第317話 火華の分身
周辺一帯から姿を現した火華の怪物立ちに囲まれ、完全に網の中心に追い込まれてしまったルーズと白兎。当然ながら余裕はありません。
「思っていたより多いな・・・」
「この感じだと、奥にある本体もかなり成長しているのでしょう。ここら一帯に木々が生えていないのも、養分を取られて枯らされたのなら説明が付きます。」
「説明はいい。それでコイツらの対処は?」
「とにかく倒す・・・ それだけです。」
二人が丁度正面を向いたとき、敵側が全員揃って走り、二人に襲いかかってきました。しかしこの状況下でも白兎はフッと笑い、ルーズに話の返事をしました。
「へえ・・・ 単純でいいや。」
次の瞬間、ルーズは魔術、白兎は事前に交換していた義手でそれぞれ攻撃を撃ち出し、襲ってきた刺客達に応戦しました。
「<疾風術 風刃手裏剣 乱撃ち>」
「<マシンガンハンド>」
突風と大きな銃声が響き渡り、安易に距離を詰めた怪物達がそれによって仕留められていきます。少女の姿をした分身体達はそれを見てすぐに距離を取ります。
マシンガンを止めた白兎は銃口を下に向けてルーズにまた語りかけます。
「意外と倒しやすいな。」
「人型になっているとはいえ、所詮は草花ですから。切断系統には点で弱いですし、防御力もさして高くはありません。」
「なるほど、俺達にとって相性がいいわけだ。」
短い会話を終えて再び白兎が銃口を相手に向けます。怪物達は軽快して数歩後退しましたが、少女達の方は全く調子が変わっていません。それどころか自分から前に出ると、二人に向かって話しかけてきました。
「フフッ・・・ 躊躇がないわね。花を大切にしない男はモテないわよ。」
「生憎俺達は顔がいいんでね。多少の粗相をしても許されるんだ。てことで無駄話をしてる時間もないんで、消し飛んで貰う。」
白兎は銃を発砲し、話しかけてきた少女に真正面から弾丸を飛ばしました。しかし彼女はこれを避ける動作をせず、同じく真正面から技を繰り出して応戦してきました。
「<火炎術 火流粉>」
少女は自身の口からオレンジ色の小さな粉を大量に吹き出しました。粉が銃弾に命中すると、大きさに反してその銃弾を軽々と溶かし、白兎本体に向かって飛んでいきます。
「ナッ!! 『<ホッパーレッグ>』」
危険を感知した白兎は瞬時に足を以前フィフスと瓜に見せたバッタの足に似たものに交換し、高くジャンプすることで粉を回避しました。地面に着地した白兎は足を元に戻すと、少し感じていた余裕を引っ込めて顎を引きます。
「銃弾を溶かす花粉か・・・ 独特な魔術だな・・・」
「火華の戦力については、僕達にも分かりきってないところがあります。十分に気をつけてください。」
「だからそれ先に言ってくれよ。」
目線を向けられた少女は二人に話しかけてきました。
「フフッ・・・ 花に群がる虫のようにすぐに罠にはまらかったのは褒めてあげるわ。」
「なんだ、喋れるんだ君。」
少女はフッと小さく口角を上げて話を続けます。
「『モシオ』よ、よろしく。」
「話が出来るのなら質問。君が町の人達に火華をばらまいた張本人かい?」
「そうであってそうでないってトコかしら。」
モシオが少し考えたような顔であざとく含みのある返事をすると、その隙に乗じて間合いに近付いた白兎が彼女の首を掴んで持ち上げた。
「ウガッ!!・・・」
「悪いね・・・ こっちはあんまり余裕がないんだ。知ってること、無理矢理にでも吐かせて貰うよ。」
しかし首根っこと掴まれて追い詰められている状況だというのに。モシオの態度からは余裕が一切崩れていません。このことに二人が違和感を覚えると、直後にルーズは自身の後ろから妙な音を聞き取ってその場から離れました。
「ッン!!」
ルーズがさっき自分が立っていた場所を振り返ると、側にあった木の幹が熱源に当たって溶かされるように消滅していき、倒れる木の後ろからモシオと同じ姿をした女性が現れた。
「これは・・・」
「へえ、擬態が出来る分身は一体だけじゃないって事か・・・」
「ふ~ん・・・ 片方は魔人、もう片方は人間だけど身体が変ね。何か仕込んでいるのかしら?」
「おおっと・・・ これは察しのいい・・・」
苦笑いをする白兎。そこに彼に捕まっていたモシオに手を腹に触れられた途端に強烈な熱を感じ、掴んでいた力を緩めて解放してしまった。
「アッツ!!」
途端に距離を離された白兎は改めて敵を警戒した。
「見てくれは人間でも中身は怪物か・・・ そういや奥山も同じような感じだったな・・・」
「それ本人に言ったら凍らされますよ。と、言っている余裕ないですね!!」
ルーズの方ももう一方の女性の花粉にうかつに技を出せず、回避するので精一杯になっていました。
『吐き出した途端に素速く振る花粉・・・ 下手に魔術を出しても周辺に粉を広げて下手をすれば白兎にも被害が出る。イヤに相性が悪い・・・』
中心部に再び追い込まれていく白兎とルーズ。お互いの背中がぶつかったところで二人の女性が笑いながら敢えてゆっくり近付いて来た。
「フフフ・・・ どうしたの?」
「これで終わり? これじゃあ、あの赤鬼も可愛そうね。」
「「ッン!!?」」
二人揃ってルーズの方にいた女性の言ったことに息を呑みました。
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