第333話 中央の大木
火華が蹂躙する森の中、それぞれがそれぞれで待ち受けていた火華人を撃退し、森の中心部である草原に向かって行きました。
その中で最初に到着したのは、素速く火華人の討伐に成功した信でした。彼は草原に入った途端に、草原の中心にそびえ立っている他の木々とは比べものにならない大木を見上げました。
「あれが火華か・・・ へえ、こうして生で見てみると相当迫力があるな・・・」
科学者として波興味に注がれるところがある信でしたが、これ以上被害が出るのは良くないと判断して早速火華に銃口を向けます。
『この対火華用の毒薬。本体にも効き目があると嬉しいんだけど・・・』
不安がアルながらもとにかく仕掛けてみなければ分かりません。信は意を決して銃を撃とうとしましたが、その直前に突然火華の大木が大きく揺れ出し、葉っぱで覆われている部分を一部避けることで彼にあるものを見せつけます。
「ッン! あれは!!」
信は目を見開きました。火華が見せつけてきたのは、ここまでの行方不明事件の被害者達が、数を揃えて身体を枝に絡みつかれて眠っている状態だったのです。
そしてこの中には、信を始めここにやって来た一行が真っ先に探していた人物の姿もありました。
「五郎君!!」
木の中でも、中心部に括り付けられ眠らされているフィフス。今の彼に信からの呼びかけの声は届いていませんでした。
『分かりやすい人質って事か。分身体達も大概だったが、嫌な性格をしているよ』
銃口を突きつけるならばその先に届く方向に人質を向ける火華。信が対処に追われている内に地面から根を飛び出させて襲ってきました。
信の方もこれにただやられるわけではなく、自身に向かってくる木の根が間合いに入った途端に一つ残らず銃を撃ち出し破壊します。
これに火華も数を増やすことで仕留めようとしますが、横から割って入った服すの攻撃でまとめていた木の根も破壊されてしまいました。
信が何が起こったのかと横に顔を向けると、火華の分身体達を撃退してこの場に到着したグレシア達の姿がありました。
「みんな! 無事合流できたみたいだね」
「いや、とても無事ってわけじゃないんだけど」
「まあ、ドクターも見た感じからして僕らと同じ目に遭っていたようですね」
ルーズからもフォローを受けて味方からの怒りを買うことは免れた信。
グレシア達はそんなことよりも火華が見せているフィフスの姿に目が向きます。
「フィフス!」
「王子! 堂々と見せびらかしてくるとは・・・」
「分身体の奴らといい、虫の居所が悪くなる奴らだな!!」
信とは違い魔人に対する敵意が大きい経義は、先手必勝で大剣をボウガンに変形させると、大木の根元を狙って矢を発射しました。
経義のあまりの素速い攻撃に対応し切れなかった火華は、飛んできた矢を直撃してしまいます。
「これで終わりか? あっけないな」
「いや、どうやら向こうさんはこの程度でくたばってはくれないみたいだよ」
白兎からの指摘に警戒を強める一行。爆発で発生した煙が晴れた先には、土の中に覆われて隠されていた大量の木の根が露出しているのが見えました。
しかも矢の爆発を受けて欠損している一部も、彼等が瞬きをしている間に残りの根で養分を吸収したためか元に戻ってしまいます。
「やっぱりね。分身体ですらあれだけ再生力があったんだ。本体が何もないはずがない」
「とするとこれだけのデカブツ。再生を切り抜けて撃退すると相当重い一撃が必要になるわよ」
「火だったら効果があるもかもしれませんが、よりにもよってその使い手が向こうに捕まっていますからね」
「ホント、何やってくれてんだかあの馬鹿」
グレシアがフィフスに対する愚痴をこぼした次の瞬間、露出している木の根の一部が場かけつつ各方向から攻めてきました。
これにグレシア達はそれぞれ別々の場所にばらけながら回避し、ルーズと経義に至っては得意の刃物を使いこなして向かってくる木の根を切り裂いて逆に火華にダメージを与えてみせます。
「デカいだけに攻撃が単純な上速度も遅いな」
「当たると痛そうですが、対処は簡単ですね。隠し球がなければですが・・・」
ルーズが火華の単純すぎる攻撃方法に何か裏があることを感じて警戒をしていると、丁度全員がそれぞれの位置でばらけて助けに行くには距離がある瞬間をついてきました。
火華は木の幹を強風に揺らされている木のように大きく揺らし、木の上部分に大量に付いていた赤い花から大量の花粉を降り注いできたのです。
「やっぱりこう来ましたか!!」
「しかも、味方がばらけて下手な対処が裏目に出る位置にいるときに・・・見計らったな、いやらしい大木だ」
「文句を言っている時間はない。どうにかして防ぐぞ!」
経義の言葉を皮切りに各々が降り注ぐ花粉に対する防御、もしくは回避の為の技を繰り出そうとかかります。
だが火華も自身の攻撃をただ待っているわけではないようです。
火華は本体である幹を大きく揺らしつつ、自身の枝の一部をミサイルのように飛ばしてきました。
空中に飛び出す枝は降り注いでる花粉に接触し、真下で抵抗しようとしているグレシア達に対し、まるであざ笑っているかのように爆発させました。
「マジか!」
「ホント、嫌な奴・・・」
この場にやって来た戦闘員は揃って爆発の炎に飲み込まれてしまいました。




