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第310話 花の香りと少女の影

 フィフスが入った花屋の中には、異世界出身の彼にはあまりなじみのない花がたくさんあり、一つ一つを店員の女性に説明して貰います。この世界に住む彼女にとっては、こんな有名な花のことも知らないのかと驚いたことでしょう。


 「これがヒマワリ、こっちが、マリーゴールドって言うのよ。」


 「ほ~う・・・ 色々種類が多くて覚えきれるか・・・」


 「アハハ・・・ まあ興味のある人しか覚えきれないだろうねえ・・・」


 苦笑いをする彼女にフィフスは本命の質問を飛ばします。


 「すまないが、同じ年の女友達へのプレゼントに花束が欲しいんだが、お勧めのはないか?」


 「女性へのプレゼント、ですか・・・ アッ! それなら・・・」


 彼女は何か思い立ってフィフスから離れ、店の中をうろちょろしながらいくつかの花を手にとっていきます。最後に束にして綺麗に飾り付けをしてからその花束をフィフスに持ってきました。


 「こんな感じでどうでしょう? 私なりに、若い女性が好きな物を選んでみました。」


 受け取ったフィフスは並べられている花々を吟味します。どれも彼にはよく分からないものでしたが、その中でも一つ、奥に入れられた赤い花でした。


 「これは・・・ なんか一つだけ目立って見えるな・・・」


 フィフスの感想に店員は嬉しそうにしながらペラペラと語り始めます。


 「お兄さんお花のこと知らないのにお目が高いですね。そのお花、ウチの一番の自慢商品なんです!! 他の花屋さんでも中々流通していなくて・・・ ホント、小さな花屋であるウチにハ珍しいことなんですよ^・・・」


 「てことは高いのか?・・・」


 フィフスがいやそうなジト目で店員を見ると、その質問を待っていましたかとばかりに彼女はエプロンのポケットの中から電卓を取り出して素速く計算し、出て来た数字を彼に自慢げに見せました。


 「それが今回! なんとこのお値段です!!」


 「オオォ!!・・・」


 その値段は、花を買い慣れていないフィフスから見ても確かに安いと言わざる負えない値段でした。


 「開店記念の割引価格です! 今がチャンスですよぉ~?」


 「う、うぅむ・・・」


 わざとらしく商品を意識させるような言い回しをする店員。いやらしい商談だと思いつつも、事実この花束に惹かれていたフィフスは彼女の臨むとおりのままその花束を購入しました。


 「ありがとうございましたぁ~!! また来てくださいねぇ!!」

 「アァ・・・ ハハハ・・・」


 店の外に出て見送りに両手を元気よく大きく振る店員。そんな彼女の姿を見てフィフスは大げさに感じながら軽く左手を振って返事をし、前に首を戻します。


 見事に商売に乗せられた事を自覚するフィフスですが、これはこれでいい縁と考えてまだウリが帰っていないであろう家に向かって行きました。



______________________



 しばらく歩いてから改めて見てみると、こういうことに素人な彼でも分かるほど確かに綺麗な花束。仄かに匂う香りも良く、このところトラブル続きだった彼すらも気を落ち着かせていきます。


 「いいな、これ・・・」


 匂いを気に入り、歩いている中で何度も嗅いでしまいます。そこで十字路にさしかかり、角に足を踏み入れたそのとき・・・


 「フフッ・・・」

 「ッン!?・・・」


 彼の左側から微かな女性の笑い声と、その道を過ぎ去る少女の姿が見えた。普通であればただの日常の風景。しかしその遠目に見えた光景に顔ごと目を向けました。その先には当然誰の姿もありませんでしたが、彼の視線はそこから離れません。


 「今のは・・・」


 どうにも胸騒ぎを感じたフィフスは帰路を離れて少女の通っていった道に入りました。少女の進んでいった道を追いかける形で小走りをすると、しばらくしてからまた彼女の姿を見ました。今度は離れた道を横切ってまた姿を消します。


 さっきよりもよりハッキリ少女の姿を見たフィフスは目を開いて小走りよりはやくして走り出します。走り続け、何度か姿を見ればその度にどんどん彼の表情は真剣なものになっていきます。


 そしてまたしても姿を見せた少女にフィフスは花束のことを忘れて手から落とし、右手を伸ばして叫びます。


 「待てっ!!・・・」


 しかし少女はフィフスの制止を聞かずにまた姿を消します。フィフスは今度こそ見失わないように彼女を追いかけると、いつの間にか町中を離れて周りが木々で囲まれた空間に来ていました。流石の彼も翻弄されるままに走り続けたことで息が上がり、死角だらけのこの場所を歩いて行きます。


 「ここは・・・ 何処まで走ってきちまったんだ俺は・・・」


 自分の変な状況に疑問を持ちつつも、フィフスは前に進むのを止めようとはしません。それだけ彼女のことが気になっていたのです。


 木々を向けたフィフスは、一面広がる草原に到着しました。まるで木々に隠されるように置かれたその場所は、かつて彼が少年だった頃に見た草原にどこか似ています。


 「・・・」


 これがどうにも偶然の一致にはとても思えないフィフスですが、どういう訳か警戒心も持てずに更に前に足を踏み出します。そして草原の中心にまで歩いたとき、突然彼を強風が吹き抜け、後ろの木々の群れが揺れました。


 髪が乱れたフィフスが瞬きをすると、今度はハッキリと自分の耳に声が聞こえてきました。













 「フィフス・・・」














 自分の名前が呼ぶ声。聞き覚えのあるこの声にフィフスがゆっくりと振り返ります。そんなはずがない、そう心の中で思っていても、身体は理想を求めていました。そしてその理想は、目の前に形となって現れました。








 「シーデラ・・・」







 彼のもとに現れた少女。少年時代に出会い、彼の初めての友達になった人。そして二年前、獄炎鬼の事件で帰らぬ人になったはずの人、シーデラでした。


 「フフッ・・・ 久しぶり、フィフス。」


 シーデラは彼が知る優しい笑顔を向けてきました。



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