第30話 帰還パーティー
翌日、魔王国のとある屋敷の一室。一人の女性が、だらしなく服をはだけさせてベッドから起き上がります。
「ふぁ~・・・ よく寝ました・・・」
すると扉からノック音が聞こえて来ました。
コンコン・・・
「姫様、失礼します。」
「うぅ~ん・・・ 何でしょうか。」
「早く支度をしてください。本日は大事なパーティーですよ。」
「パーティー?」
彼女は眠い目をこすります。使用人はその声の調子を聞いて呆れながら続けます。
「弟様の帰還を記念した、昨日招待状が来ましたよ!!」
「・・・ あぁ!! あれですね。お待ちくださいませ。すぐに準備いたしますので。」
「お急ぎで頼みますよ。」
使用人は去って行きました。女は部屋で一人クスクス笑っています。
「待っていてくださいね、フィフス。」
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一晩ぐっすりと寝たことでスッカリ回復したフィフスは、軽やかな晴天の朝目覚めました。すぐ近くのかごの中で、ユニーはまだ鼻提灯を出して眠っています。
「安心な表情しやがって・・・ ま、一ヶ月くらいいなかったし、心配させちまったな。さてと、それはそれとして・・・」
とりあえず寝ているユニーについてはこのまま放置しておくことにし、フィフスは昨夜に頼んでおいたことを確認するために、ルーズの部屋に朝早く入った。しかし、そこには彼の姿はどこにもいませんでした。
「遅いな、やはり国中となるとアイツでもキツいか・・・ じゃあ今日こそ俺も捜索に・・・」
そう思って部屋を出ようとしますと、目についた所に貼り紙が一枚貼られていました。フィフスはそれを手に取りました。彼はこの時点で何か嫌な予感がしてきます。そしてその予想は当たりました。
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今夜、王子の帰還を記念した舞踏会を開くことになりました。
主役にいなくなられると困るので今日は城にこもっていてください。
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数秒の間の後、フィフスは部屋を出てそそくさと歩いて行き、あるものの前に立ち止まりました。そして・・・
「やな会合は全部上空の遙か彼方に捨てちゃえーーーーーーーーー!!!」
そう叫びながらフィフスは持っていた紙を丸めて目の前のゴミ箱に、対象物を軽く破壊する勢いで投げ捨てました。そして悪態をつきます。
「ふざけんじゃね~ぞ!!・・・ こっちは今緊急事態なんだよ。んなしょうもねえパーティーに出る時間はねえんだ。こうなったらとっとと城を出て雲隠れするしかねえ。」
そしてフィフスは近くの窓から脱出しようと、全力で向こうの木に向かって飛び出しました。が・・・
ビューーーーーー!!
「ダァーーーーーーー!!?」
突如吹き向けた風によってフィフスは城の壁にぶつかるまで強制的に戻されてしまいました。
「イテテ・・・ ルーズの野郎、あらかじめ仕掛けてやがったな。」
窓を出た所には既にルーズによる疾風術の罠が仕掛けられていました。すぐに他の脱出口をと動いた彼でしたが、時既に遅く城内の使用人に見つかってしまい、すぐに拘束されてしまいました。
「王子!! 何をしているのですか?」
「今夜は大切なパーティーですよ。遊んでいないで今から支度です。」
「ふざけんなよあのクソ執事ーーーーー!!」
フィフスは抵抗する間もなく連れ去られていきました。
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「ハックション!! うぅ・・・ 今頃文句を言っているところでしょうか・・・ 」
その頃のルーズ、フィフスに言われた特徴を元に瓜を探しています。しかし小さいとはいえ探す範囲が国中となると捜索に難航していました。それも対象が人間なのでよそを頼るわけにもいかず、彼は一人で行っていたのです。
「ハァ・・・ 全く、こんなブラック労働を笑顔で受ける身になって欲しいですね・・・」
彼は気付いていませんでした。自分のすぐ横の屋敷の中にお目当ての彼女がいることを・・・
そのとき瓜はテーブルについて用意された朝食をモグモグと食べていました。その様子をサドに真正面から見られていささか落ち着きません。
「あ、あの~・・・」
「ああ、気にしないで。そのままそのまま。」
そのままと言われてもどうしようかと悩む瓜。そんな味のしない食事を進めていますと、近くの窓からコンコンと音が聞こえてきました。瓜はそれが気になって首を回すと、窓の外に昨日と同じ鳥がジイッと見てきていました。
『あ、また。』
「あ、朝刊の時間ね。待ってて、すぐ取ってくるわ。」
サドは立ち上がり、窓を開けて鳥を迎え入れます。すると鳥は背中につけていた朝刊新聞をサドに渡し、すぐに窓から飛び去っていきました。サドが再び机に座って新聞を広げます。
「ア~、やっぱり一面に出てるわね~・・・」
「?」
「あ、こっちの話だから。貴方も読む?」
「あ、いえ・・・ 文字、読めない・・・ので。」
「あらそうなの? このご時世に珍しいわね。」
瓜にはその文字は読めなかったので映っている写真のことぐらいしか理解できなかったが、さっきまでと打って変わってサドが新聞に熱中する様子を見てその内容が気になっていました。
しかしそのときの彼女はほんの興味本位程度で見ていたのでしたが、次に視界に入った写真によってそんなレベルでは済まなくなりました。
『これって、フィフスさん!?』
そこには過去に撮られたらしきフィフスの写真がデカデカと映っていたのです。
『なぜフィフスさんがこんな所に? もしかして行方不明から見つかったからでしょうか。良かったです・・・』
いつの間にか瓜は食事を進めていた手を止めてその写真をじいっと見ています。新聞に熱中していたサドだったが、少ししてそんな瓜の顔を見ました。
『ん? あの子・・・』
そのときの瓜は自分では気付いていなかったが、サドから見てどこか安心し、目元から涙が潤んでいる表情だった。その記事には、『行方不明の魔王子の帰還』という見出しが書かれていました。
『何であの子がこの写真に反応を?』
その姿を見て、サドはとある疑問を思い浮かべていました。
『突如行方不明から帰ってきた魔王子・・・ それと同じタイミングにこの国に現れた人間の少女・・・ もしかして・・・』
「サドさん、支度が整いました。」
昨日と同じようにキンズが部屋に入りそう言うと、丁度朝食を終わらせたサドは席から立ち上がり、軽く瓜に言いました。
「それじゃあアタシ、今日用事があって帰れないから、家の中で自由に過ごしてちょうだいな。」
「ハイッ!? よ、用事?」
話を出されたことで我に返り、ビックリした瓜。
「昨日あるパーティーの招待券がきてね。せっかくだから行こうとね。」
「パーティー・・・」
「でも一枚しかないし、人間のウリーちゃんには荷が重いから今回は留守番してもらって良いかな?」
「い、良いですよ。」
声をかけられたことに何となく答えた瓜は、またすぐに新聞に映っているフィフスの写真を見ながら放心しています。サドはそんな彼女を心配に思いました。
「行きますよ。着付けに時間がかかるんですし。」
「・・・」
「ひ・・・ サドさん? どうしました?」
どうしても彼女のことが気になってしまったサドは、いつの間にかこう思っていました。
『もしこの子を魔王子を会わせたらどうなるんだろう。たんまりお礼金もらえたりして。』
目の色が変わったサドを見てキンズはまさかと思います。そしてそれはすぐに当たりました。
「ウリーちゃん、支度しなさい!」
「?」
「な、何言ってるんですかサドさん!?」
「せっかくなんだし皆で行きましょ。」
ウインクを決めて言うサド。即座にキンズは彼女を連れ出し、少し離れた廊下にて小声で話し出しました。
「この方は人間なのですよ。連れて行ってバレたら、貴方も捕まりますよ。」
「変装道具があるって言ったでしょ。それに会場は客でごった返してるんだし、一人入ったところでわかんないわよ。」
「彼女の分の招待券はありませんが・・・」
「そこはアタシの招待いて言ったらあの場は万事解決よ~ 文句言う奴はいないわ。さ、時間はないの、急いであの子の分もドレスを用意するわよ~!!」
サドは駆け足で戻ってきた。
「じゃあウリーちゃん、支度してね~」
「は、はあ・・・」
かくして、訳も分からないまま瓜もこの二人と共にそのパーティーに行くこととなったのです。それが「魔王子の帰還パーティー」だと知らずに・・・
渡された小道具で吸血鬼に変装し、二人と共に馬車に乗り込む瓜。使用人達に身動きを封じられながらパーティーの支度を急がされるフィフス。二人はこの時同じことを考えていました。
『フィフスさん・・・』
『瓜・・・』
くれよ・・・』
『『無事でいて
ください・・・』
<魔王国気まぐれ情報屋>
<疾風術 風膜>
ルーズが事前に魔王城の各窓に仕掛けておいた術。見えない膜状の結界を作り、それに触れた途端そこに強風を発生させて相手を吹き飛ばす技。威力は術士が調整可能。
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