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第315話 思わぬ手がかり

 所変わって一人で動いているグレシア。白兎やルーズと同じく行方不明事件について調べている彼女は、被害があった現場の近くの人から情報を集めていましたが、成果は芳しくありませんでした。


 「そうですか・・・」


 「悪いねえ、お嬢さん。」


 「いえいえ、ありがとうございます。」


 話を聞いてくれた老人にお礼を言って別れた彼女は、表情を崩して重くなしました。


 『やっぱりだけど収穫は無しか・・・ ここまで人感戦術で無理となると、後はルーズの五感に頼るしかないかな・・・』


 合間の休憩を取るために近くの自動販売機で小さいペットボトルのお茶を買って封を開け、一口飲み込みます。


 「全く、こんなんじゃいつまで経っても話にならないわ。せめて現物の火華が見つかればいいんだけど・・・」


 グレシアは遅々として改善へ進まない状況に少々苛立ちながら別の場所を当たることにしました。



______________________



 と戦闘員組がそれぞれ必死に動いている中、こんなことになっているとはつゆ知らず、フィフスの誕生日パーティーに向けて今だ準備している人物が一人。しかし彼はその事についてもやる気がありません。


 暗く沈んだ顔にトレードマークのメガネ。人混みに混じると見つけるのに時間がかかる地味な風貌。ある意味分かりやすく彼を示していました。


 「ハァ・・・ 何で俺がこんなこと・・・」


 その男、最近全然と言えるほど出番のなかった石導平次は、近くに火地がいると聞こえそうな音量でフィフスへの愚痴をこぼしながら渡されたメモ用紙を見て町中を歩いています。


 「今回は町田さんからの頼みって事で仕方なく引き受けたはいいが・・・」


 平次はメモ用紙を握り潰して地面に叩きつけ、アテノナイ怒りの声を恥ずかしげもなく出しました。


 「なんで俺があの赤鬼の誕生日なんて祝わなきゃいけないんだあぁ!!! 俺が今までアイツのせいでどれだけ町田さんとの交流を引き裂かれたか!! 挙げ句人を勝手に暴走したバスに放り込む奴に恨みはあれど恩なんてないぞ!!」


 何度もメモを足で踏みつけにし、疲れて息が上がったことで肩を落とす平次。端から見ればただの一人コントでしょう。そんな彼ですが、一通り怒ると今度は落ち込み出しました。


 「ハァ・・・ 俺って本当に好かれてないよなあ・・・ 町田さんも友達としか見てくれないし、契約魔人は仕事しないし、美照は最近俺に素っ気なくなってるし~・・・


 ハァ・・・ いっそ一回家に帰らないで見るか? そうすればアイツらも俺の存在の大切さに気付いてくれるか? いや、それこそないか・・・」


 自分で自分を卑下して更に落ち込みながら彼がトボトボと足を進めていくと、ふと近くで足を止めました。そして彼は顔を上げ、鼻をヒクヒクと動かします。何かの香りが鼻に入ってきたようです。


 「クンクン・・・ なんだか爽やかないい匂いだなぁ・・・」


 匂いに導かれるままに平次が方向転換して足を運ぶと、見慣れない小さな花屋に到着しました。


 「あれ? こんな所に花屋さんなんてあったっけ?」


 どこかの誰かと同じようなフレーズを言って興味本位に平次が見せに近付くと、店の奥にいた店員の若い女性が姿を現して彼に向かって明るい笑顔で声をかけます。


 「あら、いらっしゃいませ!!」


 近頃誰からも優しい声をかけられた平次はコロッとほだされてそのままその女性に店の中に案内され、流されるままに小さめの花束を買わされました。


 「こちらでしたら、女性の方がとても喜ばれると思いますよ~・・・」


 「ま、マジで!?・・・ それって・・・ 好きな人にも・・・」


 ゴクリと喉を鳴らす平次。店員は彼の心境を察してジイッと見ながら商売トークをします。


 「はい、そうですよ~・・・ これを上げれば、貴方の大好きな人も思いのままです。」


 「お、思いのまま!!・・・」


 平次の頭の中に良からぬ妄想が流れ出します。



______________________



 その中では無駄に花束を渡して瓜がそれを受け取ってときめいている様子です。


 「これを・・・」


 「へ、平次君・・・ ありがとう!!」


 ときめいた彼女を胸に抱き寄せ、高笑いをしながら周囲にハートが浮かんだヘンテコな道を二人で歩いて行きました。



______________________



 「グヘへへへ・・・」


 周囲から見て気持ちの悪い顔をしながら店先の人通りの少ない道を歩く平次。しかし我に返るとその花束の香りに気持ちが晴れやかになります。


 「にしてもいい匂いだな・・・ これなら町田さんも・・・」


 とまた妄想に入りかけたそのとき、ふと彼の耳に今度は聞き慣れた声が入ってきました。


 「平次君?」


 「ん?」


 平次が顔を上げると、目の前には今から会おうとしていた女性、瓜の姿がありました。


 「ま、町田さん!? 何でここに?・・・」


 驚く平次、しかしすぐに何故か安心したような気持ちになって瓜にフラッと近付いたそのとき・・・


 「アアァ!!!」


 「ハエッ!!?」


 平次は突然横から入り込んできた大声に驚かされて瞬きをすると、目の前にいたはずの瓜の姿が影も形もなくなっていました。


 「あ、あれ? 町田さん?・・・」


 キョロキョロと横を見回す平次は、右に走って自分の元に来るグレシアの姿を見つけました。


 「グレシア。」


 すると彼女は平次に距離を詰めた途端に花束の花を自分に向けて確認しました。


 「やっぱり!・・・ アンタ!! これを何処で!!?」


 「えぇ・・・ ここから近い花屋だけど・・・」


 「今すぐ案内して!! 走って!!」


 「ハァ!!?」


 グレシアに思わぬ手がかりが手に入った瞬間でした。

<魔王国気まぐれ情報屋>


しれっと入っていた花屋からの嫌み


花束に入っていた花


・アネモネ


 花言葉 儚い恋



・ごぼう


 花言葉 いじめないで




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