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第31話 舞踏会①

<フィフスサイド>


 着付けを終わり、つかの間の休息中かつ昼食の時間のフィフス。久しぶりのだだっ広い部屋での一人の食事に息が詰まっていた。


 ゴクンッ!!・・・


 「あ~・・・ 味がしねえ。」

 「王子。」


 ビクッ!!


 急に声をかけられて驚いた彼はすぐにその方向に首を振った。そこには今帰ってきたルーズが立っていた。


 「何してんのお前?」

 「帰ってきました。」

 「うん、そういうことじゃない。言っといたことは?」

 「国中をたった一人で探すんですよ。休憩ぐらいください。」


 その言葉を聞いてむかっ腹が立ったフィフス。


 「だろうと思った。だから俺も行こうとしてたってのに・・・」

 「パーティーを決めたのは上層部です。僕に文句を言わないでください。」

 「やっぱりか・・・ てことはこの会合、裏が有るとみて良いな。よし、」


 食事を終えたフィフスが立ち上がる。そして・・・


 「逃げるか。」


 即座に動こうとしたフィフスだったが、ルーズがそれを抑えた。


 「瞬発力なら僕の方が上だってこと。忘れてました?」

 「離せ、金持ち連中の陰謀に加担する気はねえし、何より瓜が心配だ!!」


 フィフスは振りほどこうとしたが、ルーズは力一杯にそれを押さえつける。


 「その方が心配なのは分かりました。ですが、ご家族の貴方への心配も忘れないでください。」

 「あ?」

 「このパーティー、王家の皆様も招待されています。」


 フィフスは暴れていたのをやめ、落ち着いて腕を降ろした。


 彼は考え込んだ。家族に会うのはただでさえ久しぶりのことだ。それも、自分が行方不明になって帰ってきたとなるとと思うと、流石に抵抗をやめた。


 『てことは姉貴も来るのか・・・ それはそれで面倒なことになりそうだ・・・』


 「わかった。今回だけ出てやるよ。その代わり、終わったらこっちの用事も手伝えよ。」

 「国中をたった二人でですか。これはまた大変な・・・」


 どうにか説得を完了したルーズは、一旦人捜しを切り上げてパーティーの準備にいそしんだ。


_________________________________________


 時間は早くも進み、あっという間に夜になった。続々と魔王城に集まる貴族の一行を乗せた馬車。タキシードに着替えさせられたフィフスはその様子を城のまだから眺めて早速ため息をついていた。


 「ああクソ、今から胃が痛い・・・」

 「予想はしていましたがご気分が悪そうで。」

 「誰かさんのせいでな。」

 「会場周りの最終チェックをしてきます。時間になりましたら来てください。特注の席が待っていますよ。」


 睨んでくるフィフスを無視してルーズはその場を離れた。時間まで暇だったフィフスはまた窓から城の入り口を見ていた。


 一方のルーズ、会場に向かう一番の近道である控え室の列を通っていた。来客に迷惑をかけないよう口を閉じて歩いていると、そこで一人の女性にすれ違った。そのときは何もなかったが、少ししてルーズは違和感を感じた。


 「ん? 今の女性は・・・」


 一瞬だったので記憶がおぼろげだったが、そこから彼女の出で立ちを思い出した。さらにそこに事前にフィフスから言われていた探し人の特徴を当てはめてみた。


 黒色で短髪の髪・・・

  はかなげな雰囲気・・・

   それうえあの顔は・・・


 言われた特徴に全て当てはまった。その事によってルーズは、


 ダダダダダダダダダダダダダダ・・・


 「お待ちくださいーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」


 豪速球でその女性に駆け寄った。


 「ヒィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」


 突然知らない男に回り込まれて飛び出て来たことに彼女は恐怖に震えた。


 「し、失礼しました。怪しい者ではございません。」

 『その台詞の時点でもう怪しいのですが・・・』


 冷や汗をかく彼女にルーズは続ける。


 「スミマセンが、貴方のお名前を聞かせてください。」


 唐突なことに困惑しながらも彼女は聞かれたことに素直に答えようとした。


 「わ、私は・・・ う・・・」


 「ウリーちゃーーーーん!! ドレスの採寸が出来たわよ~。ってあれ?」


 答えようとしたそのとき、そこにサドが現れた。彼女はルーズを見て眉をしかめる。


 「アンタは・・・ 確かアイツの執事の。」

 「ゲゲッ!! なぜ貴方がここに!?」

 「そういうアンタこそ何で!?」


 マズい状況と見たルーズはその場から逃げようとしたが、狭い廊下で会ったこともあり逃げ切れず、サドは彼を関節技で拘束した。


 「グホッ!! う、動けない・・・」

 「アンタが来たってことは当たりね。どうして彼女の名を聞くか話してもらうわよ!!」


 それからしばらくの時間、ルーズは身動きが取れなくなった。


_________________________________________


 とうとうパーティー開始の直前になった。主役であるフィフスは会場ど真ん中の黄金の席に座らされ、早々に居心地を悪く感じていた。

 彼の気持ちなど分かるはずもなく、来客が次々と会場に入り、各々で勝手に会話している。分かりやすい新規取引だ。人の無事など、このためのきっかけでしかないのだろう・・・


 『ケッ・・・ にしてもルーズはどこ行った? アイツが仕事をほっぽり出すなんて珍しいな。』


 その上もう一つフィフスには気になっていることがあった。来ている来客には若い貴族の令嬢が多くいたのだ。しかも彼女達は上辺では笑顔で会話しているが、時折チラチラとフィフスの方を見ていた。それも明らかに彼の後ろ盾に目が眩んでいる。


 近くに誰もいなくなると、彼は再びため息をついた。すると・・・


 「王子・・・ 王子!!」


 声の方を見ると、大怪我を受けてボロボロになっているルーズがそこにいた。


 「どうしたお前!? 掃除中に転んだか?」


 数刻前と全く姿の違う執事の様子にフィフスは汗をかいて心配した。


 「スミマセン、これは・・・」


 「こういうことよ。」


 ルーズの後ろから女の声が聞こえてきた。声の主は彼を掴んでいた手を退けて姿を見せた。


 「ゲゲッ!!」


 そこにいたのは先程まで瓜と共にいたはずのサドだった。


 「ゲゲッて何よ! せっかく久しぶりに会ったのに・・・」

 「何でここにいんだよ、来客の入り口はあっちだぞ。」

 「アタシがどこから入ろうと自由でしょ。それより・・・」


 ポイッとしたルーズが延びている中、サドはフィフスに迫る。


 「アンタの執事から聞いたわよ。探し人がいるんですって。」

 『ギクッ!! ルーズの奴・・・ 』

 「それが何か? そちらには関係無いでしょうが。」

 「さあ、それはどうかしら・・・」

 「あ?」


 サドが言っていることに意味が分かっていないフィフス。そんな彼らを気にせず、会場に現れた司会者はパーティーの進行を始めた。


 「会場の皆様、お食事の最中に失礼します。ここで、今回のパーティーの主役であるフィフス王子に、一曲踊っていただきたいと思います。」


 「ハッ!? んなこと一切聞いてねえぞ!!」

 「自分もです。」


 驚くフィフスの隣には、いつの間にか復活したルーズは涼しい顔で立っていた。フィフスも一瞬そっちに目が行ったが、とりあえず置いといてさっきの話に戻した。


 「つきましては、王子本人からの、お相手のご指名をと・・・」


 司会の一言によって会場中の来客の目の色が一気に変わった。


 「誰だよ、こんなこと考えた奴・・・」

 「どうやら上層部はかなり焦っているようですね。軍が役に立たない今、王家の権力にすがりたい家は多いでしょうから・・・」

 「なあ、ホントに逃げちゃダメ?」

 「ダメです。」

 「はぁ~ じゃあとっとと終わらせるか。」


 ルーズに諭されて気が進まないながらもフィフスは席から立ち上がって階段を降りた。会場広間の中心に行くと、令嬢達が次々と声をかけてくる。


 「フィフス王子、ここは是非とも私が。」

 「何言ってるよ!! 王子は私と踊るのよ!!」

 「私と踊るのですよね。幼い頃、一緒に遊んだんだから。」


 フィフスは声をかけてくる全員が金に目が眩んでいることはわかったが、そもそもこのイベント自体が嫌なので一番主張の強かった正面の女に声をかけようとした。しかし・・・


 パシッ!!


 その口をサドによって塞がれた。


 「モゴゴ!? 」

 「はーい、皆さん下がってくださ~い!! 実は相手はもう決まっていま~す!!

 『『ハア!!?』』


 フィフスはもちろんのこと、奥で聞いたルーズも白目をむいて驚いた。当然令嬢達も納得がいかない。


 「ちょっと!! それどういうことですか!!?」

 「いくら貴方の言うことでも、これはあまりに勝手が過ぎます!!」

 「今すぐ撤回を!!」


 そんな彼女らに、サドは不敵な笑みを見せた。


 「へえ、貴方たち、私に意見するの?」


 その一言で会場中が震え上がり、すぐに誰もが口を閉ざした。


 『おっそろし~・・・』

 『あ~あ、完全に場の空気があの方の自由になってしまった・・・』


 先程までの盛り上がりはどこへやら、完全に重い空気が流れていた。司会者もタジタジだ。動きを解放されたフィフスはサドに疑いかかりながら小声で聞いた。


 「それで、わざわざ空気を変えてまで俺と踊らせたい相手ってのは誰だ?」

 「まあまあそうカッカしないで~ そう疑わなくとももうすぐくるわよ。」


 悪巧みを考えていそうな笑顔のままでサドはフィフスを茶化す。


 ギ~~・・・


 正面扉の開く音が聞こえた。今更追加の入場者かと何の気なしにそこを見た。


 そこに、一人の女性が戸惑いながら会場に入り込んだ。場の雰囲気に慣れてないようだ。フィフスはその女性を一目見た途端、自身の目を見開いて彼女を凝視した。


 「あれは・・・」














 『うぅ・・・ とても綺麗ですけど慣れないです・・・』



 それはまさしく魔法使いの魔法にかかったシンデレラのような姿だった。光沢のある赤いドレスに、煌びやかな飾りがつけられている。そしてその胸元には、赤い魔石を加工して中心に詰めたブローチを付けている。



 光の反射で顔がよく見えなかったが、フィフスはなぜかそれが誰なのかが分かった。彼は無意識のうちに彼女の元に近づいた。


 『・・・ やっぱりな。』


 フィフスは近づいてハッキリと見えたドレスの彼女、瓜の顔を見てフッと笑った。


 「フィ、フィフスさん!!?」

 「よう、」


 パーティー客の視線を全て集めながら、二人は少しの間お互いの再会をただただ噛み締めていた。

<魔王国気まぐれ情報屋>


舞踏会におけるルーズの仕事


・来客の手配         ・城の飾り付けの段取り

・楽曲、楽団の準備      ・料理の献立、及び準備

・警備員の指揮        ・駐車場所の手配

・服の準備          ・ユニーの世話

・その他


これを一日でこなしました。


「ホントにブラックな職場です。」




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