第329話 ガジャ
白兎が吹っ飛ばされて離脱し、経義一人が捕らわれたままでいる状況。そこにこの場にいたもう一人の火華人、ガジャが警戒した目付きで近付いて来ます。
「さっきのことで確認したわ。貴方は手足を外すことは出来ないようね。その拘束もほどけないようだし。」
「確かに俺は因幡と違って義手や義足を付けていないからな。だがお前にこのまま殺される気も毛頭ない。」
経義が両拳を強く握り締めると、それを起動合図として両方の手首と足首の辺りから小さなナイフの刃が四本ずつ飛び出し、回転することでツタを切り裂き彼を解放させます。
地面に落下する勢いに乗せて背中に備えた大剣を外しながら振り降ろす経義ですが、警戒を怠っていなかったガジャは事前にある程度の間合いを取っていたため、剣先にかすることもなく回避することが出来ました。
「貴方も仕込み武器を持っているの。これじゃあ再びツタや根で体を拘束しても意味は無さそうね。」
「冷静な判断をする奴だ。返り討ちを狙うのは無理そうだな。」
お互いの向け目の無さを見て仕掛けるのに迷う二人。少しの間膠着状態が続きましたが、経義の方には時間的余裕が相手よりも明らかにないために、はやくに痺れを切らして大剣を上から下に振って前に出てしまいました。
焦って出てきた経義の態度を見てガジャは彼のことを鼻で笑いながら少しだけ後ろに下がりつつ花粉を吐きます。
「フフッ… 焦ってからの単純な大振りね。隙だらけよ!!」
吐かれた花粉は経義が振るう大剣の軌道上に飛び散り、大剣の刃に切り裂かれたことで一部の花粉が爆発し、周辺に飛び散っていた花粉も連鎖的に爆発していき、経義の全身をも包み込んだ。
「もう終わりかしら? あっけなかったわね。」
発生した煙を軽く手を払いながら表情を崩さずに念のために経義の死体を確認しようかと少し前に脚を進ませました。
しかしそこに油断が出来ていました。ガジャの体前半分が煙の中に入ったそのとき、破壊したかに思われていた経義の大剣の先端が彼女の頭に突き立てられたのです。彼女は突然煙の奥から素速く飛び出してきた武器に反応しきれずに突き刺されてしまいました。
「ナッ!?…」
そのまま煙を飛び出した経義は、差し込んだ大剣に自分の重量を乗せて縦一線にガジャを切り裂いてみせました。
「ガアァ!!」
響く叫び声で倒されたかに見えましたが、経義は次に見た光景に、ヘルメット越しでも驚きを隠しきれなかった。半分に切られたガジャの体の両方から植物のツタが大量に飛び出し、ツタが絡まり合いながら磁石が引き着くように合体し、元の姿に戻っていきます。
「再生している!?」
経義の反応を見ながらガジャは分かれた顔が治りかけの状態でニヤけた笑みを浮かべます。
「まさか爆発を真正面方飛び込んで切り裂いてくるなんてね。意外と脳筋なのかしら?」
話が終わると同時に頭の切り裂かれた部分も完全に修復され、元の状態に戻るガジャ。経義は異常な回復力に大剣を引き抜こうとしましたが、ガジャの腹に突き刺さったまま抜けなくなってしまいました。
「抜けない!?」
「体を切られたのならその事も利用しないとでしょ。」
ガジャはガラ空きになっていた経義の腹に蹴り飛ばし、距離を取ってから自分の右手で大剣の持ち手を掴んで引き抜きました。細い腕に見合わず、右手一本で軽々と大剣を振り回してみせます。
「凄い剣ねえ、私にも使わせてよ。」
そう言うとガジャは素速く駆け出し、蹴りを受けてから態勢を戻したばかりの経義に斬り掛かりました。彼は自分の武器を自分で受けることに怯んでしまったのか、かわすことも出来ずに両腕の手首を重ねて斜め上に出し、大剣の刃を受け止めます。
「自分の武器を使われる経験は初めてかしら? ビビってかわそうともしないなんて。」
振るう腕に力を入れ、さっきのやり返しと言わんばかりに大剣で切り裂きにかかるガジャに、脚を広げ態勢を低くしながらも耐える経義。滑稽な光景にガジャは彼のことを馬鹿にします。
「かっこ悪い光景ね。クールぶってたのが余計に端を引き立てるわ。そのスーツでの我慢も、いつまで持つかしら?」
ガジャは最悪スーツの装甲のせいで切られないのならばとこのまま叩き潰しにかかるためにより力を入れます。経義は態勢が悪くなり、これにガジャは勝利を確信したようでした。
「終わりね。死体は私達が吸収して綺麗に消してあげるから安心しなさい。」
しかし経義はこんな状況にもかかわらず、ガジャのことを目の前で鼻で笑ってみせました。
「フンッ… この程度で勝ったつもりか?」
「何ですって?」
ガジャが一切怖じ気づいていない経義の態度を妙に感じた次の瞬間、突然足下からガジャの体が燃え上がりだした。
「ナッ!!」
火は上へ上へと登り、瞬く間にガジャの全身を包み込みます。あまりの暑さに彼女は剣から手を放して後ろに下がってしまいました。
「ギャアアアアアアアァァァァァァァァ!!!! なんで!? なんで火が!!?」
「手品勝負は俺の勝ちだったようだな。お前が俺の体勢を崩したとき、わざと脚を広げていたことに気が付かなかったようだな。」
経義がやったここまでの敬意は至極単純なものでした。本来耐えられたはずの押し潰しを敢えて受けた振りをし、広げた脚に仕込まれた跳躍用のスラスターを起動させ、ガジャを周囲の植物ごと文字通り根元から燃やしていたのです。
炎をどうにか消火しようともがくガジャに、経義は彼女が落とした大剣を拾い上げ、ボウガンに変形させて先端を彼女に向けます。
「切り裂いたら植物が体を再生させる。ならば、一気に粉砕したらどうなるんだ?」
苦しんで返答する間のないガジャに経義はボウガンを発射し、彼女は胸元に矢を直撃させ、直後に断末魔を上げながら爆散しました。
「ガゴガアアアアアアァァァァァァァァ!!!!!」
爆発が収まり、煙が晴れてきた先の道に経義は警戒の視線を向けます。しかし彼の目の前にはガジャの姿が跡形もなく消えてなくなっていました。
「答えは消滅か。単純で面白みもないな。」
経義は待たしてもやり返しと言わんばかりにもうここにいないガジャのことを鼻で笑い、前に脚を進ませて中央に向かっていきました。
<魔王国気まぐれ情報屋>
・経義は魔術が使えないためスーツ内の様々な仕掛けで魔人の対策をしているが、当初その事をプライド故にこれを勧めた信に反発していた。
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