王国に!?」
「に、逃げろーーーーーーーーーーー!!」
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・・・それじゃあ、フィフスさんも・・・』
パニックになった瓜は自分がどこへ向かっているのかも分からずに走り、サドの部屋から離れてしまった。さらに彼女は前を見てなかったために、通行人に気付かずぶつかってしまった。
ドンッ!!
「う~、 ハッ!! だ、大丈夫・・・ ですか?」
我に返った瓜は相手に声をかけた。すぐにその魔人は起き上がり、快く返答した。
「平気ですよ。貴方の方こそ、大丈夫?」
それは見るからにおしとやかで、どこか気品を漂わせる女だった。
「は、はい・・・」
「にしても貴方、どうやって来たのかな? ここは関係者以外立ち入り禁止よ。」
「エッ?」
瓜は後ろを振り返った。確かに貼り紙らしきものがある。彼女には読めないが・・・
「もしかして迷ったの?」
「あ、いや・・ その・・・」
さっきの事もあり、瓜はいつも以上に素直になれなかった。表情も暗くなっている。するとそれを見ていた魔人は、両手で瓜のほっぺたをギュウ~っと押した。やられた彼女が困惑しているが、お構いなしに話し出した。
「そんな表情はいけません! せっかくの可愛いお顔が台無しですよ。女の美しさは、笑顔で際立つんですから。 <キープ スマイリング>ですよ!!」
「は、はあ・・・」
顔を戻された瓜は、自然に先程より柔らかい表情になっていた。
「さて、迷子なんだったら、元の場所を言ってくれれば案内できますよ。」
「え、あ、貴方は・・・」
「ここは前に住んでたんです。任せてくださいね。」
女はそう言って自信満々にウインクをした。瓜は当てがなかったのでこの人に頼ることにした。「セカンド」と名乗る彼女は、宣言通り城の構造を熟知していた。瓜が気づきもしなかった隠し通路を通り、あっという間にすぐ近くにまで戻れた。
「後はこの通路を真っ直ぐ進めば、目的の部屋につきますわ。」
「わ、わざわざすみません。セカンドさん。」
「いいのよ、困ったときはお互い様ですから。
たとえ人間と魔人の間でもね。」
瓜はそれを聞いてドキッとした。
「き、気付いて・・・いた・・・」
「初めからね。安心して、他の人には黙っておくわ。」
「なぜ、私を・・・ 人間なのに・・・」
「だって貴方、会いたい方がいるのでしょう。」
「エエッ!!?」
心の中を探られたかのようで瓜は震えた。
「女の勘は当たるものですよ。それに、最近まで私も同じでしたし・・・」
「同じ・・・」
「弟が行方不明になっていたんです。」
「そ、そうなん・・・ ですか・・・」
瓜はその場ながら同情した。
「哀れみはいりませんわ。それが先日、見つかったみたいなんですもの!!」
「そ、そうだったんですか!!」
「もしかしたら、それで気分が良かったからかもしれませんね。」
「あ、ありがとうございます。」
またウインクをし、セカンドは何事も無かったかのように反対を向いた。
「それでは失礼しますね。どうぞパーティーを楽しんでくださいませ。」
そう言い残して、セカンドは去って行った。瓜も歩き出し、サドの部屋に向かって行った。
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時間がかかったのでサドが心配しているかと思い瓜は先程ほどではないが駆け足で廊下を進んでいった。そこで一人の男性にすれ違った。いつものことに無言で済ましたが、しばらくすると・・・
ダダダダダダダダダダダダダダ・・・
「お待ちくださいーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
「ヒィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
突然知らない魔人の男に回り込まれて飛び出て来たことに瓜は恐怖に震えた。
「し、失礼しました。怪しい者ではございません。」
『その台詞の時点でもう怪しいのですが・・・』
冷や汗をかく瓜に彼は続ける。
「スミマセンが、貴方のお名前を聞かせてください。」
唐突なことに困惑しながらも瓜は急いでいたこともあって早く終わらせようと、聞かれたことに素直に答えようとした。
「わ、私は・・・ う・・・」
「ウリーちゃーーーーん!! ドレスの採寸が出来たわよ~。ってあれ?」
答えようとしたそのとき、そこにサドが現れた。瓜は彼を見て眉をしかめる。
『今の反応、サドさんの知り合い何でしょうか?』
「アンタは・・・ 確かアイツの執事の。」
「ゲゲッ!! なぜ貴方がここに!?」
「そういうアンタこそ何で!?」
マズい状況と見た男はその場から逃げようとしたが、狭い廊下で会ったこともあり逃げ切れず、サドは彼を関節技で拘束した。
「グホッ!! う、動けない・・・」
「アンタが来たってことは当たりね。どうして彼女の名を聞くか話してもらうわよ!!」
それからしばらくの時間、彼は身動きが取れなくなった。
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そして慣れない着付けに時間がかかってしまい、他の客人が会場内に入っていく中で瓜はまだドレスの紐を締めていた。
「ううむ・・・ やはりサドさんとは勝手が違って閉めにくいですね~・・・」
『やっぱり私太いんでしょうか・・・』
瓜は勘違いでまたショックを受けた。しかしその事は胸にしまっておき、瓜はキンズに少し気になったことを質問した。
「あの、サドさん・・・ は?」
彼女は着付けの手を緩めることなく淡々と答えた。
「サドさんでしたら、先程の男性とお話中ですよ。しばらく時間がかかるのでパーティーには先に行ってとのことです。」
『お話中・・・』
「アーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
「な、何ですか!? 」
突然隣の部屋から断末魔のような叫び声が聞こえて来た。まさかと思い駆け出そうとした瓜だが、そこに彼女がさっと手を置いて止めた。
「準備は終わってませんよ。大人しくしてください。」
「し、しかし・・・」
「大人しくしてください!!」
圧のかかった言い方に瓜は押さえ込まれた。
そうこうしている内にどうにかドレスの着付けが終わった。そのまま瓜はキンズに押されて隣の部屋を通り過ぎて、メインホールに向かっていった。いつの間にか部屋からの音は消えていた。
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そしてようやく二人はパーティー会場に着いた。キンズは瓜を急かす。
「急いでください。パーティーはもう始まっていますよ。」
「す、すいません・・・」
彼女は慣れないドレスに動きづらくしていた。そして転けかけたときにすっと彼女に支えられ、その子は態勢を戻した。
もたついている間もなく彼女はキンズに引っ張られると扉の目の前にまでついた。先程の塀の扉に比べたら何てことはないが、それでも十分大きかった。
『これだけでも凄い迫力なんですが・・・』
既に緊張している彼女。お構いなしに開く扉。いきなりのまばゆい光に彼女は腕で目を隠した。
しばらくして目が慣れると彼女は腕をどかした。そこには彼女が見たことのない綺麗に飾られた宝石の飾りに黄金であしらわれた壁、ふかふかな赤い絨毯。まるでシンデレラの舞踏会に入り込んだ感覚だ。
「それでは、行ってらっしゃいませ。」
あまりの光景に彼女は前に進みながらもどうすれば良いのか分からずに目を開けて辺りをキョロキョロと見た。扉付近の警備員は先程のことを押さえ付けるのに向かったためそこにはおらず、瓜はすんなりと入っていった。
『うぅ・・・ とても綺麗ですけど慣れないです・・・』
見つからないようにコソコソと動こうとしたが、どういう訳かすぐに会場一帯の視線が彼女に向いていた。状況について行けない瓜は目線を定められずに首から下を固めていた。すると視線の先に、ある人物が映った。照明の光が反射して顔がよく見えなかったが、うりはそれが誰だかを分かった気がした。
『あれは・・・』
向こうをこちらに気づいたのか、彼女の所へと向かってきた。そして彼女の元に近づいた。
瓜は近づいてハッキリと見えたタキシードの彼、フィフスの顔を見て深く驚いた。そして安堵した。
「フィ、フィフスさん!!?」
「よう、」
パーティー客の視線を全て集めながら、二人は少しの間お互いの再会をただただ噛み締めていた。
<魔王国気まぐれ情報屋>
・瓜のスリーサイズ
バスト 88 Fカップ
ウエスト 58
ヒップ 89
グレシア「別に羨ましくなんて・・・ ないんだから!!」
グレシア Aカップ
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