第312話 火華
夜の人のいない公園。その場に集まった全員から警戒や殺気のこもった視線を集中して受けながらも、カオスの態度は一切変わる様子はなかった。
「そうカッカしないでくれよ。ここに呼んだのは戦うためじゃないんだから。じゃないと僕一人でぼ~っと座ってるわけないだろう?」
「普通ならな。だがお前の場合はいつでもそうだろ。」
「信用ないなぁ~・・・ そこの魔女っ子は優しくしてくれたのに・・・」
「アタシだって信じてないわよ。でも、アンタがわざわざ目の前に顔を出してここまで律儀に待ってくれてるって事を見ると、話くらいは聞いてもいいわよ。」
「あれ? 僕今の今まで試されてた感じ? ハハハ! こっわいねえ・・・」
「さっさと本題に入ってくれる? こっちも暇じゃないの。」
グレシアに急かされてカオスは仮面の奥で一度しかめた顔をしてから戻し、彼等に向けて本題の話を始めました。
「まず、最近巷で話題になっている事件については耳に入っているかな?」
カオスからの唐突な質問に面々のほとんどが首を傾げる中、信は素速く正解を口にしました。
「例の行方不明事件のことかな?」
「正解。流石大手企業の幹部。情報に敏感だねえ。」
瓜達はそんなこと聞き覚えがなかった。故にすぐに信に対して詳しく聞きたくなり、彼に問いかけます。
「行方不明事件? それって一体・・・」
「近頃、町のあちこちで突然人が神隠しに遭う事件が頻発したんだ。世間体のために表向きには失踪で片付けられていたんだけど、どうにもその数が以上でね。エデンの方で調査していたんだよ。」
「その黒幕について僕は知っている・・・ と言ったら?」
信の目が大きく開き、距離を近付かないまま話を続けます。
「もったいぶらずに教えてもらえるかな? わざわざ君からここに来たって事は、そっちにとっても相当切羽詰まっているんだろ?」
楽しくしていたところを折られたカオスは声のトーンが暗いものに変わり、さらっと気になっていたことの答えを話しました。
「『火華』だよ。あぁ、この世界では『古椿』とか呼ばれてるんだっけ?」
カオスが言ったことに魔人であるグレシアとルーズ、そしてサードの表情が緊迫したもので固まりました。瓜は子供の頃に見た妖怪としての古椿を思い出します。
「古椿って・・・ 確か、木に咲いた花が、美しい女性に変身して、人を攫うとか・・・」
「ああ、それで本体の木にまで近付けてそれに取り込ませてしまうとか。」
「そう、この世界ではそう伝わっているらしいね。でも真実は違う。もっとたちの悪いものだよ。」
魔人の三人は顎を引いて全く余裕をなくした様子でカオスの言いたいことの補足を瓜達に説明しました。
「火華は、その木に花を咲かすときから落とし、それを人の姿にさせる。そこまでは瓜が言った事と同じよ。でも・・・」
「決定的な違いが一つあります。かつて僕らのいた世界では、とある言い伝えがあったのです。それを求めた人間や魔人達が我先にと火華を取り合ったとも言われています。」
「我先に求めた!?」
「ええ、それこそクスリの効果が切れて禁断症状に陥った奴みたいにね・・・」
「そんな自滅行為に走るほどなんて、何があったんだ?」
鈴音は驚いたことに口がこぼれてしまいます。周りもこれに続けて白兎が質問を飛ばすと、グレシアとルーズがカオスに警戒を残しながらも振り返って真剣な眼差しを向けながら口を開きました。
「会えるらしいんですよ・・・ 大切な・・・」
「既に亡くなった人にね・・・」
「ホンット、フィフスにとってはこれ以上なく引っかかりやすい罠ね・・・」
周りにいる話を聞いた人物達、特に思い当たる節があった瓜は身体が固まって拳を強く握り締めてしまいます。
「まさか・・・」
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そして瓜に心配されている当のフィフス。彼は今だ入り込んだ森の中から帰っていない。それもそのはず、この空間は未だに空に明るい太陽が照らされ、その下でそよ風が吹いていたのです。
この異様な空間の中で彼は草原の中心の切り株に座り込み、そこから楽しそうに当たりを駆け回っている友人の少女、シーデラの様子を楽しそうに見ていました。
シーデラは座ったまま動こうとしまいフィフスを見かねて近付き、彼の両手を握って無理矢理立たせました。
「フィフス、どうせなら一緒に遊びましょ。」
「おいおい・・・ そんな無理矢理・・・」
「やるったらやるの! じゃないとつまらないから!!」
押し負けたフィフスはシーデラに引っ張られるまま左手を離しながらも右手で引っ張る彼女と一緒になって草原を駆け回りました。不思議と彼からは次第に笑顔がこぼれ出します。
「ハハハ! ハハハハ・・・」
「フフッ! ハハハハ!!・・・」
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そして所戻って瓜達。そこで説明の中カオスが言ったことに、彼女達日本人は全員衝撃を受けることになりました。
「そんな・・・」
「残念だけどこれは真実だよ。火華のは何惑わされたものは全員もれなく・・・
・・・もうそこから逃れることは出来なくなる。」
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