第308話 あれから五ヶ月
ガサッ! ガサッ!!・・・
日も完全に落ち、街灯の存在もなく、月明かり以外に地面を照らす物がない深夜とある林の中。その場に生えている雑草を音を立てて踏みながら、三人の人物が一方向に向かって歩いていました。
その先頭を歩いていた男が足を止めると、目の前、と言うより足下に見えたものに反応の声を出します。
「これですか? 僕を遊園地から連れ出した理由は?」
「ええ、見ての通りよ。」
その場に近付くと月明かりに照らされるカオス、セレン、フログの三人。三人が今いるのは林のまっただ中ですが、そこら辺周辺には何故か木の一本もはえておらず、当たりの草ですら枯れ果てて隠れているはずの地面がありのままにさらけ出されています。
この異常な光景。そしてその少し先に、何かが潜り込んだような小さな穴を発見します。カオスが興味本位に穴を覗いていると、後ろのフログが口を開きました。
「厄介なことになった。このままでは・・・」
何か含みのある言い分をするフログ。穴を覗いていたカオスは立ち上がり、クルッと後ろを向いて彼の話をつなぎます。
「これは確かに面倒なことになっちゃいましたね・・・
このままじゃ・・・
・・・軽くこの世界が滅んじゃいますね。」
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所変わり、サラサラとそよ風が吹き込み、それにに当たって揺れる草が多い茂る明るい草原。何処か浮世離れした空気が流れるこの場所の中心に、一組の少年少女がいました。
少女は楽しそうな顔をしながら隣の少年の方に顔を向けて話しかけます。
「ねえフィフス、フィフスは幽霊って信じる?」
「なんだよ、突然変な話して・・・」
少年フィフスは唐突に変な内容の話を振られたことで困惑してしまいます。隣の少女シーデラはこれを面白そうに見ながら顔を彼に近付け、話の続きをします。
「だって! 仮に私か貴方のどっちかが死んじゃっても、もし幽霊になれたらまた会えるかもしれないのよ!?」
「え~・・・ 何だその不気味な話、付けられているみたいで嫌だな・・・」
話を続けて更に嫌な顔になるフィフス。シーデラはそれに首を傾げます。
「そう? 私は素敵だと思うけどなぁ・・・」
「何でだよ・・・」
「そりゃあ、こんな世界だし、私達のように仲良く出来る人も少ないから・・・ もし私が殺されてもって・・・」
「止めろよ!!・・・」
「ッン!!・・・」
フィフスはシーデラの話を途中で止め、真剣な目をして彼女を見ます。
「そんなことはさせない!! お前は、俺が守るから・・・」
「フィフス・・・」
話の止まった二人の間に、強い風が吹き抜けていったとき、不意フスは夢が途切れて目を覚ましました。寝ぼけた顔をしながら寝室を出ると、朝の身支度を整えてリビングに向かいました。部屋には先に起床していた瓜が何やら出かける準備をしています。ユニーも彼女の左肩に乗っかっています。
「お、おはよう。」
「お、おはようございます・・・」
瓜は何処か素っ気なさそうにして挨拶をすると、そのままフィフスの右隣を通り過ぎて玄関に向かって行きます。彼は彼女の態度が気になり、後ろを振り返って声をかけました。
「どうした? やけに急いでるな。」
「サードさんに会いに・・・ 前から約束していたので、それでは・・・」
「オイッ!!」
フィフスの制止の声も聞かず、瓜は家を出て行きました。取り残されたフィフスは一度彼女にテレパシーを送ります。
『どうしたんだよ? えらく素っ気なくして・・・』
しかししばらく待ってみても彼女からの返答はありません。明らかな無視のされように彼は目がッサメながらも一つ心当たりがあることを思い出します。
『もしかして・・・ こないだの件のことで怒ってるのか?』
フィフスが思い浮かんだのは、この前の美照とのデートのことです。色々あって結局彼が瓜から貰ったブレスレットをなくしていたこと、そしてそれが人の手に渡っていたことを知られてしまいました。
あの時は魔人騒ぎで詳しくは話しませんでしたが、せっかくの贈り物をそんな扱いにされれば、誰だって怒っても無理はありません。
「マズいなぁ・・・ どうしたものか・・・」
独り言を呟きながらリビングの中をグルグルと徘徊するフィフス。意図的ではないにしろ、自分がこんな事態を招いたのは事実です。しばらく歩いて左足の小指を机の脚にぶつけたことでようやく徘徊が止まりました。
「イッタッ!!!・・・」
左足を抱えて片足で跳ぶフィフス。一人の部屋の中で間抜けな醜態をさらすと、その態勢のままこう考えてしまいます。
「これもバチってやつなのかねぇ・・・」
しかしそんな彼の目線が、たまたま目の前にあったカレンダーに行きました。ふと今日の日にちを見ると、思い返したことがあります。
「五月の二十三日・・・ 俺がこの世界に来てもう五ヶ月も経ったのか・・・」
左足の痛みが引いて足を降ろし、カレンダーに近付くフィフス。この世界に来てすぐの頃は全く読めなかった文字がすらすらと読めていることに時の流れを感じつつ、瓜との最初の出会いを思い出しました。
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バラバラバラバラバラバラバラバラ!!
「ギーーーーーーーヤーーーーーーーーー!! ・・・ カハッ・・・」
「あ、あの・・・ 大丈夫ですか?」
「テメー、一体俺に何しやがった!?」
「ヒッ!! な、何も・・・」
「声が小さい!!」
「す、すみません・・・」
「だから、お前の願いを叶えてやるっつてんだ!! コミュ障女にまともな友達、わんさか作ってやる!!!」
「い、良いんですか?」
「帰る方法が見つかるまでの間だけだ。それでならやってやる・・・ それまでは俺が、おまえの友達になってやる!!」
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『あれから色々あったもんだな・・・』
フィフスはいつの間にか機嫌が直ると、両手をポンと叩いて閃いた。
「そうだ! せっかくだしなんかアイツにプレゼントでも買ってやるか。少しは気も落ち着かせてくれるかもだしな。」
ということでさっそく外に出かけたフィフス。この先に起こる事に、彼はまだ気付いていませんでした。
今回から新長篇のスタートです!! 今回の話はこれまで何度か後書きで示唆されながらも描かれなかった事について触れられます。
物語上でもかなり重要な話になりますので長い目で楽しんでもらえると嬉しいです!!
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