第330話 再生のメカニズム
魔の森の中に突入し、着々と迎え撃つ相手を倒して先へ進む一行。残りの火華人は、あと二人。その一人のモシオによって場所を移されたルーズは、地面に着地してすぐに追ってきたモシオからの攻撃が飛んできます。
「クッ!!」
自慢の素早さで火炎が当たる前にギリギリ回避したルーズ。しかし次に足を付けた場所で地面から生えきてきたツタが右足首に絡みつきました。すぐにルーズは魔術を発動して絡みついたツタを破壊しますが、またすぐに同じ箇所に新たなツタが生えて絡みついてきました。
「破壊してすぐに・・・ これでは切りがない。」
罰の悪い顔になるルーズに木々の奥の暗闇からモシオ音を立ててゆっくり歩き、彼の眼前に姿を現しました。
「この森は既に私達のテリトリーなのよ。どれだけほどこうともツタを生やそうなんて簡単にできるの。」
足を拘束して動きを制限し、今度こそルーズに確実に攻撃を当てようと近付くモシオ。
この彼女が近付いてくる間に何もしないルーズではありません。手足が動けなかろうと空気中に作り出すことの出来る風刃の特性をふんだんに利用し、彼女の首や脚を切断していきます。
しかし、彼の連撃に対してモシオは全く痛がる様子もなく、切断した首や脚が体から離れていくより前に切断部からツタを延ばし、胴体に融合して再生してしまう。
「そんな単純な攻撃、退屈凌ぎにすらなりはしないわね。」
ルーズの脚に絡みついたツタが時間が経過するに連れて伸びていき、彼の前進を包み込もうとしてくる。
ルーズはこれをすぐに自身の周りに鋭い風を発生させて高速を破壊するも、こちらも彼がその場から動き出すより前に代わりのツタが地面から伸び出し、彼の身体に再び絡みついた。
「クッ!……こちらもか。」
「残念ながら、貴方がしている行為はこの場において全て無駄なものよ。」
段々と抵抗する動きが封じられてしまうルーズに、モシオは鼻で笑った余裕な様子で説明しました。
「ここは私達、火華の本体から近い場所。ここら周辺の植物は森の端の方のものよりもより多くの火華の栄養が分け与えられているの。だから……」
モシオはまたしてもルーズが仕掛けていた風刃に袈裟斬りにされて上半身が地面に落ちかけましたが、瞬時に切断部から伸び出したツタによって再生してしまいます。
再生を終えて元に戻ったモシオは余裕な態度を崩さずに傷跡すらない体の切断部だった箇所を軽く摩ってみせます。
「この通り、何度攻撃で体をバラバラにされようと、例え粉々にされようと、私がやられることはないの。この地に足が付いている限り、絶対にね!!」
足下に指を指して説明を終わらせると、次にモシオは自分の足下から複数本の太いツタを生やしてルーズに飛ばし、彼の身体を覆い尽くすように纏わり付きました。
「フグッ!!?」
「もう貴方は身動きを取れない。このままツタに押しつぶされて、私達の養分になることね。貴方の主人の赤鬼のように……」
徐々に圧迫を強めるツタの力に、ルーズは骨が折られそうな容赦のない痛みが襲ってきます。叫び出そうにも口元も面で覆われて声も出てこなくなってしまいます。
『クッ! このままでは一撃も入れられないまま体中の骨を折られてしまう。なんとかして脱出しなければ……』
ルーズは体は動かなくなっても頭は回せるとここまで得た情報からどうにかこの危機を脱出できないかを考えていますが。その間にもツタは彼の身体の回りに伸びていき、とうとうルーズの全身を包み込んで一気に圧縮しにかかりました。
「バイバイ。先に地獄に行ってご主人様を待っている事ね。」
勝ち誇ったモシオが捨て台詞を吐いた次の瞬間、突然ルーズを包んでいた植物が破裂するかのように内側から破壊されました。
驚いたモシオは移動しかけた足と目線を戻して何が起こったのかを確認しようとします。これによって彼女は逃げ延びられたかもしれないチャンスを自らなくしてしまいました。
次の瞬間、植物を破壊したとも思われる突風がモシオに全身に吹き付け、彼女の体を綿毛のように宙に浮かせてしまいました。
「これは!? 一体!!?」
すると今度は爆発で飛び散ったツタの破片を貫通しながらルーズの風刃刺突弾がモシオの腹に直撃した。
「ウガッ!……キツい威力ね。でもこれもすぐに再生して……」
「地面に足が付いていれば……ですがね。」
「ッン!!」
攻撃の軌道上の先にいたルーズがこぼした一言にモシオの表情が急激に青ざめた恐怖のものに変わった。
「貴方がばらしてくれたんですよ。足を地面に付ければ無事。同時に植物は地面から生えてくるものです。
要するに、地面から養分の吸うことでどれだけ負傷しようとも瞬く間に再生してみせたのでしょう。しかし今貴方がいるのは空中だ。ここまで言えばどういうことか分かるでしょう?」
つまり、この場には足を付ける地面など存在しない。ならばとモシオは咄嗟に近くの木に捕まろうと腕を伸ばしたが、ルーズは彼女の行動を見逃さずにすかさず彼女の近くの木々を破壊する。
「お前エェ!!」
余裕な態度が崩れ、目を血走らせながら怒声を上げるモシオに、ルーズは落ち着いた態度で返事をします。
「地獄に行くのは、貴方の方だったようだ。そして、僕も王子もそっちにはまだまだ行きませんよ。」
「クッソガアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァ!!!!!」
汚い断末魔を上げながらモシオは風圧を前に空中で体を木っ端微塵にされてしまい、二度と再生することはありませんでした。
勝利したルーズは魔力の消耗を気にしている時間もなく、気合いで体を動かし、軽くフィフスに対してケチを付けて先に進みます。
「はやく目を覚ましてくださいよ……王子。」
<魔王国気まぐれ情報屋>
普段はフィフスに難癖を付けているルーズですが、彼を馬鹿にする的には容赦がありません。
これは過去にルーズがフィフスに大きな恩があるためです。
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