第328話 エアロハンド
信が火華の分身体を倒して先に進んでいたその頃、森の中の別の場所では、経義と白兎が他と同じように二人の火華人に行く手を阻まれ、操られて伸ばされた周辺の植物のツタに男二人で拘束され、前に進めないでいました。
「クソッ! 邪魔な植物だな。体にしっかり纏わり付いてくるな。」
植物は二人が手に持っているスプレーガンを警戒し、手首を強く締め付けることで地面に落とさせようとしていた。この中身が火華にとって警戒すべきものであるという情報が既に森全体に伝わっているのでしょう。
「うわ! ギチギチに絞められてるよ。でもま…」
白兎は拘束された両腕の義手を体から外し、瞬時に別の腕を召喚して体の自由を取り戻します。
「こうすれば意味無いんだけどね。」
「お前、スプレー元の腕に付けっぱなしだぞ。」
「アッ!!…」
経義からの指摘にヘルメットの奥で口をぽかんと開けてしまったと思う白兎。火華人の二人は関心しているようでした。
「あれがモシオの言ってたこの世界生まれのヘンテコ人間ね。」
「本当に腕が外れて生えてきたぁ!! どういう仕組みなんだろうねぇ、ガジャ?」
「はしゃがないでススマ。」
子供のように無邪気にはしゃぐススマと呼ばれる片方と、それを抑えるガジャと呼ばれた火華人。ガシャは冷静に残しておくと厄介に思った白兎を先に始末しようと広げた右手の平から花粉を飛び出させて攻撃しました。
「無言でまたいきなり来たか。でも花粉対策ぐらいはもう立ててるよ。」
白兎は右腕を変えたときに付けていたアタッチメントを腕ごと延ばして正面に向けます。手の部分の形はサーキュレーターのそれになっています。
「<エアロハンド>」
起動した扇風機の風は一点集中ながらかなりの勢いがあり、飛びかかってきた花粉を全体的に吹っ飛ばした。
「俺が勝手に作った対火華用装備だ。粉の配列を乱すことなく吹っ飛ばすんだ。こんなの作る俺、やっぱりすっごいでしょ?」
「くだらない自慢話はいい。対策があるなら一気に攻めろ。」
自分が作った新装備に自画自賛する白兎を諫める経義。彼は白兎と違って手足を切り離すことが出来ないため拘束されて吊り上げられたままでいます。そんな状態で指示をされてもと思う白兎でしたが、仕方ないと踏ん切りを付けて火華人の方に顔を向き直します。
「確かにね。時間もないし、二人まとめて俺が対峙しておくか。」
白兎は左腕を伸ばして指を振り、相手がこっちに来るように挑発する。
「へえ、挑発するなんていい気になってるわねえ。アーシがサクッと片付けてこようか?」
「どうぞご勝手に。私は動けない方を始末しておくわ。」
ガジャは冷静に身動きの取れない経義にトドメを刺しにかかり、ススカが発とに向かって正面から向かってきた。
「小細工なく正面から来たか!!」
「フゥ! 受けてみなさい!!」
身構える白兎に、ススカは自信の右拳を握ってそこに口から花粉を吹きかけた。白兎は彼女が仕掛けようとすることを読んで花粉を吹き飛ばそうとする。
『花粉を纏わせて殴る威力を上げるつもりか?』
ならばその前に花粉を吹き飛ばそうと右手を再度起動させようとした白兎。しかしここでススカはなんと喧嘩をする前の不良の構えのように庇護げた自分に左の掌に右拳をぶつけて爆発させ、爆煙を起こして目を眩ませた。
『目くらまし!? でもあんなことをすれば自分自身の腕が…』
しかし煙から抜けて姿を現したススカは、爆発してなくなったかに見えた右腕がそのまま生えていました。驚いて反応が遅れた白兎は正面から強化された拳を直撃してしまいました。
拳が当たった途端に爆発を起こし、倍増した威力を前に白兎の体は吹っ飛んでしまいます。
「因幡!!」
「心配ないよ。バトルスーツ着てるんだから。」
地面に激突してしまう白兎だが、声の調子からして大丈夫そうと経義が安心した次の瞬間、白兎は地面から生えてきた新たな植物のツタによって全身が簀巻きの状態に包まれて拘束されてしまいました。
「おっと、更にこう来たか。」
全身を丸ごと包まれては身動きの一つも取れない白兎にススカは笑いながらゆっくり歩いて近付きます。
「ハハッ! いくら手足を千切り取ることが出来ても、こうなってしまえばもうどうにもならないわね。頭を砕けなかったのは驚いたけど、もっと威力を上げたらどうかしら?」
近付いてくる彼女の姿に白兎は一つ気が付きます。この道中の彼女に右腕が爆破に巻き込まれて消滅していたが、残っていた部分から二人を拘束しているものと同じツタを生やし、固めて腕の姿に変身させた。
「驚いた。手足を取り替えられるのは俺の専売特許だと思っていたのに。」
「フフッ、傷ついちゃった?」
「いや、興味が湧いたね。」
「そ、なら頭の中で仮説での立てながら、燃え尽きるといいわ!!」
ススカが話を切ってさっきと同じ技を更に威力を上げて殴りかかろうとします。しかし白兎は慌てる様子なく、抵抗する動きを止めてススカの言い分に返答した。
「そうしたいのは山々なんだけど、今回は立場上はやく助けないとマズいのでね。名残惜しいがそろそろ終わりにするよ。」
白兎が話を切ると、その途端に彼の身体を覆っていた植物が独りでに枯れていき、彼の身体を解放してしまいました。驚いたススカが危険を感じて身を引こうとするも、白兎はエアロハンドを向けて再び起動します。すると今度は風と共にスプレーと同じ物質が飛び出し、彼女の全身に浴びせられました。
「ガアアァ!!? なんで?」
「例のドクターの開発物。わざわざ今回の糧に作った装備に仕込んでないとでも思ったか? 油断大敵ってね。最もこれだけ浴びせたらもう手遅れか。」
「やって… くれたわねえ… 小細工を!!」
「魔術だって、俺達からしたら十分小細工だけど。」
ススカは体を単色に変色させ、ツタと同じようにボロボロに崩れ去って消滅しました。
<魔王国気まぐれ情報屋>
・エアロハンド
白兎が開発した装備品の一つ。元々有毒ガスを周囲から吹き飛ばすために精製していた装備だが、今回の火華の性質を知って急遽改造した。
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